第18話 カレン・イーグル
「クックックックックッ! あのドットの息子、ワシの覇気をモロに受けても、涼しい顔で受け流しておったわい!」
テッタ母子達が部屋から出て行った後、イーグル辺境伯は、そこに残った腹心である執事と、楽しそうに話をしている。
「ですな。流石は、氷の微笑エリス様の孫で、閃光ドットの息子でございます」
「ガッハッハッハッハッ! ワシもついてるわい! まさか瞬間移動スキルを得るであろう、ドットの息子を手の内に置く事が出来るとは!
王に、殺すなと直談判したかいもあったというものじゃわい!」
「それも全て、閣下の優しさでございましょう」
「ワシが優しい人間に見えるのか?」
「私は、そう思いますが?」
「カッカッカッカッ! ならば、お前の目も、まだまだ節穴じゃわい!」
そういうと、イーグル辺境伯は、嬉しそうに樽のエールを飲み干し、
「ドットの息子テッタを、カレンの護衛となるよう英才教育せよ!
奴が得るであろう瞬間移動スキルは、ワシの可愛いカレンを守るにうってつけじゃわい!」
どうやら、執事の目は、イーグル辺境伯を心酔するあまり、盲目になってたようである。イーグル辺境伯は、ただの孫バカで間違い無かった。
ーーー
俺と母さんは、イーグル辺境伯の広い御屋敷の中にある、離れに住む事となった。
勿論、エリスとサヤも一緒である。
サヤはあくまでホログラムで、本体の辺境惑星観察宇宙船は空の上なので、一緒に住んでると言えるか分からないけど。
まあ、ハッキリ言うといつも通りのメンバーである。
部屋も少し調度品とかが豪華になっただけで、部屋の広さも、少し広くなっただけだしね。
ただ、俺だけは生活が少し変わった事がある。この家の一人娘、イーグル辺境伯の孫であるカレン・イーグルの護衛騎士になるように命令されたのだ。
それは、所謂、イーグル辺境伯家の騎士になったという事で、準貴族になった事を意味する。
日本人の感覚だと、武将に仕える武士みたいな感覚だ。
織田家に例えると、前田利家や、柴田勝家、木下藤吉郎みたいな感じである。
まあ、そこからみんな領地を得て、一国一城令の領主になった訳なので、俺にもそういう道筋が出来たという訳だ。
イーグル辺境伯の寄子の家でも、前のうちのような元騎士爵の家なんかだと、逆にイーグル辺境伯家に近い家臣団の家の方が、領地内では家格が上という逆転が現象が起こったりもするらしい。
イーグル辺境伯の家臣団の中には、王家から爵位を貰ってない、イーグル辺境伯の親戚の家とかも有るからね。
そんな感じで、俺が護衛騎士になったカレン様との顔合わせをする事になったんだが、
「アンタが、私が尊敬するエリス様の孫のテッタだっけ?
私は、お爺様のように強い奴以外認めなんだからね!
例え、氷の微笑エリス様の孫だと言ったて、弱かったら認めないんだから!」
そんな訳で、俺は、イーグル辺境伯の孫のカレン様と、イキナリ試合形式の決闘をする事になってしまった。
しかも、孫バカのイーグル辺境伯まで見にくるというから、俺はもしかして手加減しないといけないのか?
カレン様は、俺より2歳年上という事で、俺より背も高くて強そうではあるが、所詮は女で、イーグル辺境伯家のお姫様なのだ。
しかも、俺は、5歳の時から、エリスによる訳の分からない特訓で、帰らずの森の、結構深層まで行って魔物を倒してるしね。
俺の基本ウェポンは弓矢だと言っても、カレン様に負ける気などないのである。
「カッカッカッカッカッ!カレンは、ワシに似てとても強いぞ! テッタ、舐めてかかると、大怪我するぞ!」
イーグル辺境伯に至っては、まさか孫娘が負けるなど、毛ほども思っていない有様である。
木刀での試合なのだが、打ちどころが悪いと死んでしまうから、どうやって手加減してるかと真剣に考えてると、
「うおりゃー!! 隙あり!」
まさか、試合開始を合図をする前に、狂犬カレンが襲いかかってきた。
「エッ……嘘だろ……てっ、速い!!」
ボコッ!
