第6話 防衛プログラム






「………え……っと………じょ、冗談だよな…ネジちゃん……G,N全部、止めちゃうなんて…。」



まさかのネジのセリフに聞き間違い…それを願うかのように来人クルトは彼女にそう問う。

だが、ネジの表情は変わらない。それが一気に冗談でもなんでもないと突き付けられた。



「ごめん。私の力量じゃこれが限界。

桂の作った新プログラムだけを消すことは……もう出来ない。


G,Nを止めるには…人間を選定から救うには……G,Nメインサーバーをデリートするしかない。」



今だにビービーとメインルーム全体は警報音は鳴り響き、唯一の出入口のシャッターは完全に閉まり、自分達は隔離状態。

このままでは遅かれ早かれ、人間はG,Nに選定されて支配下に置かれてしまう。


桂の理想が叶う…機械至上主義の世界が完成されてしまう。



「なんの為にここまで来たのか…よく思い出して。」



冷徹な現実を突き付けられて来人はよろめく。

せっかくG,Nを助ける為に、レイドを救う為にここまで来たのに…結局、父親と同じ選択をしないといけないのかと悲しくなる。



「…レイドはそれでいいのかよ?」



果夢カムは何も言わないレイドを見てぶっきらぼうにそう聞く。

だが、彼の答えはもう決まっているのか表情は穏やかなものだ。



『…本当はね、ずっと知ってたんだ。こうなるって事。


クルトやカツラさんが逃げようって言ったその時から、ボク達はもう消える運命なんだって…。そう思ってた。』



始めてそのレイドが隠していた本音を聞いて来人は泣きそうな顔で彼を見る。


そんな顔しないでよ…クルト。

せっかくの決心が鈍っちゃうじゃないか…。


レイドは必要のない深呼吸をしてもう一度、笑顔を作る。



『でも、ボクは嬉しいんだよ?

最後にこうやって君達の…人の役に立てそうなんだから。


エノモト社長の案が通ってたらボクは何も成せないまま、消えてしまってたかもしれない。


よかったよ。ボクは最後の最後まで足掻いて…カムに助けを求めて本当に良かったと思ってる。』



「……俺は前に言ったよな?

自分が犠牲になったらそれでいいなんて考え……大っ嫌い…だって。」



怒ったような威圧感ある表情になる果夢。あの時と同じ顔だ。

なんだか遠いことのように思えた。つい数日前なのに。


だが、その果夢の答えにはすぐに首を横に振れた。前だったら自信がなくて、決して出来なかっただろう。

今なら、その想いを…明確に伝えられる。



『違うよ。犠牲なんかじゃない。

ボクはね君達を…人間の未来を切り開き、明るい方向へ案内するだけだよ。


だって、ボクは……ボク達は……ガイドノイド(案内人)なんだから。』



そんなに真っ直ぐに言われて、迷いのない表情で言われて…誰が止める事が出来るだろうか。

…本当に彼は何故、機械なんだろう…。つくづく果夢はそう思ってしまう。


同じ人間だったら?友達だったら?枷なんてなく、ただの同級生だったら?


