引きこもり魔王様のトラップダンジョン!!~正面から戦っても勝てないから罠使うけど卑怯とは言うまいな?~

深海(フカウミ)

【#1】ハッピーバースデー、魔王様!!

 突然だが、俺──黒井マオは死んでしまった。享年23歳。


 今日も今日とて、俺はベッドの上でダラダラとスマホをいじっていた。


 ニートから脱するために職を探すでもなく、ただ暇つぶしのためにネットを徘徊するだけの日々。毎日がハンコを押したように変わり映えのない景色。


 このままではマズいと思いながらも、きっと明日も同じなのだろうと薄々思っていた。


 だが、そんな日々の終わりは不意に訪れた。


「うぐっ!?」


 急に胸が苦しくなって……気づいた時には俺は霊体として自分の死体を眺めていた。死因は不整脈。何の伏線も何の面白みもない終わり方だった。


 だが、それはではなかったようだ。


 ◇◆◇◆◇


(ん……? あれ……ここどこ?)


 闇の中で、自然と目が開く。周りにはボンヤリと蝋燭ろうそくの灯り。俺の足元には円形の白い魔法陣が描かれていた。


 どうやら中西風のお城の中っぽかった。それもなんかダークな感じの。


(もしかして、ここが"あの世"ってヤツなのか?)


 それだったら、想像してトコと違うなぁ〜……。次は極楽がよかったんですけど。一生寝てても怒られないような場所が。


 そんなことを考えながらボーッとしていると、近くから声が聞こえてきた。


「ふむ、召喚の儀式は成功したようですね」


「ひっ!?」


 振り向くと、そこに立っていたのは──。


「お待ちしておりました。我があるじ様」


 うおっ!? なんだ、このカワイイ美人メイドはっ!?


 頭の後ろをお団子型に束ねた水色髪のミドルショート。綺麗な氷のようにクールな金色の瞳。冷たい表情なのもあってまるでお人形さんみたいだ。


 そして、なにより驚きなのは彼女がいわゆる”ドラゴン娘”みたいな見た目をしている事だ。


 頭にはドラゴンの角(?)が生えており、美しい足の隙間からは細長い尻尾がユラユラしていた。……コスプレか?


 と、とにかく今はこの人に話を聞くしかない!! な、何から聞こうか!?


「あああ、あのっ!? アナタ誰ですか!?」

 

「落ち着いてください。少しずつ説明いたしますので」


 メイドさんは冷静になだめてきて、俺の方へ頭を下げて言った。


「まず、ワタシはコキュトスと申します。アナタの秘書を務めます。以後、お見知りおきを」


 は? 秘書だと?


「あのー、いきなりそんなコト言われてもわかんないんですけど……? ……あの、コキュトスさん。秘書ってどういうことですか?」


「アナタに付き従う者ということです。それからワタシの事は『コキュトス』と呼び捨てで構いません」


「はぁ……」


「……まぁ、まずは説明するより自分の御姿おすがたを確認してもらった方が早いでしょうか」


「??」


 そのメイドさん──コキュトスに言われるまま、俺は用意された大きな鏡を見た。すると──!!


「ワッ!? ウワーーーー!?!? な、なにこれーーーー!?」


 そこにはが立っていた!!


 黒いボサボサ髪の上には悪魔の角が!! 目は赤と青のオッドアイに!! 