俺は、まだ木刀も構えてなかったので、思いっきり頭をカチ割られて、そして気を失ってしまったのであった。
そして、気付いた時には、俺は母さんの膝の上。
「あらあら、まあまあ、テッタったら、相手が女の子だからって、油断しちゃったでしょ! 駄目よ。人を見た目で判断しちゃ」
俺の母さんは、見た目、のほほんとしてるが、こういう所は厳しいのだ。
というか、人を見る目だけはしっかりしている。
レアスキル瞬間移動スキルを持ってた、俺の父さんにスグ惚れちゃうとことか、エリスの事をすぐに義母さんと受け入れちゃうとことか、父さんが死んだ後、実家に頼らずに、真っ直ぐ寄親であったイーグル辺境伯に頼る所とか、ポイントポイントで、誰に付くのが一番正しいのかを瞬時に見定め、必ず勝ち馬に正しく乗るし。
もし、母さんが、すぐに実家であるサラス帝国に帰ろうとしてたら、多分だが、カララム王国側の暗殺者に、俺も母さんも、サラス帝国に着く前に殺されてたと、サヤも言っていた。
それほど、俺が得るであろう瞬間移動スキルは、カララム王国、サラス帝国両国にとって恐ろしいスキルだと思われてるのである。
因みに、そうなっていたら、俺が殺される前に、サヤが惑星観察宇宙船のレーザー砲で、暗殺者を瞬時に蒸発させるつもりだったから、何も問題無かったと言ってたけど。
「ごめん。母さん。俺、カレン様の事、舐めてたよ……」
「分かればいいのよ。だけど、お母さん、テッタが負けたの凄く悔しかったから、次はちゃんと本気を出してやっつけるのよ!
ただし、人がたくさん居る所では、絶対にカレンちゃんを負かさないように!
カレンちゃん、プライドが高そうだから、きっと泣いちゃうと思うしね!」
まさかの母親からの、やっつけろ命令。そんな事言われたら、俺はカレン様を、絶対にやっつけるしかない。
しかも、誰も居ない所で、密かにやっつけるミッション付き。普段はのほほんとしてるけど、以外と負けん気が強い。
まあ、人前で恥をかかせて、ざまぁさせるのも、俺の趣味じゃないし、兎に角、もう一度、カレン様に俺の実力を見せつけてやらないといけない。
なので、
「カレン様! もう一度、僕と勝負して下さい!」
俺はもう一度、カレン様の元に行き、お願いしたのである。
「ん?エリスさんの孫のテッタだっけ? アンタのような弱い奴は、私の護衛騎士首よ!
それに、例え尊敬するエリス様の孫で、少しくらい顔がカッコ良くても、私にとっては弱っちい男は、醜悪なゴブリンと一緒だから!
男は、強くて甲斐がある男と結婚しなさいと、お爺様にいつも言われてるからね!
本当に、アンタは、雑魚臭が強烈過ぎるから、私に近付かないで!」
だけれども、カレン様は、俺の事を雑魚ゴブリン扱い……
なんか、とんでもなく悔しい。
確かに、舐めてて不意打ちを食らってしまったが、本来の俺はそんなに弱くないのである。
「畜生! 絶対に、俺の実力をカレンに分からせてやるからな!」
俺は、もう悔しくて悔しくて、ストレス発散の為に、サヤに愚痴を聞いてもらうしかない。
だけれども、当のサヤは、
「これは、『恋愛イチャイチャキングダム』に出てこないイベントですよ!ついに、マスターのモブ無双が始まるのですね!」
なんか知らんが、サヤだけは勝手に盛り上がっていたのだった。
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