ジークアクス空想戦史

戦略的愚考、ソロモン落としにみる連邦の宇宙戦略座礁

「あえて言おう、カスであると」

　ギレン閣下の言葉を借りれば、この作戦はそう評する他ない。

　以前、『ジオン公国は本当に勝ったと言えるのか？』という考察でも触れた事。ソロモン攻略に成功したのであれば、反攻に転じた連邦軍の宇宙戦序盤は順調と言える。そもそもの歴史と近いと思える。

　そもそも、順調な戦局ならばソロモンは活用すべき拠点であり、破壊するなど論外だ。それにも関わらず、その様な愚行が起きてしまった。

　――以下、検証してみたい。

　■そもそもの歴史における連邦艦隊の行軍

　ここを抑えると、ソロモン落しの戦略的価値の低さがよくわかる。

　▼チェンバロ作戦

　・地球から打ち上げられた艦隊によるソロモン攻略作戦。・艦隊とモビルスーツ隊による正攻法の攻撃に以下を加える。・ソーラ・システム（鏡巨大鏡を用い、太陽光で対象を焼く兵器）を投入。・ソロモン制圧後、星一号作戦に移行予定。

　▼星一号作戦

　・奪取したソロモンを拠点にジオン本国のあるサイド3コロニー群へ侵攻。・しかし、戦況変化による現場判断。・ジオン宇宙要塞ア・バオア・クーに攻撃目標変更。

　この2作戦は密接に連動している。ソロモンは単なる通過点ではなく、戦略的拠点として活用する前提だった。

　■ソロモンを拠点とする戦略的価値

　①艦の補修整備拠点

　・ジオンが使っていた宇宙港設備をそのまま活用出来る。・宇宙艦は些細な小傷が致命傷につながる可能性をはらんでいる為、　細やかな補修が必要不可欠　※酸素漏れ、等

　②後方支援拠点

　・地球から打ち上げる武器弾薬、食糧などを集積する兵站拠点。・直接、輸送船団を前線へ送るリスクを回避する。

　③ジオン各拠点への睨み

　・宇宙要塞ア・バオア・クー、月面都市グラナダ、本国サイド3への圧力。

　④最後の砦

　・星一号作戦失敗時、残存戦力を集結させ反撃の拠点とする。

　これらの価値が必要なくなったからソロモンを落としたのだと思われる。つまり、以後どこかのタイミングで予定通りの星一号作戦の実行が危ぶまれる事態に陥る。

　■ジークアクスにおける宇宙戦展開

　恐らくソロモン陥落まではほぼ同等だったとして。変わってくるのは以下からだ。

　▼赤いガンダムによるソロモン強襲

　・ビット（意思で遠隔操作出来る）で一方的に連邦艦を叩くシャア。・1基あたりの射撃回数は10回程度で稼働限界あり。・総合的には、それほど重篤なダメージはあたえられない。

　▼マ・クベ艦隊によるルナツー攻略

　乾坤一擲のルナツー攻略と説明された。ジオンにとって、のるかそるかの一大作戦という事だ。

　以下、かなり憶測が含まれる。

　そもそもの歴史の先にある『逆襲のシャア』でのネオジオン（総帥シャア）の軍事行動をヒントとする。

　ネオジオン艦隊はルナツーを攻撃し、基地に保管されていた核兵器を奪取。核汚染を撒き散らす材料としてアクシズ（惑星基地）に搬入した上で、地球へ落下させようとした。

　時代と状況が違うので確証はないが、マ・クベ艦隊の目標も核兵器奪取にあったのでないだろうか。

【推測】最終的には、地球へのルナツー落とし、にあったのではないか。決行したかは不明だ。だがこの類は、やるかもしれない、と思わせるだけでも充分過ぎるほどの効果を発揮する。

　つまり、ルナツーが襲われた段階で連邦のプランは大きく狂った。

　▼2つの軍事行動の関連性

　前述の通り。ソロモン駐留艦隊にはジオンの動向に睨みを利かす役割もある。察知すれば追撃部隊を出すだろう。

　稼働時間に限界があるシャアによるソロモン強襲は連邦艦隊を釘付けにする為の陽動作戦だったのでないか。タイミングを合わせて一定時間稼げれば充分だった。

　■ルナツー失陥後の連邦艦隊の動向

　ルナツーが攻撃を受けた段階で大混乱に陥ったと予想される。・連邦政府、議員から対応を急ぐ様に軍へ突き上げ・強行突破でジオン本国攻撃を急ぐ必要性が生じる

【推測】ルナツーを奪われ、速度を優先した強行軍を強いられた可能性が高い。

　その様な強行軍の先に待ち構えていたのが、ソーラ・レイ（コロニーを改造した巨大レーザー砲）だったのではないだろうか。

　そもそもの歴史では一撃で連邦艦隊の1/3を薙ぎ払った。

　ジークアクスの世界線における連邦艦隊の心境を仮想すれば、急ぎたい。

　それを利用して、最大限にソーラ・レイの破壊効果を望める射線に誘導する事は可能だと思われる。ジークアクスの世界線では、そもそもの歴史以上の損害をあたえる事に成功した可能性があったのではないか。

　■ソロモン落しが決行された理由

　大損害を被った連邦艦隊に残された次の手はほとんどなかった。その中の一つがグラナダへのソロモン落しだったと思われる。・ジオンにソロモンを奪還されたくないので最悪の場合は破壊したい・ジオンは地球を人質に、連邦はグラナダを人質に、の構図で停戦交渉

　ジオンとしても出来れば失いたくない拠点。やると脅せば、交渉の機会は得られたかもしれないと推測する。

　結果、脅しのつもりが何らかの事情で実行に移ってしまった。

　また、本当はジオン本国を狙ったものの軌道制御に失敗しての結果である可能性も捨てきれない。