俺は最強のヴィランになるはずだったのに、なぜか人助けしてることになっている!!!

イコ

プロローグ

プロローグ「ヒーローは、僕を見なかった」

 世界は、力と隣り合わせ。


 誰もが異能という力に目覚める可能性を持ち、それは希望にも災厄にもなってしまう。


 異能に目覚めた者は己の力を誇示するため、どこかで悪党ヴィランが異能を使って犯罪をする。


 それに対抗するために、正義ヒーローが犯罪者であるヴィランと戦う。


 異能は十五歳までに目覚めるとされ、誰もがその可能性を持っている。


 僕にとってヒーローは憧れだった。


 両親と一緒にお出かけした、あの日までは……。


 ♢


 逃げろ、逃げなくちゃ。


 電光掲示板が砕け、電車の車体が宙を舞う。

 

 駅の天井が軋み、コンクリートが崩れる音が響く。


 人々の悲鳴。煙。火花。血。


 ヒーローとヴィランが、戦っていた。


 戦いが始まれば、戦闘ができない一般人は逃げることしかできない。


 だけどその戦いは、誰かの正義のためでも悪の制裁でもなく、僕らにとっては、ただの破壊だった。


「こっちだ! サク、こっちにきなさい!」


 父さんが僕を抱き上げた。母さんが隣を一緒に走っている。


 家族三人で、地下鉄の奥へ奥へと逃げていく。


 ヒーローとヴィランが争う場所から離れなければ、巻き添えになってしまう。


 電車が止まって、すぐに避難するようアナウンスが流れた。地上は危険だから、地下鉄の線路を通って、隣の駅まで行くように。


 大人たちも、みんなそうしていた。僕らも、それに従った。


 なのに……天井が、崩れて……。


 ドンッ、と耳の奥に響く衝撃音。


 赤と金の閃光が地下鉄を貫いた。


 ヒーローの放った正義の一撃が、一体のヴィランを貫いた。そして、そのまま直下の地下鉄を崩壊させた。


「かはっ……!」


 父さんが、僕の体を庇って瓦礫に覆われた。


 母さんが、僕の背中を押して逃がそうとする。


 次の瞬間、コンクリートと鉄骨が頭上から降ってきて、二人の体を、完全に、覆い隠してしまう。


「お父さん! お母さんっ!!」


 二人を助けたくて、誰かに助けて欲しくて、光が差し込むわずかな隙間から、僕は這うようにして瓦礫を抜け出した。


 膝が震えて、喉も苦しい、息ができない。


 それでも、必死に叫んだ。


「誰かっ! 誰か助けて!! お母さんとお父さんを助けて!!!」


 地上は今も戦いが続いている。


 煙の向こうに、ヒーローの影が見える。


 ニュースに登場するヒーローは正義の味方で、市民を助けてくれる存在だって言っていた。


 白いマント、肩に輝く金のエンブレム。


 僕は必死にヒーローに助けを求めた。


「助けてください……! 下に人がいるんです!! お父さんとお母さんを助けて…!!」


 でも、ヒーローたちは、誰一人として、僕の声を聞かなかった。


 目の前を通ったヒーローと確かに目が合った。


 ……だけど、そのまま目を逸らして過ぎ去っていく。


 僕のことなんて、見たくなかったかのように。


 剣を振るって、ヴィランに向かっていく。


 誰も僕を見ていない。


 ヒーローは目の前のヴィランしか、見ていない。


 最初からいない存在として、ヒーローに認識されていなかった。


「なんで……? ヒーローは市民の味方なんでしょ? お父さんとお母さんを助けてよ」


 僕が泣き崩れていると、ドサリと、何かが崩れる音がした。


 地下鉄が崩れて、二人が死んじゃう! 僕は必死に瓦礫を退かそうとした。


 だけど、小さな僕の手じゃ全然ダメで、二人を助けられない。


「全く、イライラするぜ。これだからヒーロー共が嫌いなんだ。自分たちがしていることを正義だからって、何でも許されると思ってやがる」


 反対側から、別の誰かが呟きながら現れた。


 スーツにマント。だけど、それは黒ずんだで骸骨のような怖い印象。


 間違いなくヴィランとして、ヒーローと戦っていた相手。


 顔の半分を仮面で隠し、手には煙の出る爆破スティック。


 指先から放たれた衝撃波が、瓦礫を吹き飛ばしていた。


「えっ?」

「……クソが。人を埋めるんじゃねえよ」


 ヴィランは悪態を吐きながら両親を助けてくれた。


 他にも埋まった人たちがいて、本来はヒーローを殺すための爆弾で、ヴィランは人々を救った。


「悪にも、悪の美学があんだよ。俺は正義気取りの胸糞ヒーロー共を殺したいだけだ。関係ねぇ、一般人を巻き込んでじゃねぇよ! おい、坊主。ちゃんと生き残れよ」


 その手で、僕の両親を掘り出してくれた。


 血だらけの母、下半身が潰れた父。


 ……それでも、そこにまだ命があった。


 助けられた両親の、傷ついた体にしがみついて泣き崩れる。


 ありがとう……そう伝えたくて、振り返った。


「おいおい、ヴィランの分際で、ヒーロー気取りか? たいした能力もない無能者を助けるなんてよ」

「ガハッ!」


 その声と同時に、両親を助けてくれたヴィランの胸に剣が突き刺さっていた。


 ヒーローが、背後からヴィランの心臓を貫いた。


「ッ……!」


 ヴィランは、口から血を吐いて、僕の方を見た。


「なぁ、坊主。ヒーローって……カッコいいか?」


 その問いに、僕は何も答えられなかった。


 赤い血が、僕の顔に降りかかった。


「よし! これで俺のヒーローランキング上昇だな!」


 そう言って立ち去っていくヒーロー。


 ♢


 両親は……助からなかった。


 出血多量。


 瓦礫の下で傷を負いすぎていた。


 救急は来なかった。


 当時はどこもかしこもヴィランとヒーローの戦いが繰り返されていて、救助を求める人もたくさんいたから助けてくれる人がいなかった。


 助けてくれたはずのヴィランは、ヒーローに殺された。


 命を救ってくれたのは悪だった。


 正義は、僕を見なかったのに。


 あの時、決めたんだ。


 ヒーローなんて、信じない。正義なんて存在しない。


 誰も僕を見ようとはしない。なら、誰よりも目立って僕の方を見させるようにすればいい。


 目立つなら悪の方がいい。


 誰よりも、目立って正義を否定してやる。


 僕は……あの日のヴィランの言葉を胸に刻む。


 悪には悪の美学がある。


 これは復讐じゃない。


 ヒーローにとって、僕が存在しないなら、見ようともしない存在なら、誰よりも僕は目立ってやる。


 それが僕にとっての悪の美学だ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 今回はドラノベコンテスト用の作品です。


 ただ、他の作品との兼ね合いで、一気に投稿ができないので、のんびりと二ヶ月ほどかけて10万字を目指そうと思います。


 お付き合いいただければ幸いです。


 応援をどうぞよろしくお願いします。

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