雑用係、学園潜入中

 僕はヴィランとして活動するために、全ての生活や自分の行動を決めている。


 ヴィランには資金が必要なのだ。


 崩壊した後の世界でも、金が生活の基盤を作っているのは変わらない。


「マスター。本日は、ヒーロー第八高校で仕事です」

「うん。ありがとう。大丈夫だよ」


 フィアが起こしてくれて、朝食を用意してくれた。彼女がいなければ、生活習慣が乱れに乱れていただろうな。


「じゃあ、行ってくるよ」

「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」


 食べ物を買うのも、部品を揃えるのも、どうしても欲しい物を手に入れる時には金がいる。


 だからこそ、いくつもの仕事を掛け持ちしてお金を稼ぐ。


 一級メカニックの資格を取って、政府公認の整備士になれば確かに資金は潤沢に得られるだろう。


 だけど、そこには自由がない。


 ヴィランとしては、時間を常に有効に使える環境を維持したいのだ。


 仕事がひっきりなしに入ってきて、自分以外の人間に時間を割かなければならないのは、避けたい。


 工場にやってくる裏仕事なら引き受けてもいいが、それ以上の仕事は利益に見合わなければ意味がない。


「おい、バイト。資格はあるんだろうな」


 今回の班長であり、一級メカニックの後藤ゴトウさんが、一人一人の資格を確認していく。


 ゴリラのようなムキムキな体と顔の強面ではあるが、一級の資格が取れるほど優秀な人だ。


「はい。えっと、三級メカニックの芹沢朔セリザワサクと申します」

「三級か、ゴミ拾いぐらいは出来るか? 今日はヒーロー第八高校のAG 《アビリティ・ギア》整備だ。二級の若僧どもに経験を積むために、多く参加しているんだ。芹沢君も若いな。多少は回してやれると思うが、優先度は、低くなるぞ」


