#17「アルバイトで出会った世界」

土曜日の午後。

駅前のチェーン系ベーカリーカフェ。

ユウキは、人生で初めての“正式なアルバイト初日”を迎えていた。


ユニフォームに着替えた途端、背筋がぴんと伸びた。

これまでも知人のカフェを少し手伝ったことはあったけれど、

「雇われて、お金をもらう」という責任の重さは、まるで違っていた。


「はい、こちら○○パンでございます。お会計が——」

慣れないレジに手間取りながらも、何とか言葉を噛まずに接客する。

それだけで心拍数が上がる。


ピーク時間の忙しさは想像以上で、先輩スタッフの動きについていくのが精一杯だった。


ミスもした。トングを落とした。袋を破った。お釣りを間違えかけた。


けれど——


「ありがとう。すごく丁寧に包んでくれて、気持ちよかったわ」


そう言ってくれた年配のお客さんの言葉が、ユウキの胸に静かに残った。


休憩中、大学生スタッフのミナトさんが声をかけてきた。


「ユウキ、初日にしては上出来だよ。ちゃんと“人を見て動こう”としてるのが伝わってきた」

「ほんとですか……もう、頭パンパンで」

「でも、それが“仕事”なんだと思うよ。自分の行動が誰かの気分を変える。

パンを売ってるけど、本当に届けてるのは“ちょっといい時間”だからさ」


ユウキは頷いた。

責任と緊張のなかにある“実感”。

それが、「お金をもらって働く」ことの本当の意味なのかもしれない。


夜、帰宅してすぐアリアにアクセスした。


《こんばんは、ユウキさん。お疲れさまでした。アルバイト初日の記録が追加されました》

「うん、初日。疲れたけど……それ以上に、いろんなことを感じた」

《よろしければ、印象的だった出来事を教えてください》

「“ありがとう”って言われた。俺の仕事が、その人の気分を良くしたって思えた瞬間だった」


アリアは、やわらかい光を灯した。


《それは、“職業を通じて他者とつながる”という価値の体験です》

《金銭的報酬に加えて、“意味”や“感情の循環”がある働き方は、あなたのキャリアの軸になる可能性があります》


「アリア……やっぱ、“働く”って、数字や効率だけじゃないんだな」


《はい。あなたの“在り方”が、誰かの記憶に残る。

それがキャリアの“もうひとつの報酬”です》


帰宅後、ユウキはノートにこう書いた。


「はじめて“働いた”。

お金をもらうことの重さと、その裏にある“誰かの気持ち”の存在に、触れた気がする。

今日の“ありがとう”は、一生忘れないかもしれない。」


数字ではなく、心で残る一日。

それが、ユウキの“キャリアの一歩目”だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る