第8話 異世界の王族

「ま、待ってください! 剣をなおす……って、いきなり何の話ですかっ!?」

「失礼しました。事前に伺っていたアイリさんの魔法が、思っていたよりもかなり凄かったので」


 いやいやいや、私の魔法が凄い訳じゃないから!

 神様がくれたスキルが凄いのは認めるけど、私は何もしていないから!


「まず、我が国の現状についてご説明させていただきますね」

「はぁ……」


 王子によると、人間の国ドレアス王国と魔王の国が隣接しており、常に戦いが繰り広げられているらしい。

 何十年と続く長い戦いで国民や騎士たちも疲弊しているが、希望はある。

 というのも、悪しき力を封じる聖剣が先祖代々伝わっており、過去にも聖剣を使って魔王の力を封じた事があったとか。

 倒すまでには至らなかったが、封印が解けるまでの百年近くは、魔王軍が攻めて来ずに平和な時代が続いていたと。


「それがこの聖剣なのですが、王族で、かつ光属性の魔力を持つ者にしか、封印の力が扱えないのです」

「はぁ……」

「それで、光属性を持って生まれた僕が、二十歳になると共に魔王討伐の命を受け、クリフたち騎士団と共に魔王軍と戦ったのです」


 うーん。今まで女性主人公の恋愛ものばかり書いてきたけど、こういう話を戦記物とか異世界ファンタジーで書いてみるのはどうだろうか。

 凄くリアルな話が聞けるし……というか、聞かされているし。

 でも、戦闘ものって書いた事が無いし、男性向けになるのかな? それも書いた事がないけど……こういう話を聞くと、つい思考がそっちに寄っちゃうんだよねー。

 あ、待って。戦いの話じゃなくても、こういう異世界の国の王族の話って、令嬢ものでも凄く為になるのでは?

 王族の恋愛事情というか、婚約とかパーティなんて、庶民である私が日本で参加出来る訳がないけど、今目の前に王子がいるのだから、いろいろ聞けちゃうよね?


「……という訳で、聖剣が折れてしまい、国民の希望である聖剣をなおせないかとご相談させていただいた訳です」


 しまった。途中で小説のネタに出来ないかと考えていて、いろいろ話を聞いていなかった。

 相手は王子様だし、流石に話を聞いていませんでした……とは言えないなぁ。


「えっと……け、剣が折れた理由は置いといて、そもそも私には剣をなおす力なんて無いんです」

「いえ。これ程の魔力を有するアイリさんなら、きっと大丈夫です。どうか、お願い致します!」


 えぇ……ちゃんと話を聞いていなかったから、断る理由の言い訳が出来ない。

 無理だという一辺倒だと、聞いてくれなさそうな感じだし……そうだ!


「……では、とりあえず預かります。ですが、なおるかどうかは分かりませんよ?」

「ありがとうございます! アイリさんなら、きっと大丈夫ですよ」


 王子が自信満々に言っているけど、一体何の根拠があるのっ!? 私の話なのに。

 けど、これで王子の依頼というか、剣の話は終わりよね?

 なら、次は私のターンよっ! 異世界の王族の話を聞かせてもらわなきゃ!


「あの……私からもお願いがあるのですが、よいですか?」

「はい! もちろんです。聖剣の修復という大変なお仕事をお願いするのです。僕に出来る事であれば、何でもどうぞ」

「では教えて欲しい事があるのですが……この国の王族って、やっぱり世襲制? 建国時の王様の血がずっと受け継がれている感じ? あと、一夫多妻制ですか? 側室が大勢いるとか? 婚約は幼い頃から? あと、婚約破棄って実際あるんですか!?」

「えーっと、順番に答えていきましょうか」

「お願いします! あと、爵位についてとか、王族は自由恋愛が許されるのか……とか、政略結婚があるのかどうかも聞きたいし、歳の差はどれくらいまで有り得えるんですか? 平民との恋があったりなかったりとか、パーティの開催頻度とか……」

「は、ははは……ひ、一つずつお話し致しますね」


 日本で王族に質問出来る機会なんてまずないので、アイディア帳というか、ノートとペンを持ってきて、ここぞとばかりに質問しまくる。

 意外だったのが側室で、王位継承権を持つ人が増えるとややこしくなるので、そういうのは禁止されているらしい。

 血を絶やさない為に、大奥みたいな後宮があると思っていたんだけど、無いのね。

 あと、そもそも婚約自体が家と家との契約みたいなものだから、婚約破棄は余程の事がない限り有り得ない……って、そっかぁ。

 真実の愛に目覚めたんだ! ……とか言いながら、悪役令嬢や平民の少女とくっついたりするなんて無いんだ。


「あの、アイリさん。そ、そろそろ良いでしょうか」

「あっ! はい! では、次はクリフさんに戦いのお話を聞かせていただければと」

「うぇっ!? そ、そうですね。私もレオン王子のようにご説明させていただきたいのですが……そ、そろそろ夜も更けて来ましたので」


 思いの外、王子からいろんな話が聞けて、いろんなアイディアが浮かんだので、もっと小説のネタ集めに話を聞きたい……と思っていたら、すっかり外が暗くなっていた。

 ピーちゃんも膝の上で熟睡しているし……そんなに話し込んでいたのね。

 幸い、明日の更新分は既に書き終えているし……クリフさんには明日話を聞かせてもらおう。


「えっと、空き部屋は沢山ありますので、是非泊まっていってください。クリフさん」

「わ、私はレオン王子の護衛がありますので。この家の近くまでは他の兵士たちも来られたのですが、結界の中に入れたのが王子と私だけだったので、少なくともそこまでは私が王子をお送りしなければ……」


 ん? 神様が悪しき存在が中に入れないって言っていたけど、その兵士たちは大丈夫? 実は悪い人たちじゃない?


「クリフ。僕なら大丈夫だよ。というか、むしろ僕もクリフのようにアイリさんのところへ泊まってみたいな」

「じゃあ、部屋に案内しますね! クリフさんは前と同じ部屋を。王子はその隣の部屋を使ってください」

「え……くっ! アイリさんの料理は凄く美味しいけど、さっきのような長時間の尋問――もとい質問攻めに……」


 クリフさんが小声で何か呟きながら、何故か複雑な表情を浮かべているけど……ややこしい事に巻き込もうとした訳だし、ネタ集めのインタビューくらいは協力してね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る