第47話 異世界の真実

 セトにベンヌと呼ばれた紅い鳥が現れた。

 ドローンのカメラ越しには見ていたけど、改めて見てもピーちゃんにそっくりだと思う。


「突然呼び出したりして、どうしたのですか? しかもこの場所は……」

「すまない。アイリ様が我々の計画を誤解されているようでね。貴女からも改めて説明していただけないかと思って」

「そうなのですね……まぁ! 坊や……うぅ、計画が終わるまで坊やには会わないつもりだったのに」


 ベンヌがピーちゃんを見て、坊やと言った。

 ピーちゃんは似ていないって否定していたけど、やっぱり親子なんだ!


「ぴぃ?」

「えっとね、あの鳥がピーちゃんのお母さんだと思うの」

「ぴぃ……」


 あ、あくまでピーちゃんの親は私なのね。

 刷り込みっていうか、ピーちゃんが最初に見たのが私だったからなぁ。


「……って、和んでいる場合じゃないのっ! ピーちゃんを私の家で産んだのも、何か魂胆があっての事でしょっ!?」

「なるほど。かなり疑心暗鬼になってしまっているのですね。坊やを貴女の家で産んだのは、そこが最も安全だからですよ」

「この家を除いて、凍えさせるつもりだったから!?」

「いいえ。こちらのアペプの結界により、悪しき者が入れないからです」


 あー、なるほど。

 確かに、魔物とかが入って来た事は一度もないもんね。

 けど、だからと言って、自分の子供は安全な場所に産み落としておいて、それ以外の生物を滅ぼすっていうのは納得出来る話ではない。


「さて……では、改めてご説明させていただきますね。アイリさん……貴女は、魔族という存在をご存知ですね?」

「えぇ。セトから聞いたから。特定の形を持たない、スライムみたいな存在でしょ?」

「いえ、そこで既に乖離が出てしまっていますが……魔族は決まった形がなく、別の生物と同じ姿になるのです」

「だから、好きな形に変わるんじゃないの?」

「好きな形に変わるのではなく、別の生物の姿で一定期間居続けるのです」


 どういう事だろうか。

 好きな姿に変身出来るって事……よね?


「魔族は、どのような種族になるかは私も分かりませんが、人間族や魔人族の姿を選ぶ者も一定数います」

「はぁ……」

「ですが魔族は魔族であって、人の姿になったとしても、人ではないため、子を生む事は出来ません」

「なるほど……?」

「そして、魔族が人ではなく魔族だったと判明するのは、死んだ時のみ。この世界の生物は、死ねばその亡骸が残りますが、魔族だけは死ぬと塵のように消えてなくなるのです」


 とりあえず、魔族が人や他の生物と同じ姿をしているけど、死んだら消えちゃうっていう事はわかった。

 だけど、セトが何を言いたいのかはまだわからない。


「ここまでは前提条件です。一番肝心なのはここからですが……実はこの世界の生き物の半分以上は、既に魔族が擬態した姿なんです」

「えっ!? ど、どういう事っ!?」

「魔族は、一定期間……数年から数十年同じ姿で過ごすと、突然別の姿に変わるのですが、その際に分裂して増えるのです」

「も、もしかして、それって……」

「例えば、アイリさんが異世界の力で見に行った街……あそこに住む人間族も、半分以上は魔族です。ですが、人間たちは魔族を人間だと思っている。これがどういう事かわかりますか?」

「えっと……人間だと思って結婚したら、実は魔族だったって事?」

「その通りです。人間と魔族が結婚しても子供は生まれません。ですが、魔族は違う姿になって分裂し、また若い男女を恋に落とし、夫婦になります」


 それってつまり、浮気性な人は別として、普通の人は結婚したら他の人と子供は作らないだろうから、人間がどんどん減っていくっていう事!?

 しかも、十数年経って老いてきたら、突然配偶者が消えてしまうのっ!?

 だけど、別の街から来たかのように、また新たな人がやってくるから人口は減らず、危機的状況に気付けないって事なんだ!


「ご理解いただけましたか? 魔族は直接人間や他の生物を攻撃したりはしません。ですが何百年、何千年とかけて、生物を滅ぼそうとしているのです」

「な、何とも気の長い話なのね……」

「魔族は寿命がありませんから。何万年もの年月を生きる魔族たちにとって、数十年などほんの一瞬の事です。飽きるまでは同じ姿でいて、配偶者に尽くし、とても良い夫や妻であり続けるのです」


 こ、怖っ! 結婚した相手が実は別の侵略生物でした……なんて怖すぎるんですけどっ!


「ひとまず、この国の……というか、この世界の現状はおわかりいただけましたね?」

「え、えぇ」

「残念ながら、姿を変えた魔族には、私にも見分けがつきません。強いて言うなら、このアイリさんの家の周りに張った結界を越えられるか、越えられないか……で判別出来る程度です」


 このセトの言葉で、クリフさんが驚き、口を開く。


「そんな……では、王子をお守りしていた兵士たちが、アイリ様の家に近付く事すら出来なかったのは……」

「その兵士たちは全員魔族ですね。奴らは神である我々でも見分けがつきませんから、仕方ありません」


 とりあえず、この家に来られている三人は魔族ではないって事はわかったけど……思っていたよりも、この世界は大変な事になっていたようだ。

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