第21話 好感度上げの時間(対象:脳筋)
ヴィンス(メガネ)の好感度を多少なりとも上げることに成功した俺の次なるターゲットは、あの赤毛の脳筋……ガレス・ブレイクウッドだ!
あいつは単純で暑苦しいが、その剣の腕は確かだ。
強敵と渡り合うには、ああいう前線でガンガン突っ込んでくれる物理アタッカーが必要不可欠。
だがしかし、ガレスの俺への好感度は前回、多少上がったとはいえ、まだ50【やるじゃねえか】。
信用して命を預けるには心許ない。
俺の策略重視な戦い方が、あいつの正々堂々とかいう古臭い騎士道精神とやらに反しているのが原因だろう。
「よし、ターゲットはガレスだ! あの筋肉バカを完全に懐柔して、俺のために魔族をぶった斬らせる!」
俺は再び拳を握り締め、打倒ガレス(の好感度)を誓った。
……どうやって上げるか? うーん、筋肉バカだからな……やっぱり、筋肉と根性論で語り合うのが一番響くんじゃねえか?
前世の体育教師みたいなノリでいくか!
(事前にマリエッタには、『これからガレスに筋肉勝負とかいう無茶な勝負を仕掛ける。ヤバそうになったら適当な理由をつけて助けに入ってくれ』って頼んどいたし、保険はあるはずだ……多分)
夕暮れになり、俺は学院の訓練場へと足を運んだ。
茜色に染まる空の下、硬く締まった土の地面からは汗と鉄の匂いが立ち上っている。
訓練用の木製の的がいくつも並び、あちこちで剣戟の音が響いていた。
俺はキョロキョロと辺りを見回し、目当ての赤毛を探す。
……いた! 訓練場の隅っこで、黙々と大剣を振るっているガレスの姿を発見!
ガレスは上半身裸! 筋骨隆々のその肉体は汗でテカテカと光り、夕陽を浴びて銅像のように輝いていやがる。
額に走る古傷が、彼の荒々しさをさらに際立たせている。
ブン! ブン! と重そうな大剣を軽々と振り回し、近くの木製の的を次々と粉砕している。
……うん、すごいパワーだ。脳みそまで筋肉でできてるんじゃないか、こいつ。
俺はわざと無造作に近づき、柵に片足をかけて、馴れ馴れしく声をかけた。
「よう、ガレス! 精が出るな! いい汗かいてんじゃねえか!」
ガレスは動きを止め、汗を滴らせながら振り返った。
「おう、アレクシス! なんだ、また何かセコい作戦でも思いついたのか?」
彼はニカッと歯を見せて、豪快に笑った。……相変わらずデリカシーのない奴だぜ。
「まあな。だが、今日の用件はそれじゃねえ」
俺は柵から飛び降り、ガレスの前に仁王立ちになった。
「お前に、ちょっと勝負を挑みに来た」
「勝負だと?」
ガレスの目がキラリと光った。
「面白い! 何の勝負だ? 剣か? それとも腕相撲か? どっちでも俺が圧勝するけどな!」
彼は自信満々に胸を叩いた。
「いや、どっちでもねえ」
俺はニヤリと笑い、宣言した。
「……筋肉勝負だ!」
「き、筋肉勝負……?」
ガレスは一瞬、きょとんとした顔を見せた。
「そうだ! 俺とお前、どっちの筋肉がより美しいか! より雄叫びがデカいか! より汗が輝いているか! それで勝負だ!」
俺は意味不明な勝負内容を、さも当然のように言い放った。
「……」
ガレスは数秒間、ポカンとした顔で俺を見つめていたが、やがて腹を抱えて爆笑し始めた。
「ぶっははははは! アレクシス、お前、やっぱ面白い奴だな! よし、いいぜ! その勝負、受けて立つ! だが、俺の筋肉とお前のヒョロい筋肉じゃ勝負にならねえと思うけどな!」
(よし! 食いついた! 単純な奴で助かったぜ!)
俺は内心でガッツポーズを決め、ガレスに向かって叫んだ!
「うるせえ! 見た目で判断するな! 男の価値は筋肉の量じゃねえ! その質と! 魂の叫びで決まるんだ!」
俺は力強く拳を握り締める!
(何を言ってるんだ俺は?)
「おお! いいこと言うじゃねえか、アレクシス! その通りだぜ!」
ガレスの目が輝いている!
(チョロい! こいつチョロすぎる!)
こうして、俺とガレスの、意味不明な筋肉勝負が始まった。
まずは、腕立て伏せ対決!
