第一章「現状把握と問題点の洗い出し①」

魔王城の大会議室――なのだが、その様子は惨憺たるものだった。


豪華絢爛な装飾が施された巨大な円卓のまわりには、見るからに怪しげな幹部たちが座っている。しかし、皆の表情はすでに死にかけていた。覇気はなく、目は虚ろで、どこか諦めに近い疲労感が滲んでいる。


「えー、それでは、これより会議を始めます~」


間延びした声で進行役を務める魔王――名前はリリスというらしい――は、相変わらず緊張感がない。ついでに、目の前には美味しそうなクッキーと紅茶が置いてあり、さっきからそれをチラチラと見つめている。


俺は耐え切れず、小声で横の老人(宰相のガーヴというらしい)に訊いた。


「なあ、ガーヴさん。この会議、いつもこんな感じなのか?」


ガーヴは深くため息をつきながら答える。


「はい……前魔王様の頃は規律正しく、士気も高かったのですが、新魔王様はご覧の通りで……。おまけに幹部連中も完全にやる気をなくしています」


「……勇者に押されてる理由が、なんとなく分かった気がするよ」


俺はこめかみを軽く押さえながら呟いた。ひとまず現状把握が最優先だが、どう考えても状況は予想より深刻そうだ。


「では~、今日のお題は、『勇者軍がめちゃ強いからどうするか』です!」


リリスの言葉に幹部たちは顔を見合わせ、ぼそぼそと呟き始める。


「どうするって言われても……」


「そもそも対策なんてないから、ここまで追い詰められてるんだよなぁ……」


どこかのんきで危機感の薄い空気に耐えかねて、俺は手を上げた。


「……魔王様、ちょっとよろしいでしょうか?」


「え? あ、はい。参謀さん、どぞ~」


のんびりしたリリスの応答に軽い目眩を覚えつつ、俺は立ち上がり、円卓の中心へ進んだ。


幹部たちの視線が、いっせいに俺に集中する。


「……まず、初めまして。今日付けで魔王軍の参謀に就任した、東條涼だ。よろしく頼む」


俺の自己紹介に、力なく拍手が返ってきた。


俺は続けた。


「早速だが、今の状況を整理したい。まず最初に、『勇者軍に押されている原因』を分析する必要がある。ここが明確にならない限り、対策の立てようがない」


すると、角が生えた赤髪の幹部が面倒くさそうに言った。


「原因も何も、勇者軍が強いからだろ。終わり」


「勇者軍が強いのは結果だ。原因じゃない。なぜ勇者軍が強くなったか、そこを掘り下げる必要がある」


俺の鋭い口調に、幹部が一瞬黙る。やがて別の幹部が渋々発言した。


「……まぁ、俺らの士気が低いことも原因じゃねぇの? 前魔王様が引退してから、ぶっちゃけやる気が出ねぇし」


それに別の幹部が続ける。


「そりゃそうだ。新魔王様は……その……頼りないし」


リリスが露骨に肩を落とす。いや、そこはお前が落ち込んでどうするんだよ。


俺は息を吐き、円卓に手をついて言った。


「士気が低いのはあくまで症状だ。問題の根源を突き止めるために、まず現状の魔王軍の組織構造と運営状況を明確にする。ガーヴさん、現在の兵力規模と補給状況、そして幹部ごとの職務範囲を簡単に説明してもらえるか?」


ガーヴが感心したような表情で頷き、素早く資料を取り出した。


「承知しました。現在、魔王軍の兵力は全盛期の10分の1以下、約2千名。補給は混乱状態で、特に物資不足が深刻です。また、各幹部の職務範囲については、近年曖昧になっており、役割分担も不明確な状況です」


俺はすぐに問題点をホワイトボード(異世界だけどホワイトボードは存在するらしい)に書き出した。


1. 兵力低下

2. 補給網の混乱

3. 職務範囲の不明確化

4. 士気の低下


「……ひとまず、これが現時点での主要な課題だ。優先順位を決めて、一つ一つ潰していこう」


俺が言うと、幹部たちはざわつき始めた。


「お、おい……意外とまともだぞ、こいつ」


「まさか本当に俺らを立て直す気なのか?」


「久々にちゃんとした会議っぽい空気だな……」


ざわつきをよそに、俺は再び席に座ると、リリスに向き直った。


「魔王様、問題解決にはリーダーシップが重要です。具体的な方針を示してください」


「え、えっと……具体的な、方針?」


リリスが戸惑いながら、胸元のクッキーを摘んで口に放り込もうとしている。


「まずはお菓子を置け! 会議中だぞ!」


「ひゃいっ!?」


クッキーをぽとりと落とすリリスに、幹部たちは深いため息をついた。


「……前途多難だな、こりゃ」


俺の口からも自然にため息が漏れた。


だが、これが俺の仕事だ。


どんなにポンコツでも、俺はこの魔王軍を絶対に立て直してみせる。


ストイックに。真面目に。


そして何よりも――ロジカルにだ。


俺は再び頭をフル回転させ、状況改善のための戦略立案に取り掛かった。

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