兵制
なぜ、キシリアは近衛にサイコミュMSを配備しなかったのか?
ジークアクス第11話。シャリア・ブル中佐のキケロガがエグザベ少尉率いるギャン部隊(キシリアの近衛)と交戦。
少尉がNT(ニュータイプ)なのは随分前に明らかになっていた。だが、中佐の台詞で全員がNTの部隊とわかり、意外に感じた事。
NT部隊にサイコミュ搭載MSを配備しなかったのはなぜか?
確かにそれはジオンと連邦の間で交わされた禁止条約兵器に分類される。だが、戦後に搭載機のジークアクスが開発された点からも保有自体はグレーゾーンのはず。
また、ギャンをサイコミュ搭載型に改修する手もあったろう。
ところが、ビットを使う事無く、近接格闘用のランスにシールドミサイルもサイコミュと連動している様な描写はない。それは今回の中佐との戦闘、第10話でのビグザム戦も同じだ。
多少、NTの反応速度に合わせてカスタムチューンされた可能性はあるが、恐らくあれらは基本的には通常仕様とさほど変わらない。サイコミュはNTの能力を最大限に引き出す兵器。なぜ、それを避けたのか?そこには、キシリアの思想的、政治的な判断が関わっていたのではないか?
■近衛兵の役割
まず、一般的な近衛兵について整理しておく。求められる主な役割と資質は以下の三点。
①要人警護国王などの要人を警護する為、戦いの技量に優れているのは必須条件とも言える。
②権威の象徴見せる軍隊とも呼ばれ、国王の権威を世に示す象徴でもある。一見、華美に見える姿形もその為に必要な事。
③高い忠誠心国王を守る最後の盾である為、絶対に裏切らない信頼性の高さは欠かせない。
▼キシリアの側に侍る近衛兵
前述の近衛兵の役割の観点から、エグザベ少尉を筆頭とした近衛部隊の人員を検分する。
①要人警護NTであれば戦闘力という点では申し分ない。危機の察知と即応も高い次元で期待出来る。
②権威の象徴NTによる新しい時代を創る。権威であると共に、キシリアの政治的スタンスの表明に寄与。ジオン・ダイクンのニュータイプ論を信奉するスペースノイドの支持を得やすくなる。
③高い忠誠心エグザベ少尉には、ルウム戦役でサイド5を追われた難民、という経歴がある。キシリアは、そういった先行き不安な者の中からNT適性のある者を見出し庇護。裏切らない子飼いの近衛兵を育成した可能性がある。
【まとめ】
NT編成の近衛部隊は、実戦力と政略面を両立する極めて有益な判断だったと言える。
ならば、それらの効果をより高める意味でサイコミュ搭載MSを配備すべきと思える。だが、そうならなかったのはなぜだろうか?
近衛兵に求められるのは、武力以上に揺るがぬ忠誠心だ。だが、サイコミュ兵器はNT同士で敵との相互理解を可能にしてしまう。それはつまり、忠誠の根幹を揺るがすリスクをはらんでいたからだと想像する。
■近衛部隊とサイコミュ兵器の相性
NT同士は感応波で会話も出来る存在。まさに、第11話のシャリアとエグザベ、シャアとシュウジのやり取りがそれだ。その特性こそが、近衛という役割とそぐわなかった。
▼理解し合う危険性
『機動戦士ガンダム』、アムロのガンダムとララァのエルメスの戦闘時。2人は惹かれ合った。シャアが割って入らねば、どうなったかわからないほどに。
『機動戦士Zガンダム』。強化人間ならでの精神の不安定さもあるが、カミーユに感化されたフォウは寝返りを起こした。
『機動戦士ZZガンダム』。精神不安定の要素が随分と解消された強化人間プルツー。ジュドーとの交流で造反。
サイコミュによる感応派の増幅がもたらす影響なのかは未知数だ。しかし、開発研究データに触れたキシリアならば、サイコミュを介したNT同士の接触が心変わりを引き起こす可能性がある程度くらいは掴んでいただろう。
身辺警護に就く近衛隊で絶対にその様な事があってはならない。その観点から、用心を重ねてサイコミュ搭載MSの配備は見送られた。
