第22話 快適生活魔法
「か、神様……ですよね? 私を転生させた」
目の前に、金髪の不思議な雰囲気を漂わせた男性――ハッキリ見覚えのある神様らしき人が立っていて、私の言葉にあっさり頷く。
「はい。その通りです」
「あの、どうしてここに?」
「どうして……って、アイリさんが私を呼んだと思うのですが、違いましたか?」
えぇっ!? いやまぁ呼んだといえば呼んだ……のかな?
改めてパソコンのディスプレイに目をやると、先程までドローンのカメラに映っていたはずの神様の姿が消えているので、ここまで瞬間移動してきたみたいだ。
「瞬間移動と言えば、瞬間移動ですね。そもそも私は、この世界に物理的な身体はないので、何処にでも行ける訳ですし」
「身体が無い……んですか?」
「えぇ。私が管理している世界ではありますが、あくまで管理だけであって、直接手を出す事は出来ないのです。ですので、多大な魔力を持つアイリさんにこの世界へ転生していただき、国を救って欲しいとお願いしたのです」
あー、なるほど。その国を滅ぼす要因に対して、神様が直接関与する事は出来ないけど、送り込んだ私が手を出す事は出来ると。
とりあえず、私の思考を読んでいるし、やっぱり転生する時に話した神様みたいね。
「……って、そんな事はどうでも良いんです! それよりも、どうして私のWEB小説を教会の人に読み聞かせていたんですか!?」
「いえ、先程お話しした通りで、私は直接この世界に干渉出来ないんです。ですので、アイリさんのWEB小説を話し、それを書き写してもらう事で、この世界に伝えてもらおうと思いまして」
「そこ! そこです! どうして、私のWEB小説をこの世界に伝えようとしているんですかっ!」
「え? アイリさんは小説家になる為に、小説を書かれているんですよね? でしたら、より多くの人に読んでもらった方が良いですよね?」
うーん……それは、そう。
多くの人に読んでもらって、ランキングを駆け登り、書籍化されて印税で引きこもりライフをするのが目標ではあるんだけどさ。
「あ、この世界で書籍化したアイリさんの本の利益については、何処かで纏めて誰かに運ばせますので、ご安心を。ただ、アイリさんが元居た日本は私の管轄外ですので、同じ手は使えないんです」
「日本では、そういう裏技みたいな方法じゃなくて、正規の方法で書籍化したいんだけど……違うの! 私が聞きたいのは、どうして私の小説を予言書みたいにしているの!? って事!」
「……あの、予言書とは何の事ですか?」
「え? 神様が私の書いた話になぞらえて、何かしているんじゃないの?」
「いえ、私は何もしておりませんよ? そもそも、この世界に直接的な影響は与えられませんし」
あ……そうだった。
そもそも、そんな事が可能なら、私に転生して欲しいと頼む必要もないか。
「その通りです。それに、予言の書……と言う程には、その通りの事は起こっていないかと」
まぁ確かに、全部が全部似ているという訳ではないか。
似ているところがあるのも事実だけどさ。
「偶然ではないでしょうか。繰り返しにはなりますが、私はアイリさんの執筆の励みになるようにと、あのお話をこの世界の住人に伝えているだけですので」
「うーん……じゃあ、あの感想は? 微妙な言葉のコメントが沢山くるんだけど」
「あれは書店に投函された、アイリさんの本を読んだ感想です。それを私が受け取り、代わりにコメントを記入しています」
神様が何処かでパソコンかスマホを操作しているのだろうか。
いや、神様的な力で直接サーバーとかにアクセスしてるのかな?
「前者ですね。アイリさんの家電を用意した際に、スマートフォンというのを用意しました。これで、アイリさんのお話を読んでいます」
あ、そっか。ネットでいろいろ買えるようにしてくれたんだから、神様も使えるんだ。
しかし……じゃあ、予言書って一体何なのだろう。
「あの、そもそもアイリさんの小説が予言の書だ……となったのは、何故でしょうか。私の観測範囲では、アイリ様の本を予言の書だと思っている者は居ないのですが」
「えっ!? そうなの!?」
「はい。皆、純粋に物語として楽しんでいるようです」
おぉぉぉ……それは嬉しい。
日本ではそんなにウケてないけど、この世界の人たちには刺さったんだ!
執筆意欲が湧いてくる……けど、今はノエル君の話か。
「ノエル? 知らない人物ですね。アイリさんの家を囲む結界内を除いて、私が全て管轄しているのですが」
「えっと、魔王の息子らしくて、この前家に来て……」
「魔王の息子っ!? しかも、私の結界の中に入ってきた!? ど、どういう事ですかっ!?」
「どういう事って言われても、神様が把握しているのではないのですか?」
「人間は私の管轄ですが、魔族は別の神……邪神が管轄しているのです。ですので、人間の動向は全てわかるものの、魔族については分からないんです」
なるほど。さっきの話通りだと、このアパート周辺の結界内は神様も見ていない場所だから、ノエル君が来た事を知らないんだ。
「その通りです。今も、アイリさんに分かりやすくする為に私の思念体を表示しておりますが、実際は音声でのやり取りと、思考の読み取りしか出来ておらず、私からそちらの様子は一切見えていないのです」
そうなんだ。良かった……布団を畳んでなくて、出しっぱなしだったんだよね。
「いえ、布団など今はどうでも良いのです! 魔族が……邪神がアイリさんに接触して来たというのは聞き捨てなりません! 今こそアイリさんの真の力を……」
「待って! 真の力なんて要らないから! 私は快適生活魔法で、引きこもりライフが出来ればそれで良いの!」
「あ、すみません。その快適生活魔法という名前は嘘です。本当の名は……」
「いやぁぁぁっ! 聞きたくないぃぃぃっ!」
私は異世界でスローライフをするのぉぉぉつ!
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