晴海と月並みゆうれいさん

入夏千草

第1話 冷えた朝

 どこか、冷えた空気の漂う朝だった。

 起きたら、右手首につけていたはずのミサンガがちぎれていた。

 わたしはその緑色のミサンガを、小物入れにしていたレトロな花柄の缶の中に、そっと入れる。

 おじいちゃんが作ってくれた、少し大きめのミサンガ。

「夕方から朝までは、特に外さないように」と、指切りしたことを、まるで昨日の出来事のように覚えてる。

 わたしは無意識に、ミサンガのない手首をさすっていた。

 ちぎれることは何度もあったけど、その度におじいちゃんが、新しく編んでくれていたっけ。でも、それも……もう無理だな。

 おじいちゃんは、今年の二月に、死んでしまったから。

「朝ごはんできたわよー、降りてきなさーい」

 しばらく缶の中のミサンガを見つめていたけど、お母さんの声ではっと我に返って、慌てて蓋を閉じた。

「はーい、今行くー!」

 わたしは部屋を出ると、勢いよく階段を降りていった。

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