 そんな劇的な変化の中、パジャマ代わりのTシャツ短パンだけがいつも通りなのであった……。


「は、はは……これ、夢か?」


「夢ではありません。ご覧の通り、アナタは生まれ変わったのです。この魔界における新たな”魔王”として」


「?? 魔王……??」


「えぇ。文字通り、全ての魔物を率いる王でございます。これからアナタには我ら魔王軍を率いていただく事になります」


「へ、へぇー、そうなんだぁ……へぇー……えっ、ちょっと待って!? ようするに、俺がその魔物達とやらのトップに立つってコトなの!?」


「そうです」


「えぇ~~~?」


 最初から軍団のトップだと? あまりにも無茶苦茶な人事だな……。


 そんな不安な表情の俺を察してか、コキュトスがいたわるような言葉をかけてくる。


「魔王様、ご心配なく。ワタシも秘書としてサポートさせていただきますので」


「は、はぁ……」


「さぁ、こちらへ」


 やがて、コキュトスが魔法陣の外へ手招きしてくる。


「とりあえず魔王様にふさわしい衣装に着替えたのちに、式典を執り行いましょう」 


「式典? なんの?」


 すると、コキュトスはクスッと微笑みながらこう告げた。


「もちろん──魔王様就任の儀式ですよ?」


◇◆◇◆◇


 こうして、俺は魔王城の中央広間へ連れてこられたのだが。


「「「魔王様!! 魔王様!! 新たなる魔王様の降臨バンザイ!!」」」


 広間にぎゅうぎゅう詰めになった、熱狂的な声を上げるモンスター達!! ゴブリンやオーク、リザードマンやらガーゴイルといった人外な連中が大声で”魔王”コールを叫ぶ!! その異常な熱気はまるでアイドルのライブ会場みたいだ……。


 そして、彼らの見つめる先には──玉座に座った俺がいる。


(おいおい。こんな化け物達を率いるのか、俺は……)


 コキュトスに着せられた漆黒の衣装にこそばゆさを感じつつ、俺は心の中でため息をついた。もう今回の人生(?)でも穏やかに過ごせないのは確定したみたいだ。

 

「魔王様。そろそろ就任のあいさつをお願いします」 


「あのー、コキュトス。代わりにやってくんない?」


「……それでは示しがつきません。ここはリーダーたるアナタの言葉が大事なのです」

 

「うぅ、そんなん急に言われても……」


 俺は死刑台に昇る気分で、玉座から立ち上がった。


 そして、壇上に用意された”魔道具まどうぐ”──マイクみたいなヤツを手に取って言う。


『え、えーっと初めまして。俺は新しく魔王に就任させていただいた黒井マオと申します……』


「おーい!? なんか元気なくね!?」「先代よりも弱そうだぞ!?」「おいおい、大丈夫か……?」「レベルはいくつなんだよー?」


『レベル……?』


 分からずに困惑していると、後ろからコキュトスが耳打ちしてくる。


「”ステータス”と唱えてください。それで魔王様のレベルを確認できます」


 あぁ、そういうのあるのか。ゲームみたいだな……とりあえずやってみるか。


「【ステータス】!!」


 すると、空中に魔法の文字が浮かび、このように読むことができた。

 

 《魔王》→レベル5


 その情報がおおやけになった途端、魔王軍は騒然となった。


「れ、レベル5!?」「ウソだろ……!? オレでも60はあるのに……」「ウチの魔王様、もしかして弱すぎ……!?」


(あ、あれ!? 明らかにみんなのテンションが下がってるような!? ……そんなに弱いのか、俺!?)


「……魔王様。どうか気を確かに。ちなみにレベル5というのは最弱モンスターのスライムと同等です」


「あのー、コキュトスさーん? 余計へこむ情報やめてくんない!?」


 つまり、俺は魔物として最弱レベルってことか!? それって魔王としてどーなの!? 名ばかりじゃねーか!?


 ……そんな風に絶望モードに突入していた、その時。


『冒険者襲撃!! 冒険者襲撃!!』


「!?」


 な、なに!? なんか警報みたいの鳴ってるけど!? これ……非常事態ってヤツ!?


『魔王軍、全軍に告ぐ!! この魔王城に冒険者一行が襲撃をかけてきた!! ただちに防衛にあたれ!!』


 伝令のアナウンスが響く中、コキュトスさんがさらに真面目な表情になって言ってくる。


「……さっそく魔王様のお仕事のようですね」


「!? 俺の!?」


「えぇ。どうやら冒険者共が魔王城へ襲撃をかけてきました。──魔王様、戦いのご指示をお願いします」


 そんな!? 急すぎんだろ!?

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