「うおおおおお! いち! にい! さん! ……」
ガレスは軽々と、一回ごとに力強い雄叫びを上げながら腕立て伏せをこなしていく。汗が飛び散り、筋肉が躍動している。
一方の俺は……
「ふ、ふんっ! いち……ぐっ……にっ……うぐぐ……さん……ぜぇ……ぜぇ……」
元の王子(の身体)はそこそこ鍛えられていたはずだが、中身がクソザコ陰キャの俺にはキツすぎる!
3回で腕がプルプル震え始めた!
「どうしたアレクシス! もう終わりか! 情けねえぞ!」
ガレスが笑う。
「う、うるせえ! まだだ! まだ終わらんよ! うおおおおおおお!」
俺は最後の力を振り絞り、4回目を……達成できずに床に突っ伏した。
チーン。
次は、腹筋対決!
「どりゃああああ! じゅう! にじゅう! さんじゅう! ……」
ガレスは余裕の表情で高速腹筋を繰り返す。腹筋が綺麗に6つに割れているのが見えて、ちょっと羨ましい。
一方の俺は……
「う、うぐ……い、いち……に、にぃ……あががが! 無理!」
腹筋ゼロの俺には、体を起こすことすら困難だった。完全に敗北。
「はっはっは! だから言っただろ、勝負にならねえって!」
ガレスが高笑いする。
(さて……ここからが本当の勝負だ!)
俺はむくりと起き上がり、ガレスに向かって宣言した!
「……ガレス。筋肉だけが男の強さじゃねえ。真の強さとは……痛みに耐える心だ!」
「痛みに耐える心……?」
「そうだ! これより、俺とお前で、互いの腹を全力で殴り合う! より長く耐えられた方の勝ちだ!」
俺は一見、無茶苦茶な提案をした。
「なっ……⁉ おいおい、アレクシス、正気か⁉ 俺のパンチは岩をも砕くんだぞ! お前みたいなヒョロいの、一発で内臓破裂だぞ!」
ガレスがさすがに心配そうな顔をする。
「ふん、心配無用だ」
俺は不敵な笑みを浮かべた。内心は死ぬほどビビってるがな!
「俺には、王族に伝わる秘伝の『腹筋硬化術』があるのさ!」
もちろん、大嘘である。
「秘伝の腹筋硬化術……⁉ そんなものが……!」
ガレスの目が再び輝き始めた! よし、また食いついた!
「いいだろう! そこまで言うなら、受けて立つ! だが、手加減はしねえぞ!」
ガレスは拳をゴキゴキと鳴らした。
「望むところだ! まずはお前から来い! 俺の鋼鉄の腹筋、受けてみろ!」
俺は仁王立ちになり、腹に気休めにグッと力を込めた。
……マリエッタ、頼むぞ!
「よし、行くぜ! うおおおおおおお!」
ガレスが雄叫びと共に、渾身の右ストレートを俺の腹めがけて放った!
その拳には闘気が炎のように纏わりついている! マジで死ぬやつじゃねえか⁉
(やべえ! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬ! マリエッタァァァ! 風魔法! 風魔法だろ⁉ 約束!)
俺は目を固く閉じ、来るべき衝撃、いや、人生の終焉に備えた!
……が、しかし。
フッ!
想像していた内臓を抉るような衝撃ではなく、まるで分厚いクッションで受け止められたかのような、妙に柔らかい感触が腹部に伝わった。
いや、それでも衝撃はゼロじゃねえ! 結構痛い! 息が詰まる!
「なっ……⁉」
目の前でガレスが驚愕の声を上げるのが聞こえた。
俺が恐る恐る目を開けると、ガレスが信じられないものを見るような目で、自身の拳と俺の腹を交互に見ている。
(え? 何? 耐えた? 俺が? いや、耐えられてねえ! めっちゃ痛い! でも生きてる! ……まさか、マリエッタか⁉ 見えなかったけど、風魔法で威力を殺したのか⁉)
俺の腹部の制服が微かに揺れている気がする。風……?
よし、ここはハッタリをかますしかねえ!
「……ふん。どうしたガレス。その程度か? 俺の『腹筋硬化術』の前には、赤子の拳同然だな」
俺は内心の動揺を押し殺し、必死に痛みを堪えながら言い放った。
「ば、馬鹿な……俺の渾身の一撃が……⁉」
ガレスはまだ混乱している。チャンスだ!
「今度はこっちの番だ! 食らいやがれ! 俺の魂の拳を!」
俺はそう叫び、ガレスの腹めがけて、渾身の……いや、見かけ倒しの右ストレートを繰り出した!