 今回のリーダーを務める後藤さんは良い人だ。


 一級メカニックで後進を育てるために、ヒーロー学園を回っている。


 幼馴染のおかげで今回はバイトにありつけた。


 ヒーロー高校のAG整備は、バイトとしての稼ぎが良いのでありがたい。


「いえ、バイト代が頂ければ、感謝します」

「おう、頑張れよ。じゃあ、いくか!」


 整備道具を持った一団が、ヒーロー高校に入って行く。


 僕はその中で影を薄くして、モブとして仕事をしている。


「おい、そこのメカニック。次のAG、整備室に運んどいて」

「それぐらいしかできないんだから、ちゃんと仕事してくれよ」


 二級メカニックたちの後で、僕は雑用係として走り回る。


「あ、はい。すみません。今、運びます」


 ヒーロー予備軍が通う学園、ヒーロー高校は全国に十二校存在する。


 ヒーロー高校は、異能適正の高い若者たちが、実戦型ヒーローになるために育成機関として様々な人間が出入りしている。


 普段ならば、僕みたいな三流メカニックが堂々と入れるような場所じゃない。


 だけど、この工房の一角、仮設整備室だけは例外だ。


 なんせ人手不足で、しかも整備班はヒーローたちから見下されがちなので、まともな人材は少ない。


 それでも、「仮設バイト」「三級整備補助資格あり」「一日契約可」という最底辺環境だからこそ、見事採用された。


 ヒーローを目指す学生たちの整備室で、黙々と機材を運び、スパナを渡し、油を拭いてる。


 それでいい。目立たずに埋もれて、ただの空気のように扱われる。


 最高じゃないか。仮面の下で笑ってやれるってもんだ。


 ……と、自分に言い聞かせてたら、隣のAG整備ユニットから急な警報が鳴った。


「警告:AGユニット『カスタムX-β』に過負荷反応発生。適合率異常!」


「えっ、なにこれ!? 止まらないんだけど!?」

「ちょ、やばいって! 暴走するぞこれ!!」


 整備班や、学生たちが、慌てて端末を操作してる。けど、もう遅い。白煙が上がり、赤く点滅する警告ランプが、暴走の兆候を示していた。


 おそらく性能盛り盛りのカスタムAGを無理やり稼働させてテストしてたんだろう。


 そのせいで、AGの適合出力が暴走して、今にも爆発しそうになってる。


 手持ちの簡易AGを起動して、予知を起動する。


 次の十秒後、AGユニットのコアが暴走。機体が破損して爆発、巻き込まれる整備員と生徒。


 ……まったく。


 僕は混乱する学生たちをすり抜けながら、暴走するコアを止めるため、緊急用ツールで排熱チャンネルを強制開放。


 そのまま左腕で外部エネルギー導線を手動切断、一気に蒸気が吹き出して、辺りが真っ白になった。


 うん。これでいい。


 僕は蒸気によって、爆発を回避した姿を見せないように、その場を後にする。


 ゴウン、と低い音を立てて、ユニットのAGが止まった。


 煙の中で、誰かが言った。


「お、おい……今の見たか……?」

「さっきの処理……どう考えても、一級メカニックの仕事じゃなかったか……?」

「誰がやったんだ?」


 ……うん。バレていないね。


 あくまで僕が目立ちたいのは、悪の美学を持ったヴィランとしてだ。


 こんな人助けで本性バレとか最悪だからな。


「……!」


 逃げ出したところで、一人の女子生徒と顔を合わせる。


「大丈夫ですか?」

「すみません。AGが暴走して逃げているところです!」

「そうですか、私はヒーロー科一年。羊ノ家煌ヒツジノケアキラと申します。ここは私が引き受けますので、逃げてください」

「ありがとう」


 僕は羊ノ家のお嬢さんに任せて、その場を離れた。



 騒動の余韻がまだ残る、仮設整備室。


 爆発こそ防げたものの、暴走したAGユニット『カスタムX-β』は大きく損傷し、周囲の機材も熱と蒸気でひどく焦げていた。


 誰もが原因究明を後回しにしている中、僕はこっそりとAGの残骸に近づく。


「……やっぱり、これ」


 指先で焼けた外装を剥がす。中から現れた回路基板に、異常な点を見つけた。


 ヒートガードの向きが逆……いや、これ、わざとだ。構造的に熱暴走を起こすよう、最初から仕組まれていた。


「トラブルを起こすための、細工だね」


 設計図と照らし合わせて、改めて確信する。


 このAGには明らかに誰かによる手が入っていた。


「なるほど……リベレーターは学園にまで、手を伸ばしてるってことか」


 これは、ヒーロー候補を内部から潰すための仕込みってことかな? その上、AGの不調は生徒や整備士のせいにできる。


 リベレーターにとっては損のない作戦だろう。


 だけど、こんなやり方、悪の美学に反する。


 こういう陰湿なやり口が大嫌いだ。


 敵を倒すなら正面から。舞台の上で、華々しく。


 正義だろうが悪だろうが、誰よりも目立ってこそ意味がある。


 自分の信念でやるべきだろうが。


「……くくっ、面白くなってきたじゃないか」


 僕は作業用端末を閉じ、仮設整備室を離れた。


 持ち込んでおいた、漆黒のスーツである【AG-Ω】と仮面を取り出す。


「このままスルーする手もある。報告して、知らないフリをして、給料だけもらって帰るってのも手だ」


 だけど。そんな選択、僕の悪の美学が許さない。


「どうせなら、見せてやろうじゃないか。悪の正しい演出ってやつをな」


 スーツを手に取り、仮面を装着する。


 心拍と脳波が同調し、視界に十秒後の未来がオーバーレイで重なった。


 未来の文字が走る。


『ヒーロー校、侵入者アリ。AG損傷の第二波』


 ああ、最高じゃないか。


 仮面の奥で笑いながら、僕はそっと影へ溶け込んだ。

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