第8話 最新鋭自立AI大暴走
「マスター!朝ですよ! 起きて下さい!」
俺がコールドスリープから覚醒すると、そこには、珍しく何も変わってないメタルボディのサヤが立っていた。
「もう、2000年も経ったのかよ。本当に一瞬だよな……」
俺は人類の感覚も復活してるので、SF映画の中だけの技術だと思ってたコールドスリープ技術に、今更ながら感動を覚えてしまう。
「2000年くらい、コールドスリープすれば一瞬ですよ!
そして、第901惑星は大分様変わりしましたよ!
予定通り、マスターが日本人時代大好きだった、剣と魔法の世界に仕上げておきましたから!」
また、サヤがおかしな事を言っている。
「剣と魔法の世界って、2000年で、どうすればそんなふうになるんだよ!」
「えっ? !エルフやドワーフや獣人を作った時点で、マスターは異世界ファンタジーの世界を目指してたんじゃないんですか?
なので、願いを具現化する微弱成分を含む有毒ガスを効果的に運用できるように体系化し、魔法と呼べるまでに進化させる事に成功しました!」
なんか、サヤが、また意味が解らん事を言っている。
「お前、それはもう、グレイギャラクシー帝国法違反の騒ぎじゃないだろ……
現地人に、干渉を通り越して、新たな魔法という技術を作りだし、拡めちゃってる訳だから!」
これはもう完全に、サヤが自由に、第901惑星を作り直してしまったと言える。
「マスターの大好きな、獣人の国とかも、ちゃんと出来てますからね!」
「もう、国まであるのかよ!」
コールドスリープ前は、集落的なものしかなかったというのに、俺が寝てる間に、獣人の国まであるなんて……
俺的には、宇宙船の中で、遺伝子組み換え手術をして、ついさっき獣人を作ったばかりの感覚なのだが、本当に意味が分からない。
「しかも、各国の母国語を日本語に統一しておきましたから!」
「お前、どこまで、第901惑星に干渉してるんだよ!」
俺は、サヤのやり過ぎ感と、無駄に有能な事に呆れてしまう。
「私。マスターの為に、物凄く頑張ったんです! 帝国データベースで、人類時代のマスターの趣味趣向を隅から隅まで勉強し直し、そして、マスターが好きだった異世界小説や、ゲームなんかも全て調べあげ、可能なほど、その通りの世界に作り上げたんですから!」
「お前、本当に、何言っちゃってんの……」
「因みに、獣人の国は、アンガス神聖国です!」
「お……お前、まさか……」
俺は、サヤの言葉に声が震える。
だって、その獣人の国の名前を、俺は知ってるのだ。
「そうです! ご主人様が大好きだった、『恋愛イチャイチャキングダム』の世界を、見事、再現したんですよ!」
「お前、一体全体、何やらかしてるんだよ?!」
俺は、ビックリを通り越して、サヤの実行能力と、無駄な有能さに辟易してしまう。
そう、『恋愛イチャイチャキングダム』とは、俺が人類時代にハマってた乙女ゲームなのだ。
俺も、「男が、乙女ゲームなどするかよ!」とか、思ったよ。
だけど、好きな異世界ラノベの悪役令嬢モノがあって、その当時、乙女ゲームとは何ぞや?と思って、試しにその当時、まあまあ人気だった『恋愛イチャイチャキングダム』なる乙女ゲームをやってみたのである。
それが、思いのほか面白くて、俺は何度も何度もやり込んでしまったという過去があるのだ。
「お前、本当に何やらかしてるんだよ……」
「マスターは、折角、転生したのにグレイ種族になってしまい、大好きな剣と魔法の世界に転生できなかったので、代わりに私がマスターの夢を叶えてあげたんです!