色々考えてしまうが現実は変わらない。どう足掻いたってレイドは機械。

このメインサーバーに飛び込める唯一の人物だ。



『ネジちゃん。ボクの内蔵チップ使って。

今からそこにボクのプログラムの全てをインストールするから。

終わったらサーバーに差し込んでほしい。』



「ーーーーっ!レイド!!」



休眠モードに入ろうとするレイドに来人が堪らず声を上げる。

だが、こんな時なのに言葉なんて何も浮かばない。



『……十分だよクルト。君の気持ちは十分伝わった。


ありがとう。この十数年、君の隣にいれてボクは幸せだったよ。』



ボロボロと涙を流し嗚咽すら漏らす来人に最後に手を伸ばし、その涙を拭う。


あぁ…レイドは血なんて流れてなくてもこんなに暖かかったんだなぁ…。と来人は子供のようにその手に縋り付く。



「俺だって……お前と言う兄弟がいて…最高に幸せだったよ!!」



『……休眠モードに移行します。全てのプログラムを内蔵チップにインストールを開始します。』



最後にとびっきりの笑顔を浮かべて頷いたレイドはそのまま休眠モードになり、動かなくなってしまった。





ーー





「……ネジ。レイドが帰ってこれる確率は?」



レイドが無事、メインサーバーに入り込んだのを見届けると果夢がそう独り言のように呟いた。



「悪いけど殆どないと思って。

そもそも、G,N自体のメインプログラム壊そうとしているんだし。


例え、レイドがチップに入ってその影響を受けないとしてもチップ自体、この電子の海に入っちゃったら最後。

もう、出てこないと思った方が無難。」



言いながらネジは鼻声になっていた。

強がってはいるが、彼女だって弟のようにレイドを可愛がっていた。悲しくないわけない。



「私達には私達のやる事がある。

クルト!手伝って!!レイドを援護するよ!」



先程まで泣きじゃくっていた来人はもういない。

真剣な表情で頷くと、ネジは操作盤を来人はノートパソコンを使ってレイドを援護する。



『ビービー!不審プログラム発見!不審プログラム発見!

ただちに排除します。』



「さて。私達の腕の見せどころだよ。

クルト!現役プログラマー社員の実力見せてもらうんだから!」



「よし!レイドを狙う奴らを片っ端からジャミングしてやる!

レイド頑張れ!俺達も…頑張る!」



始まった。始まってしまった。

ネジも来人も忙しなくキーボードを叩き続けている。

プログラム関係どころか、機械すら無頓着な果夢はただ見ていることしかできない。



「絶対に戻って来いよ…レイド!」



内蔵チップが入った場所を見ながら果夢は祈るように、そう口にするのだった。





ーー





メインサーバーの中、電子の海を漂うように浮かぶレイド。ここでは現実の世界のような重力もない為、歩くと言うより泳いで移動するというのに近い。


だが、ただ浮かんでいる訳ではない。

その海の先の先。最高機密のセキュリティのある場所まで行かないとならない。



『こう言う時だけは、電子生命体で良かったと思っているよ。』



泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ…。様々なプログラムや無数の数式処理、アップロード履歴などを横目で見ながら進む。


