第15話 リィナの求めた物
登校するにはまだ時間が早かったので、イオリが着いた時、まだ教室には誰も来ていなかった。
「調べ物をするにはちょうどいいか。これってリィナの仕事じゃなかったの……? まあいいけど」
イオリは一人、窓際の自分の席に着き、ナナカから渡された銀のケースをそっと取り出してじっと見つめた。手のひらほどの大きさ。ナナカが「開けない方がいい」と言ったそれ。
「……私の予想が正しければこれって多分あれだけど、まさかナナカが取ってくるなんて。どんなコネを使ったんだろう……?」
彼女のネットワークはよく分からないが、お店の付き合いで大人との繋がりがあるのは何となく予想が出来る。
「ナナカは故郷でもおじさん達からのウケが良かったからなあ……しっかりしてるというか、大人びているというか」
低く呟きながら、イオリはケースをくるりと回し、底の構造や、接合部の細工を確かめていく。鍵は掛かっていないようだが、中を見れば引き返せなくなる予感がした。
「開けたら感知される可能性があるし、AIで調べさせるのも止めた方がいいかな。これをこのままリィナに渡していいものか……」
危険な予感はしたが、ナナカはおそらくこれの中身をもう見たはずだ。ならば自分もとケースの取り出し口に手を掛けて、ほんの少し口が開いた、その時――。
「ちょっと! なんで先に行っちゃうのよ!」
ぱたぱたと小走りに駆け込んできたリィナが、イオリの机にバン! と強く手を叩きつけて覗き込んできた。
「うわっ、リィナ!」
「待っててくれたっていいじゃない。どうせここでこんな風に暇そうにしているぐらいなら」
「リィナの邪魔になると悪いかと思って」
イオリはそう答えると、そっと机の横に置いていた弁当と一緒に銀のケースをリィナに差し出した。
「はい。ナナカからのお弁当。あと、これも君に渡そうと思って」
「……なに、これ?」
リィナが銀のケースを手に取る。重くはない、むしろ軽い。妙な気配を感じたのか彼女は眉をひそめた。
「開けてみて」
「開けてみてって……中は何なの?」
「多分リィナの欲しがってる物だと思う」
「イオリから私に……ここで開けていいのかしら」
リィナもさすがに警戒を感じたのか、クラスメイトの増え始めた教室の様子を伺った。
「騒ぎになってもリィナと一緒なら構わないよ」
「わ、私は……」
リィナは銀のケースを見つめながら、少し黙り込み、
「これは後で人のいない場所で開けましょう」
そう結論付けてイオリの席の隣に座ると、ケースをそっと机の中にしまって、鞄から自分の勉強道具を出した。まだ始業まで少し時間がある。
「さすがにリィナもそれが何なのか分かったのかな?」
「あんたからの気持ちのこもったプレゼントでしょ? 大切に開けさせてもらうわよ」
「いや、それはナナカから渡してくれって頼まれたんだけど」
ガン! 教室に控えめだが大きな音が鳴り響く。
リィナがなぜか教室の自分の机に頭を強く打ち付けていた。
「い、お、り~~~!」
「え? 私何か言った?」
「そういうところよ!」
どういうところなのかさっぱり分からないイオリだった。
休み時間、イオリとリィナは人の気配のない屋上までやってきた。吹き抜ける風が制服の裾を揺らす。リィナはドアを閉めてから、ゆっくりと歩いて中央で立ち止まった。
手に出したのは、イオリから受け取った銀のケース。
「では、これよりナナカさんからのプレゼントの開封の儀を始めまーす」
「リィナ、何だか投げやりになってない?」
「分かっているのよ。私が何も期待しちゃダメな事ぐらい……」
あれはリィナにとっても大切な物のはずだとイオリは予測しているのだが……
彼女には何かイオリには想像も付かないような悲壮な使命感があるようだった。
それは何なのか。知る為にもイオリはリィナの手元から目を離さない。
「やっぱりそれ、開ける前にAIで調べようか? それか魔法で結界を張るか」
「必要ないわ。ナナカさんが私に渡してきたものなんでしょ。そんな大層な物が入っているわけ……」
リィナはそれを開けようとして……その手を止めた。確認するようにイオリに尋ねてくる。
「ナナカさんは私とイオリの関係をどう思ってるのかしら。私の事を邪魔だと思ってるんじゃ……」
「それは無いと思うよ。ナナカは面倒見が良いし、リィナの事も面倒を見るように言われてるんだ」
「そう、あの方にとって私なんてとるに足りない子供に過ぎないのね」
「あの方……?」
リィナの態度が気になるが、今はそれよりもケースだ。彼女はもう気持ちを決めたようだった。
「じゃあ、これはもう開けちゃいましょう。あのナナカさんが私に何を贈りたいのか。中に何が入っているのか見てやろうじゃない」
リィナは覚悟を決めたように小声で呟き、指先でロック部分をなぞる。魔法や科学を使うまでもなく、それは指で押しただけで金属の音とともにカチリと蓋が開いた。
「……っ!」
中にあったのは、一枚の薄く、虹色に輝く板だった。
不思議な反射を見せるそれは、金属とも結晶ともつかない――ただ、触れた指先にかすかな熱と、鼓動のようなものを伝えてきた。
「これ……何……? 私の魔法と何か反応している……?」
「多分だけど、それはリィナの探していた“カギ”なんじゃないかな」
「カギ……? これが……?」
「気になるならAIを使って調べさせてみようか」
リィナは少し考え、
「じゃあ、お願いしようかしら」
そう頼んできた。もうそれが何なのか彼女にも分かっているだろうに、まるでこの世界で最後のお願いをするかのように。
イオリは少しの寂しさを感じながらも快く応じるのだった。
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