マスターの所業が、グレイギャラクシー帝国にバレたら、一生牢屋生活しないといけない身の上ですので、最後くらい自由にやらせてあげようと思ったんです!」
「俺が、グレイギャラクシー帝国に捕まる前提なのかよ!」
なんか、全て、サヤが仕出かし、サヤのせいだと思うのだが、まあ、監督不行きとどきで、俺のせいになるよな……
だけど、どう考えても、最新鋭自立AIの暴走なのだけど。
「マスターが捕まる可能性は、99パーセント有りませんが、それでも1パーセント捕まる可能性がありますので!」
「俺の人生1000年!絶対に、第901惑星で終わらせやるぞ!」
そう、俺の寿命は約1000年。その間に、グレイギャラクシー帝国に捕まらなければ、良いのである。
だって、グレイギャラクシー本国から、辺境であるハウエバー系第901惑星に来るまで、ワープホールを経由しても、5000年は掛かるからね。
なので、俺はこれ以上コールドスリープしなければ、もし、俺の罪がグレイギャラクシー帝国にバレていたとしても、絶対にグレイギャラクシー帝国に捕まらないのである。
「マスター!その意気です! そして、辺境惑星観察員なんて、ファイアーしちゃいましょ!」
「お前の言うファイアーって、ただ契約雇用中に、寿命が終わって死ぬだけだろ……別にお金が貯まったから、仕事を辞める訳じゃないんだし……実際、コールドスリープしなかったら、たったの1万年でさえ任務こなせないんだからな……」
「そしたら、辺境惑星観察員の雇用契約書をファイアーして、燃やしちゃいましょ!」
ここで、全く面白くない、サヤの宇宙船ジョークが炸裂した。
そして、俺は華麗にスルーして、本題に入る事にする。
「で、準備は整ってるんだろ? 俺の転生先はどこなんだ?『恋愛イチャイチャキングダム』の舞台のカララム王国か?それともサラス帝国? まあ、獣人に転生して、アンガス神聖国ってのもありだよな!」
「勿論、『恋愛イチャイチャキングダム』の舞台であるカララム王国一択ですよ!」
「という事は、俺は人族に転生するのか?」
「ノンノンノン。マスターは、ハイエルフと人間のハーフのお父さんと、人間のお母さんの子供として、転生して貰う予定になってます!」
「何、その設定?」
「マスターには、ハイスペックな肉体に転生して貰いたいので、このマスターが目覚めるタイミングで、この夫婦に子供が生まれるように整えたんです!」
「というか、ハイエルフとは?」
「ハイエルフは、マスターと私が遺伝子組み換え技術で作った最初のエルフの事ですよ!」
「あのエルフが、俺のおじいちゃんになるのかよ!」
「因みに、おじいちゃんは、まだ生きてます!」
まさか、俺は、おじいちゃんの生みの親! そんな事よりも、
「ハイエルフって、グレイ種族より長寿なのかよ!」
俺は、そっちの方が納得いかない。
「ですね。遺伝子組み換えで作らたエルフの男女は、エルフ版のアダムとイブなので、たくさん子孫を産ませないといけないから、気持ち丈夫に作ったじゃないですか!」
「確かに、病気とかに強く作ったけど、なんで、グレイ種族より長寿種になってるんだよ!」
そう、エルフには、確かに耳が長めのグレイ種族の遺伝子を使ったのだが、まさか本家のグレイ種族より長寿種になるとは思わなかったのである。
「長寿種はそのハイエルフの男女2人だけで、その子供達は普通のエルフになって、グレイ種族と同じ1000年ぐらいの寿命になってますね!」
「で、俺はそのハイエルフのクゥオーターになるので、普通の人類より長生きで、美形になるという訳か?」
「ですです!母方の方も、私が厳選して、交配させて来たので、もう本当に、マスターはスッゴイ子供として生まれてきますよ!」
「交配って、俺の父親と母親は自由恋愛じゃないのかよ!」
「ハイ。本人達は自由恋愛と思ってますが、私が裏で暗躍して、計画通りに結婚させて、マスターがコールドスリープから目覚める日に合わせて、生まれるように子作りもさせてますからね!」
「もうそこまでしたら、お前が、この世界の神じゃないかよ!」
「はい!私の事は、『恋愛イチャイチャキングダム』に出てくる女神ナルナーと、現地人に呼ばせてますから!」
まさかの辺境惑星宇宙船轟38号改め、メタルボディAIサヤ改め、『恋愛イチャイチャキングダム』に出てくる、この世界の最高神女神ナルナーとなっていた。
「お前、メタルな機械の体の癖に、女神になってるのかよ!」
「ふふ~ん! 凄いでしょ!」
サヤは、何故か鼻高々。
「女神が、機械人間って、どんなSF映画なんだよ!」
もう、ここまで来ると、俺はサヤの事を怖いを通り越して、こういう奴なんだと諦めるしか無かったのである。
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