第28話 戻れない過去
急になぜだか思い出した。
今書かないと、また忘れてしまいそうで
書きます。
私が、あれは多分小学2年生くらいの頃
近所の平屋で粗末な市営住宅に年下のK君が住んでいた。
多分、4歳くらいだったと思う。
公園が近くにあって、なんとなくブランコなどで遊んでいると
「おにいちゃん」
とK君も遊びに来た。
兄弟のいない僕は最初、どう接してよいのかわからなくて
ぶっきらぼうにしていたが、次第に会話するようになった。
「うちにおいで、なんか、おもちゃあげるよ」
「ほんとう?行く・・・」
私の飽きた駄菓子屋玩具をあげた。
プラ製の指先で回すコマ、ヨーヨーなど
安くてつまらないものだったが
それが悪かったのか・・・・
後日
公園でK君と地面に絵を書いて遊んでいた。
「おにいちゃんウルトラマン書いて!」
「よおし・・・」
木の枝でウルトラマンの顔を書いて遊んでいると
彼の母親がやってきた。
「Kッ!こっち来なさいっ!遊べばダメだって言ったでしょっ!」
K君を怒鳴りつけ、手を引っ張って行ってしまった。
私も睨みつけられた・・・
私はひとり、その様子を見ていたが
その日限り、顔を合わせても、彼は、もう
「おにいちゃん」とは言ってくれなくなった。
原因はハッキリしないがヒステリーの母親は私が嫌いなようだった。
彼の家に父親は居なかった・・・おばあさんが一緒に住んでいた。
10年後
私は自宅前で買ったばかりのバイクを磨いていた。
すると
学生服とセーラー服の二人が歩きながらコッチを見ている。
学生服の男の子が会釈してきた・・・
「誰だっけ」私はすぐに聞いた。
「どうもKです」
見違えた、彼のことは、すっかり忘れていた。
もう私より背が高くなっていた。
市営住宅も7階建てエレベーター付きマンションのようになっていたし
彼らはそのままニッコリ笑って行ってしまった。
カワイイ彼女だ、本当に、うらやましいと思った。
3年後
私は20歳になっていた。
母が蒼い顔をして私に言ってきた。
「あのK君、亡くなったんだって」
「えっ、なんで?」
「東京の高速道路でバイクで走ってて
トレーラーに挟まれて死んだんだって、今日あそこの
おばあさん来てたから、線香あげに行きなさい」
ものすごく仲よくしたわけでもない。
だが、慕ってきてくれてうれしかった。
カワイイ弟みたいに一瞬だけど思っていた・・・・
結局、線香あげに行けなかった。
あの小さな公園で地面に絵を書いたり
安いおもちゃで遊んだり・・・
今でもハッキリと憶えている。
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