第5話 『あま子とクレーンゲーム』
ふと立ち寄ったゲームセンター。明るい音楽、まばゆいライト、ずらりと並ぶクレーンゲームだった。
「わー、いっぱいぬいぐるみがあります」
店内で目を輝かせ歩くあま子、モニターゲームは苦手だがこうやってキラキラした店内を見るのは好きだった。ゲームセンターには色々な景品のゲームが目白押し。
綺麗なフィギュアや、コラボしたキャラクターのヌイグルミもあれば定番の人気マスコット。中にはお菓子などの景品もある。最近のクレーンゲームは多様で見ていてるだけでも面白い。
ふと、あま子はある台の前で足を止めた。
透明なアクリルの中に、並んだぬいぐるみ。その中にいたとあるヌイグルミに視線を引かれたからだ。
「……この子」
それは、前にネットで見て「かわいい」と思ったキャラクターだった。もう店舗では取り扱いが少ないと聞いていたから、まさかの再会だった。
しかもそのぬいぐるみは、角がもう落ちかけていた。ほんの少し、もう一押しで落ちそうな、絶妙なポジション。
「……これは、取れるかも……です……!」
手持ちの小銭は100円玉は7枚。とりあえず挑戦してみる。100円玉を一枚取り出し入れる。すると明るい音楽と共にゲーム開始の合図。あま子は狙いを定める。
「お願い!」
だがクレーンは惜しくも掴みきれない。でも、動いた。ほんのわずかに、角度が変わって、さらに落ちやすくなった。あま子の目は真剣になった。
それから、百円、もう百円と投入。あま子自信もコツを掴み、努力と希望を少しずつ積み重ねていった。
「ようやくここまで来ました」
ターゲットは、落下ポストのすぐとなり。アームのコツは既に掴んだ。あま子は心の中でガッツポーズ。
あと1回。
絶対に次でいける。
確信に近い手応え。
「……でも、もう100円玉が……」
慌てて両替機へと駆け寄る。両替機は混んでいなかったけれど、小銭を受け取る手が微かに震えた。
「……よし!」
そして戻ってきた、その瞬間。
――いなかった。
ガラスの小屋の中は、既にもぬけの殻。
ぬいぐるみは、台の外。ふと気がつくと、すぐ隣で誰かがニコニコと写真を撮っていた。
その人の手元に、さっきのあの子が、ちょこんと座っていた。
「………………あ」
声が、出なかった。
その人に悪気はなかったはずだ。
「落ちかけてたから、ラッキー!」くらいの、偶然の喜びだったのだろう。
あま子は、ただ、その場に立ち尽くしていた。
両替したばかりの100円玉が、ポケットの中で音を立てた。空になった台のガラス越しに、自分のぼやけた顔が映っていた。手の中の硬貨が、やけに重く感じた。
「……もう、すこし……だったのに……」
呟いて、でも泣きはしなかった。
たぶんこれは、“そういう運命だった”だけ。
「あの子も嬉しそうですし、これで良かったんです」
不憫ではあった。けどそのヌイグルミを幸せそうに抱く女性を見ると、自然と笑顔になる。悔しさや悲しさがなかったと言えば嘘になる。
手の中の硬貨がカシャリと音を立てた。
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