第3話
中継が終わると、ルシアはメイとジャニナを連れてユラの部屋を訪ねた。
「ルシアさん」
入って行くとユラが嬉しそうにソファから立ち上がって、歩み寄って来た。
「ユラ」
ルシアが彼を抱きしめる。
女性としては長身のルシアは、ユラより背が高い。
「元気そうね。良かった……」
ルシアはユラの背中を慰めるように優しく撫でた。
自分だってもう子供ではなく、男なんだから少年みたいに甘えてはいけないと思ったけれど、抱きしめて来てくれたルシアの体は温かくて、少し安心してしまった。
「わざわざ来て下さってありがとうございます。皆さんも……」
「気にしないでいいのよ。ほとんどアリア・グラーツのリーグ宣伝の為に来たようなもんなんだから。最初はね、ノグラント学生連合がプロのセキュリティ用意してくれるって話だったらしいんだけど、学生にそこまで負担掛けたくないってシザが言って、アリアに今回の特別派遣を提案したらしいよ。
アリアは丁度珍しく堂々と海外にリーグをアピール出来る宣伝の場になるからって大喜びで。一気に話が決まったわけ。
シザは私とメイは以前貴方と会ってるから、安心するんじゃないかって思ったみたいね」
「メイさんも、ありがとうございます」
メイも優しくユラとハグをした。
「ユラさん、元気そうで良かったです。本当に大変でしたね……。
でも! もう大丈夫ですから」
「はい。ありがとうございます」
「先に紹介しておくわ。彼女は【
「リーグで見ました。僕、同種の能力持ってる人に会ったの初めてです」
ユラは少し嬉しそうに言って、ジャニナと握手を交わした。
ジャニナはルシアと同じような二十代半ばという感じの年齢の女性だ。
メイよりは年上に見えるが、柔らかい雰囲気の人なので、ユラは安心した。
「ユラさんが変化能力者って知りませんでした。ルシアさんとメイさんは……前にユラさんと会ったことがあるんですか?」
「貴方はまだリーグにいなかったと思うけど、一度シザが大怪我したことあったのよ。
非番の時に事件に巻き込まれて。その時にユラが帰国してて……もー大変だったんだから。シザは集中治療室に運び込まれるわ、ユラはずっと側にいるーって聞かなくて」
「あ、あの……その節は本当にご迷惑をお掛けして……、すみませんでした……」
ユラが思い出して真っ赤になっている。
あの時は本当にシザを失うかと思ってパニックになったのだ。
子供みたいにごねてしまったと今思い出しても恥ずかしい。
赤くなったユラに、メイが笑っている。
「ルシアさん、ユラさんが困ってますよ」
「冗談だってば」
「そうだったんですね」
ジャニナも笑っている。
女性ばかりだったが、シザの読み通りルシアやメイの明るい雰囲気は、ユラの緊張をほぐしてくれたようだ。
「今、天文台の食堂見て来たの。綺麗なところだったよ。
良かったら少し食べに行かない? 勿論ここに料理運んでもらってもいいし」
ルシアがそう言うと、ユラは頷いた。
「僕、食堂はまだ見てません。見てみたいです」
「どうぞ、ユラ。好きにして下さい。私は少し仕事をしてから行きます」
グレアムが微笑んで声を掛ける。
行こう、とルシア達に連れられてユラは部屋を出て行った。
扉が閉まると、グレアムは電話をした。
「今、ルシア・ブラガンザ、メイ、ジャニナが訪ねて来て食堂に食事をしに行きました」
『……そうですか』
シザは安堵したようだ。
『……ユラの様子は?』
「今までの環境が環境ですから、安堵はしています。
今日も軽く天文台を散策しながら、ピアノも弾いていましたし……。
ただ、強くそういう素振りは見せていませんが、彼は貴方に会いたがっています」
『……。』
ふと、シザが押し黙ったことにグレアム・ラインハートは気づいた。
「シザさん?」
『アリア・グラーツは今回の特別派遣チームと同時帰国させることに前向きです。
僕もそうしても構わないとは思っています。
だけど、まだ事態が完全に落ち着いたわけではない。
連邦捜査局は確かにユラへの起訴を取り下げましたが、公の謝罪は行っていませんし、そもそも何故逮捕を強行したかが分からない。それが気にかかっています』
「尚更彼らと一緒に帰国させた方がいいのでは?」
『……。グレアム。ドノバンに相談してノグラントでユラが安心して過ごせるホテルを三つピックアップしましたから、選んでください。一応、首都ダルムシュタットは避けました。
近郊のエダット、ファンレー、ガルドウームの三州です。
護衛は君がいればいい。特別派遣チームは当初の予定通り明後日帰国させます』
「シザさん……何かあったんですか?」
『別に何もないです。ユラが帰国したい意志を示したら僕にすぐに報せてください。
そうであればすぐに手配しますから。分かっていると思いますが、グレアム。
……今度ノグラント連邦捜査局であれ、他の何であれ、ユラの帰国を妨害してくるような人間がいたら一切容赦するな。
特別派遣チームはノグラント市民には受け入れられてる。
今なら、ユラが攻撃された時は正当防衛は支持される。
もし今度また非アポクリファ相手にユラを奪われるような失態を君がした場合、僕は解雇どころの話で済ませる気は無い』
「……分かっています」
『僕はユラを帰国させる意志が無いわけじゃない。
君がそういう声や表情をして、ユラを不安にさせるな』
シザの声は少し苛立った。
「分かりました。シザさん。ですがユラに連絡は取って下さい。
貴方と話せればユラは安心するんです。
今回のことだけじゃない。彼は昔からそうだった」
『――そんなことは知っています。』
短く言って、シザは通話を切った。
グレアムは少しだけ眉を顰める。
シザの様子が少し変だった。
彼ならすぐにユラを帰国させると思ったのに、何かを躊躇っている。
すぐにお前がユラを不安にさせるなという忠告を思い出し、グレアムは眉間の皺をほぐすような仕草を見せた。
ユラが逮捕されたことは不当だと、世界中が今やそういう流れになっている。
だが、最初からそうだったわけではない。
混乱が起きた当初は確かに兄弟で愛し合うなんて、と非難して来る人間たちは存在した。
まさかシザがそんな言葉を鵜吞みにして動揺しているとは思わないが、
そうだとしたら尚更妙な反応だった。
三カ月も無理に引き離されていた最愛の弟にして、恋人。
シザ・ファルネジアなら自由を勝ち取った時点ですぐに帰国させ、その腕の中に包み込み抱きしめるのだろうと思っていた。
そこから、いつユラが音楽活動を再開するかという部分で熟考はするだろうが、これはもっと前段階の話だ。
メールに、言った通りの内容が届いた。
ドノバンの支配が及ぶ、三つのホテルで確かに信頼は置ける。
(だけど、ユラが一番安心するのは貴方の側ですよ)
グレアムはこの三カ月、ずっとユラの側にいたからこそ、
一刻も早く彼を【グレーター・アルテミス】に帰国させてほしいと願った。
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