第4話 紬、アルパカを連れて帰る

夕方、インターホンが鳴った。


ガチャ、と玄関を開けると、いた。

妹と、あと毛。


いや、正確にはアルパカがいた。

ふわふわで、もこもこで、なんか草のにおいがして、目がやさしかった。


「……えっと、誰?」


「アキオ。今日からうちの家族」


妹が言った。呼吸するように、日常に異物を持ち込む。


「ちょっと待って、落ち着こう。まずその“もこもこ”何?」


「アルパカだよ」


「そう、それは見ればわかるんだけど、なんでいるの?」


「目が合ったから」


「恋人かよ!?」


私はリビングのドアを開けて、アルパカを招き入れそうになる妹の前に立ちふさがる。


「ダメだよ! 動物禁止のアパートでしょ!? 管理会社に怒られる!」


「でもこの子、静かだよ。さっきから一言もしゃべってない」


「いや、アルパカはもともとしゃべらないの!!」


紬はアルパカの頭を優しく撫でる。その手つきは、まるで大事なぬいぐるみに触れているみたいだった。


「ほら、結。触ってみて。ふわふわしてるよ?」


「ふわふわしててもダメだよ!……てか名前アキオなの!? なにその妙にサラリーマン感」


「会社で疲れてるタイプの顔してたから」


「勝手に人生背負わせないで!?」


アルパカはリビングの前で足を止め、黙ってこちらを見ている。

静かな目をしていた。世のすべてを受け入れたような、すべてを諦めたような。


「……お姉ちゃん」

紬がぽつりと言う。


「この子ね、家族を探してたんだって。…気がする」


「気のせいだよ」即答する。


でも、気がするって言われたら、こっちが否定するのに妙に心が痛いのはなんでだろう。


私はちらっと、アキオの目を見る。

さっきよりちょっとだけ寂しそうだった。気のせいだと信じたい。


「せめて……せめて部屋には入れないで! ベランダでお願いします!」

「わかった。じゃあ、うちのペットは“アキオ(屋外)”ね」


「括弧つけるな!!」


こうして、我が家にアルパカがやってきた。

たぶん明日にはいなくなってる。そう願う。けど、

今夜だけは、風に揺れるベランダのもこもこを見ながら、ちょっとだけ心があったかくなる。


「お姉ちゃん」


「なに?」


「アキオ、夜に咆えるかも」


「なんで連れてきた!!?」

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