第10話 小説のネタ集めをするアイリ
「うぅ……どうして、こんな事にっ!?」
数日前に、クリフさんと王子が聖剣を手に、大喜びで帰って行った。
思うところはあるものの、そこまではまぁ良しとしよう。
執筆を邪魔されてしまったけど、その分インスピレーションを沢山得られるインタビューが出来たから。
だけど、聖剣が折れた訳ではないけれど、魔力が減って来たから補充して欲しいと言って、再び二人がやってきた。
しかも……これはどうかと思うんだ。
「アイリさん。僕とクリフでアイリさんのイメージを伝え、王宮に仕える画家に描かせてみました。いかがでしょうか」
手土産に王子が持ってきてくれたのは、異世界のお菓子と一枚の絵画。
写真もなしに、見てもいない私を二人の言葉だけで絵にしたのは凄いと思うけど……これは私だけど、私じゃないっ!
確かに顔は私の高校生の頃……というか、今の私に似ているけど、後光みたいなのが射していた事なんてないし、大勢の人が涙を流して私を拝んでいるのも変だからっ!
あと、ピーちゃんが巨大化していて、私を守るように横から翼で覆っているし。
「ぴ、ピーちゃん。これはどう思う?」
「ピーっ!」
「あ、喜ぶんだ」
ま、まぁピーちゃんは満足しているみたいだし、これを違うと言って突き返すのも、その画家さんが可哀想だし、やめておこうか。
「えっと……あ、ありがとうございます」
「喜んでいただけたようで、何よりです。こちらは一番出来が良いと思った物をお持ちした次第ですが、他のポーズや構図の絵画は、聖女アイリ様の肖像画として宮殿に飾っておきますね」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って!」
「ご心配なく! 画家の絵を基に、彫刻家が像を作っております。そちらは完成次第、聖女アイリの像として街の広場に掲げて、国民に広めますので」
いや、おかしいでしょ!
私は何もしてないし、いきなり聖女とか言われて、見ず知らずの誰かも分からない像が置かれるとか!
あと、絵画や像しか見ていない人が、もしも私と会う事があったら、絶対にがっかりするからっ!
というか、飾らないでっ! 掲げないでっ! そっとしといてっ!
「……こほん。えっと、絵画は……ありがとうございます。ですが、彫像はちょっと……」
「あぁ、確かに出来栄えをご覧いただかずに掲げるというのは、ダメですね。しかし、彫像をここまで運んでくるのは、ちょっと難しくて……」
「いえ。彫像を見たいという話ではなくて、広場に設置するというのが、どうかなと」
「なるほど。やはり聖女記念館を建てるべきでしたか。アイリ様の凄さを伝えると共に、何か関連するものを展示して、誰でも無償で見られるように……」
「ひ、広場で良いです」
うぅ……私の彫像を街の広場に置かれたら、もう街を歩けなくなるよ。
まぁそもそも歩いた事もないけどさ。
あ、そうだ。それなら、私の像が出来る前に、一度街やお城を見てみるのはどうだろうか。
異世界の王族の話や戦いの話を聞いて、小説のネタが沢山湧いてきた。
おかげで、次作の方向性が決まりつつあるし、今書いているのもクライマックスを向かえるところだ。
異世界の街並みなどを見る事で、更にアイディアが浮かぶかも!
とはいえ、ここから出る気はないので……カメラ付きのドローンを飛ばしてみようと思う。
「あの、一つお願いがありまして」
「何でしょうか。お話でしたら、僕やクリフから聞くよりも、吟遊詩人をお連れするとか本をお持ちした方が、より詳細で分かり易い気がするのですが」
吟遊詩人に、異世界の本!? 何それ! 物凄く気になる!
うわぁ、どっちも捨てがたい!
「今回はお話を聞きたい訳ではないのですが……本は気になりますね。市井の人たちで流行っている物語などがあれば、是非読みたいです」
「承知致しました。それでは、幾つか準備させておきますね」
「ありがとうございます。で、お願いっていうのは、今回はお話ではなく、街やお城がどちらに方角にあるのかを教えていただければと」
「方角……ですか? それなら、向こうですね。西になります」
王子が指さした方向は、玄関に向かって右手になる。
つまり、アパートの廊下に出て、ドローンを真っすぐ飛ばせば良いのね。
「えっと、もしかして街にご興味が? よろしければご案内致しますが」
「あ、そういうのでは無いので、大丈夫ですよ」
「は、はぁ……」
よくよく考えれば、望遠鏡とか望遠カメラとか、アパートから出ずに異世界の様子を知る事が出来るグッズが、いっぱいあったわね。
魔物とかが現れるらしいから、アパートの敷地から出るつもりはないけど、異世界で小説のネタ集め……ちょっとワクワクしてきたっ!
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