当たっても蚊が刺した程度だろうが、今は勢いが大事だ!
(マリエッタ! 今だ! アシスト頼む!)
俺の拳がガレスの腹に触れるか触れないか、その刹那!
ドゴォッ!
という、さっき俺が受けたのとは比べ物にならない鈍く重い打撃音が響いた!
俺のパンチでないのは言うまでもない。
「ぐふっ⁉」
ガレスが呻き声を上げ、膝から崩れ落ちたのだ!
いつの間にか俺の隣に、呆れたような、完璧な王女スマイルを浮かべたマリエッタの姿があった。
彼女は優雅にスカートの裾を払いながら、何事もなかったかのように立っている。
「……まあ、お兄様、ガレス。随分と熱心ですけれど、一体何をなさっているのですか? 訓練場の隅で騒がしいものですから、様子を見に来てみれば……あらあら、ガレスがお倒れになったのですか?」
マリエッタ……! お前、俺が殴る瞬間に、死角からガレスの脇腹あたりに蹴りでも叩き込んだんだろ!
俺には蹴りの瞬間が見えなかったが、この状況証拠は揃いすぎている!
「い、いってえええ……! アレクシス殿下の拳が……これほどとは……!」
ガレスが涙目で腹(というか蹴られたであろう脇腹)を押さえて蹲っている。
ふっ……俺の拳で倒れたと完全に誤解しているな。
「あらあら、勝負はお兄様の勝ちということでよろしいのではありませんか? ほら、ガレス、お立ちになってくださいまし」
マリエッタは優雅な仕草でガレスの腕を取り、無理やり立たせた。
マリエッタ……! ナイスアシスト! いや、もはやインチキにも程があるけど……でも、結果的に俺が勝った。
俺は咳払いを一つして、ガレスに向かって偉そうに言った。
「……どうだ、ガレス。見たか、これが俺の『腹筋硬化術』(カウンターパンチという名のマリエッタの蹴り)の力だ。お前の拳も、俺の攻撃の前には無力だ」
ガレスはまだ脇腹を押さえながらも、悔しそうだが、どこか感服したような顔で俺を見上げた。
「……くそっ……参りました、アレクシス殿下。……貴方の強さを見誤っていたようです。……まさか、腹筋で俺の拳を受け止め、さらにこれほどの威力の拳を秘めていたとは……!」
いや、受け止めたのはマリエッタの風魔法だし、拳はマリエッタの蹴りなんだけどなとは、口が裂けても言えない。
その瞬間、俺の脳内に、はっきりと文字と数字が浮かび上がった!
ガレス好感度:70 【忠誠】
(やった! 大幅アップ! しかも忠誠ゲット! やっぱり筋肉バカには、こういうわかりやすい強さ(大インチキ)が効くんだな!)
「ふん、わかったならいい」
俺は満足げに頷いた。
「ガレス、お前のそのパワーは認めてやる。だが、力だけじゃ魔将には勝てんかもしれん。これからは俺の知略と、お前の筋肉、そして俺の力を合わせて戦うぞ。いいな?」
「はっ! アレクシス殿下! 貴方様になら、このガレス、命を預けます! 魔将だろうが魔王だろうが、私と殿下がいれば敵ではありません!」
ガレスは完全に俺に心酔した様子で、力強く拳を突き上げてきた。
(よしよし、これで脳筋アタッカーも完全に手懐けたぜ!)
俺は内心でガッツポーズを決めた。
「……ったく、茶番に付き合わせおって。バカ2人が意気投合してんじゃねえよ」
マリエッタが呆れたように俺にだけ聞こえるように呟いたが、その口元は少しだけ笑っているようにも見えた。
俺はすかさずマリエッタの好感度も確認する。
マリエッタ好感度:10【馬鹿】
(おっ! こっちも少し上がった!……って、まだ10かよ! 低っ! 馬鹿ってなんだよ⁉)
こうして、俺の筋肉勝負(という名の超絶インチキ茶番劇)は幕を閉じた。
ガレスという強力な戦力を、マリエッタの完璧すぎるサポートのおかげで完全に味方に引き入れることに成功した俺は、対魔将戦に向けて、また一歩前進した……はずだ。
(次は……ルシアンか? あいつはどうやって好感度を上げればいいんだ……? 優しそうに見えて、一番厄介かもしれん……)
俺は新たな悩みを抱えつつ、夕陽に照らされる訓練場を後にした。
……ガレスの一撃を(風魔法越しに)受けた腹部が、地味にズキズキ痛むぜ。明日アザになってなきゃいいけど。
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