資料 南部正男著 古代史探究 昭和四十二年刊 より抜粋

第三章 失われた秘儀――祟りの絵封じ


古代より、特に平安時代において、非業な死を遂げた者の怨念が、祟りとして世に災厄をもたらすと信じられてきた。しかし、平安の賢者たちは、その力を封じる術を伝えてきたのである。

その一つが、「祟りの絵封じ」と呼ばれる儀式である。平安時代より伝えられ、戦後の混乱期を経て、一般には失われてしまったとされる。

しかし、どうやらその儀式は高貴な人のみならず、一般の民衆にも行うことが可能であったという記録が残っている。

その儀式の主旨は、怨念を宿した者の祟りを、その者が描かれた絵画に封じ込める点にある。しかし、 儀式にはとある禁忌が存在する。その力を封じ込められた絵画を見る際には、体き動物の血を顔に塗るという行為を必ず行わなければならない。その理由は、祟りを封じ込めた絵画には、強い穢れが濃縮されており、動物の血液が、それに対する盾となり見る者を守るためであると、古代の文献には詳述されている。

もしこの禁忌を破り、動物の血を塗らずにその絵画を見れば、封じ込められた強烈な穢れは見た者に乗り移ってしまうという。それはまさに毒蛇の巣に無防備 に手を差し伸べる行為に等しいとさえ言われている。

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