■ギャンが選ばれた理由
第4話、ゲルググ(ガンダムのマスプロタイプ)はまだ配備中なので払い下げられていない、との話があった。
ポイントは、まだ配備中。つまり、機体描写はないが後継機となるジオンの最新鋭量産機は存在する。だが、それはNT近衛部隊には配備されなかった。
本来のゲルググとほぼ同時期に開発された、一世代前のギャンが敢えて選ばれた事になる。その理由はいくつか考えられる。
①ギレンによる最新鋭機の配備制限(政治的対立)キシリアとの対立が進む中、出来るだけ最新鋭機が渡らない様にギレンが画策した可能性は充分にある。キシリアの選択肢は狭められた。
②高潔さを示す騎士風のシルエット(戦略的イメージ)陰でギレン暗殺の陰謀を巡らせ、ゼクノヴァの兵器利用を模索していたキシリア。謀多き策士とのイメージを払拭する意味で、身近に置く近衛に高潔なイメージを付与しようとしたイメージ戦略。
③ツィマット社への配慮(兵站・企業政治)正史(『機動戦士ガンダム』)で、ガンダムへの刺客として黒い三連星を差し向けた際、ツィマット社製のドムを配備した。また、腹心のマ・クベはやはり同社のギャンを乗機としていた。恐らく、競合他社のジオニック社と強い結び付きのあるギレン。それに対抗する意味でキシリアはツィマット社を重視した。
④ビグザムバスターとしての期待(戦術的合理性)対立が決定的となった時、ギレンが多数配備したビグザムを速やかに排除する必要がある。Iフィールドによりビーム攻撃は無効、ならば高機動で拡散メガ粒子砲を潜り抜け、接近戦で仕留められるギャンは対抗兵器と成り得る。
■ギャンとサイコミュの相性
配備MSが伝えられた時、NTの近衛兵らは驚いただろう。そして、ならば、ギャンにサイコミュを搭載すれば?と疑問が湧くのは自然な流れだ。
だが、その問いを打ち消す材料は用意されていた。
▼サイコミュ搭載型ギャンの抱える課題
そもそもサイコミュ搭載機として開発されていないギャンをそれに改修出来たのか?その答えが、出来た、となるのは明白。サイコミュ兵器という概念すら存在しなかたった連邦製のガンダムでも、奪取後には改修してサイコミュ搭載型に出来た。ならば、充分にギャンも可能だったはずだからだ。
だが、搭載出来ない以下の様な説明が成されたと考える。
▼ギャンの基本的な運用法
スラスタ―(推進機)技術に定評がある軍事メーカー、ツィマット社が開発したギャン。それを活かして肉薄し高い格闘戦能力で敵機を押し込むのが基本的な運用。逆に言えば、あまり射撃戦が得意な機体ではない。
ハクジ(刺突、射撃、推進器を兼ねた装備)により撃ち合いにも対応は出来るが、槍自体に推進器を付ける発想から、やはり高機動を活かした刺突がメインである。
▼デットウェイトが危惧されるビット
近接格闘に重きを置く機体にビットを装備した場合、得意ではない射撃戦能力を補うメリットが生じる。
しかし、ビットは熱核反応炉(MSと同じ動力源)と推進剤を積んでいる為、装備するだけで機体の総重量が増す。
宇宙空間で重さそのものは問題とならない。だが『F=ma(力=質量×加速度)』の法則に従えば、同じ力(推力)で動かすなら、重い物体は加速が鈍くなる。つまり、高速接近、緊急回避といったギャン本来の強みが損なわれてしまう。
ギャンの真価は一瞬の加速による白兵戦突破力にある。その中で、たった1秒の遅れですら致命的なタイムラグとなる。その様なデメリットを生じさせてまで射撃戦能力を向上させる意味はない。
【最後に】
NTとサイコミュの組み合わせは最高の戦力だ。だからこそ、寝返りが起きた時には最大の脅威となる。そのリスクを踏まえたと思われるキシリアの非凡さが伺える。
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