目立つためには綿密な作戦会議を

 工房の片隅、僕はフィアと正座して向かい合っていた。


「よし、フィア。作戦会議だ」


 真剣そのものだ。


「どうやったら僕が一番目立てるのか、考えなければならない」


 僕にとって命より大事な課題だ。


 フィアは変わらぬ無表情で、端末を広げる。


「了解しました。マスター。目立つためのプラン、全力でサポートいたします」

「うん!」


 頷きながら、僕は立ち上がってホワイトボードにでっかく『作戦名:バズれ!』と書き殴った。


 フィアの目がキラリと動いたのを、僕は見逃さなかった。


「まずな、フィア。目立つにはド派手なパフォーマンスが必要だと思うんだ!」

「はい。ですが、ただ派手にするだけのパフォーマンスでは、人々はいつか飽きてしまいます」

「なるほど! マンネリかという奴か?!」

「そうです。人は驚きと変化を求めるものです。

「具体案はあるか?」


 俺は立ち上がり、勢いよく腕を振り上げた。


「これまでの目立った怪盗たちは、事前に事件を起こすことを知らせることがあったそうです」

「予告状というやつだな」

「はい。これを行うことで、人々は不安に駆られニュースなどでは、ヒーローが登場して警備にあたります」

「それを掻い潜って目的を達成させる?」

「そうです」


 フィアの提案は、これまでの先人たちが目立つために、行ってきた情報が蓄積されている。


「黒瀬レイヴのAGを作っている際に重いついたんだけど、空飛ぶスーツとか、姿を消せるステルススーツとか、作って驚きを演出するのはどうかな?」

「マスター、それは……」


 フィアが真剣な顔で僕を見つめる。


「アリですね! 人々はシンクロノスが次は何を見せてくれるのか期待に胸を膨らませることでしょう」

「やっぱりそうだよな。それに新たな登場ソングなんて作るのはどうかな?」

「なるほど、その音楽が流れて登場する。誰もが、今か今かと期待します」

「そこに効果的な爆発を演出して、ポーズを決める!」


 バァァン!!! ってな。


 僕は思わず拳を握りしめる。


「空飛ぶスーツで現れて、爆破で降臨する……最&高だろ!」


 フィアはペンを止め、静かに首を傾げた。


「マスター。とてもヴィランらしく。人々の迷惑を考えない辺りが最高です」

「だよね!! 僕も自分の目立つたちの才能が溢れ出てきて怖いぐらいだよ」


 僕は机をドンと叩いた。


 僕はヴィランだ! 合法なんか目指してない!! 目立てば正義!!


「では、爆破対象を無人の廃ビルなどに限定すれば、道義的リスクは最小限にできます」

「確かに、悪の美学といっても、関係な人々を巻き込みたいと思っていないからな。さすがフィア、優秀!!」


 ビルを一棟吹っ飛ばしても、誰もケガしなきゃセーフ!!


 いや、むしろ邪魔なヒーローを巻き込んで爆破すれば、一石二鳥で、一般的な人々を救ってヴィランらしくヒーローを倒す。


 社会適応バッチリな、プラン完成だ。


「うーん、今考えるのは、予告状、登場シーン、登場までの演出に、爆破かな?」

「それらを組み合わせることで、SNSバズ計画は間違いありません」

「ありがとう、フィア。なんだか出来そうな気がしてきたよ」

「いえ、私はマスターのサポートを最優先事項にしておりますから。現在は、素材が羊ノ家煌様の救出時の爆発と、ヒーロー学園襲撃時の爆発しかありません」


 フィアがSNS画像を見せてくれる。


 どちらも10万回再生はされているが、バズったというには、ちょっと弱く思える。


「#シンクロノス降臨!! なるほど、これを予告にするのか?」

「……」


 フィアが小さく目を閉じる。


「違うのか?」

「はい。これはあくまで宣伝です。もっとシンクロノス様が行うのに相応しい予告。それは電波ジャックではないかと愚行します」

「電波ジャック!!!! 悪のヴィランがやりたい予告方法にピッタリじゃないか?!」


 ヤバい、フィアは天才かもしれない。


 A Iとして、様々な統計や分析をしてくれていたが、ここまで成長しているなんて驚きだ。


 フィアはなんだかんだ言って、いつも俺を応援してくれてる。


 俺はホワイトボードに作戦要素を書き殴っていく。


 予告状

 登場曲

 登場シーン演出

 爆破着地

 ハッシュタグでトレンド入り狙い。

 電波ジャック


 これだ。


 僕史上、最高にバカバカしく、最高にかっこいいプランが出来上がった。


「マスター、確認です」


 フィアが静かに指摘してきた。


「このプランは……リスク管理として、爆破規模を5メートル以内に抑えますか?」

「うーん、考えたんだけど、ヒーローを巻き込もうと思う!」

「なるほど、ならば、範囲を限定して威力をあげることができますね」


 ふふ、完璧だな。


「いいか、フィア。僕の生き方として、目立たなきゃ存在してないも同然だ」

「はい。マスターの存在は、この世界で一番輝いています」


 僕は拳を握りしめた。


「よっしゃあああ!!!」


 最高の作戦ができた!


 やってやるぞ。


 今度こそ、どこにいようと、誰もが僕を振り返る……そう、シンクロノスは世界一目立つヴィランだ!



《side:フィア》


 マスターは、今日も最高に素敵です。


 無茶苦茶なことを言っているようで、でも、誰よりも本気で、誰よりも輝いていて。


(マスターは……本当に世界一かっこいいヴィランです)


 私はそっと、自動ドローンの準備を開始した。


 完璧な撮影、完璧な爆破、完璧な拡散。


 最高に、マスターを輝かせるために。


 今日も、私はマスターの最優先サポーターです。


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