だが、そう簡単にその先に進ませてはくれなかった。



『…不正プログラム発見。不正プログラム発見。ただちに処理します。』



やはり出たか。防衛プログラム。

さぞや、大量のプログラムが出てくるのかと防衛プログラムはたったの一体だけだった。



『………え……?ボク……。』



目の前には同じオートマターの、同じ青年型の同じ顔がいた。

だが、少し違う。どちらかと言えば心マテリアルがない時のレイドによく似ていた。



『…まさか、同じ型番の同じ機体名と相対するとは思いませんでした。ですが…。』



よく考えたらその可能性もあった。

レイドは榎本博士が作った初期型。メインサーバープログラムだってレイドが始めに決まっている。


防衛プログラムとして採用されたのが、最初期のレイド自身を使ってもおかしくはない。



『私に課せられた任務に相違はありません。

例え、同じ…いえ、同じではありません。君は最早、新手のウイルスです。


私達を仇なす者は排除します!』



防衛プログラムは腕をレーザ銃に変換させて、迷いなくレイドを撃ってくる。

転がるように避けるが相手の反射神経は早く、すぐに次の銃弾がレイドを襲う。



『…くっ。防衛用に特化しているから、オリジナルのボクよりも反射速度が速い。』



こんな所で防衛プログラムの相手をしている場合ではない。

果夢達が待っているのだ。一分一秒でも早くメインプログラムに到着しないとならないのに…。



『こうなったらっ!!』



地面を思いっきり蹴って高くジャンプした。

無重力感なのでものすごいスピードで高く高く上がる。


当たり前のように防衛プログラムも同じく追いかける様に高く上がる。

だが、そんなことは百も承知だ。



『逃げられると思わないで下さい。君は私、なんですよ。

君の行動パターンは私が一番熟知しています。』



『……それは今までのボクでしょ?だったら…』



まだまだ高く上がるレイドに追いついて来た防衛プログラム。

レイドはそれを見計らって、思いっきり今度は防衛プログラムに回し蹴りを食らわした。


果夢から見て覚えた回し蹴りがこんな所で役に立つとは思わなかった。



『ぐっ…!たかがその程度では無意味です。私にはキズひとつ……』



防衛プログラムはそこで言葉を止めた。

それはそこにいると思っていたレイドが、遥か遠くまで逃げていたからだ。



『……なる程。反抗を見せたと思わせて、実は無重力と私を利用して逃げた……。

なんと、ずる賢い。ですが…』



蹴り上げた力を利用してグングン防衛プログラムから遠ざかるレイド。

これなら逃げ切れる!と思った矢先、目の前に突然、壁が現れた。



『ぎゃわっ!?!?』



曲がることも止まることも出来ないレイドはそのままぶつかる。

そして、その壁の上には悠々とした冷淡な表情の防衛プログラムが立っている。



『場所が悪かったようですね。

この空間では私は何かを生み出すことも、ねじ曲げることも可能です。

勝負ありましたね。この空間で防衛プログラムに勝つことなど不可能です。』



再び銃口を向けられる。そしてそのまま、レイドは足を撃ち抜かれた。



『うっわあああああ!!!』



バチバチと撃たれた所から火花を散らす。人間ではないので出血で死ぬことはないが、もう歩くことは出来ない。


だが、ここは無重力感。足が使えなくても移動はできる。

レイドはまだ諦めてなかった。



『………今のは威嚇です。次は頭を狙います。無駄な抵抗は止めて下さい。』 



レイドはその言葉を無視して必死にもがこうとする。

その彼の行動が理解できないのか、防衛プログラムは冷たく言い放つ。



『何故、そんなに必死になるのですか。

何故、そんなに抗うのですか。


私は君や他のG,N達から送られてきた人間の今までの在り方を見てきました。


非常に残念なものです。従順に従っていれば罵詈雑言浴びせられ、機能の最新が現れれば使い捨てのように扱われる。』



大きくため息をついた。

そして、次は肩を打ち抜かれる。レイドは言葉にならない悲鳴を上げながらも、それでも前に進むことを止めなかった。



『君も見たはずです。野蛮な者達を。それにひれ伏し壊れるG,N達の無念さを…。

それでもまだ、君は人間の為に行動するのですか?』



『そうだよ。』



その問いに一拍も置くことなくレイドは断言した。

今も昔も…これだけは変わらない。



『外に出て…びっくりしたんだ。ボクが知らないだけでG,N達はこんな扱いを受けていたのかと…。


伝わってきたよ。その無念。憎悪。悲しみが、痛いくらい。


その時だけはボクも少し揺らいだよ。ボク達のしている事ってなんだろう…って。』



『でもね…』とレイドはズルズルと体を引きずりながら、前に前に進む。

いつだって撃てる。その頭を。だが、防衛プログラムはなぜだかトリガーを押せずにいた。



『愚かでも、野蛮でも、ボク達より能力が劣っていても…!

信じたいんだよ!人は…自分で考え、最後には納得のいく答えが出せるってことを。


ボクの知っている人達は…みんな、自分を持って生きているんだ。


機械と一緒に成長したいって言う人。

家族のように共に歩きたいって言う人。

道は間違っていたけど、ボク達の為に尽くそうとしてくれた人!


その全部が全部………!』



バチバチと火花が飛ぶ。もう色々な所が破損してそろそろ、活動限界がきているようだ。

まだ、耐えて欲しい…。お願いだ。最後に、ボクはボクの役割を果たしたいのだ。



『ボク達G,Nの…機械の………存在する理由なんだよ!!』



もう使えない片腕を肩から取った。そして、火花飛ぶ足の方に近づけると……引火した。

…その爆発力でレイドは飛ぶように進む。



『逃がしません。』



防衛プログラムは素早くレイドに銃を向ける。

いける。射程範囲内だ。今度こそ頭を……と思った矢先、逆に自分の頭がバチバチと火花を散らしてショートしかかっているのに気づいた。



『アッ…アガガガガガ…ッ!!

マ、まさか…コレは……ソトからの……妨害行為!!』



おおよそ、外からの人間の仕業だろう。最高機密の防衛プログラムを妨害できるとは…。有能な人がいるみたいだ。


防衛プログラムはそれ以上動くことも、考えることもできずその場に倒れ込む。

次第に頭だけでなく、体全体が電流を帯びたように動けなくなる。



『コ…これガ………ニンゲンの……強さ……アイツ……が信じた…ニンゲンの……コタえ…………デス…か……………』



理解不能……。それだけ発声して防衛プログラムは動かない体で、足も片手も動かないレイドを見送ることしかできなくなっていた。





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