ゲームセンターとぬいぐるみ

6話

帰宅してから色々やることを終わらせて、そろそろ寝るかというところで普段はあまり聞かない通知音がスマートフォンから鳴った。

椎名ならノックもせず部屋に突撃し、直接話をしてくるはずだし、親は基本椎名にLINEを送ってくる。


トモキ『おっす!三人のグループ作ってみた!見えてるか?』


確認してみると、どうやら智樹がグループLINEを作ったからと試しに送って来た文章だったようだ。


めい『見えてるよ~、それにしても突然だね』

文月裕也『見えてる』


芽衣の返事に便乗するように、返事をしておく。


トモキ『週末の予定、結局ちゃんと決めてなかったなーって思ってたから今のうちに話しちゃおうぜー』


確かに、行く場所や日付は決めたが詳しい時間や何をするかまでは決めていなかったから、丁度良かったと思う。


めい『それじゃあ、せっかくだし電話にしない?』

トモキ『オッケー、裕也は大丈夫か?』

文月裕也『大丈夫』


返事をすると、すぐにグループ通話が始まった。

電話に出るボタンをタップすると、ふたりの声が聞こえてきた。


『あー、聞こえてるかー?』

『こんばんは、裕也くん!』

「こんばんは、二人とも」

『それにしても裕也、初期アイコンと名前でなんとなく察してたけど、やっぱLINEで会話したことあんまりないだろ』


図星である。綺麗に刺されぐうの音も出ない。


「うっ……結構転校が多かったから、LINE交換するくらい親しい友達は作らないようにしようと思ってたんだよね」

『なるほど……っと、時間も遅いし、ちゃっちゃと決めちゃおう』


話を変えたのはそっちじゃんというツッコミはしまっておいて。


『とはいっても、決めることといったら集合時間と解散時間くらいかな?』

『まぁそうだな、二人はどれくらい集合が良い?』


(うーん……、朝早くからっていうのもなんだし、昼過ぎだと若干時間が足らないかも……?)


『昼前……、十一時とかかなぁ?』

「俺も、それくらいかなって思った」

『じゃ、十一時に駅前集合って感じでいいか?』

『はーい!』

「了解、それじゃあまた日……」

『えー、もう寝ちゃうの?もうちょっとお話しようよ~』

『そうだそうだ!金曜日の夜なんて一番夜更かしするのに向いてるじゃねーかよ』


その後、たっぷり夜更かしに付き合わされた裕也はさすがに限界だったのか、通話が終わると同時に深い眠りについた。


◆◇◆◇


日曜日の昼前。

俺、文月裕也は駅前でぼーっと突っ立っていた。


「ちょっと早く来すぎたかな……」


まだ春になりたてだというのに熱く光る太陽はこちらを容赦なく照らしてきて、体内の水分が奪われる感じがする。


(あっつい……まだ春なのに……自販機で水でも買おうかな)


あまりにもイメージしている”春”とはかけ離れた最近の春。

悲しくも”秋”なんて季節はなくなってしまったし、夏はどんどん長くなる。


「おーーーーーい!!!!!裕也、待ったかー!!!!!」


……夏より暑苦しいのが近くにいることを、完全に忘れてた。


「うん、待ったから静かにしてもらっていい?」

「裕也が冷たい!」

「色々と暑すぎる」

「どういうことだ?」


そんなことを話していると、すぐに芽衣もやってきた。


「ごめ~ん、支度に時間かかっちゃって、待った?」

「いや、全然待ってないよ、智樹も来たばっかだし」

「オレの時と全然返事が違う件」


苗字は春なのに、どう考えても真夏な智樹のことは無視して。


「集まったし、さっそく向かおうか」

「れっつご~!」


ショッピングモールまで歩きながら、さっそく最初にどこに行くかを決めていく。


「で、最初はどこにいこう」

「よし、とりあえず……服だな」


ふ、服?一体なんのために……?


「一体なぜ?とか考えてそう」

「心を読まれた!?」

「いやお前な、全身黒はさすがに無いぞ、忍者か、ジャパニーズ忍者か」


……言われてみれば、椎名にも『本当にその恰好で行くの?』と言われた気がする。

とはいえ服なんてこれくらいしか持っていないし……。


「まぁお金はオレが出すから、とりあえず適当に何着か着回し易いの見繕おうぜ」

「う、うん?」

「まぁ、わたし達に任せてよ!」


なんだか気合が入っていそうな二人に手を引かれ、ショッピングモールに到着すると、そのままシンプルでカジュアルな服を置いているお店に到着した。


「さて、選んじゃうよ~」


入店してさっそく、これはどう?これはちょっと違う、これは着回しすると考えると微妙、これは良いかも。

と、裕也を放置して服を見繕っていく二人。


「とりあえずこれ試着」

「は、はい」


目をキラキラさせている二人が服を押し付けてきたので、試着室に入って試着してみる。


(なんというか……普通になった)


着替えた自分を鏡で見て、出てくる感想が”これ”な時点でファッションセンスが皆無なのだと身に染みる。


「ど、どう?」


カーテンを開け、二人に感想を求める。


「おー、良いな! 真っ黒の時とはまるで印象が変わった!」

「うん、すごい似合ってるよっ!」


(人の服でここまで盛り上がれるのは、シンプルに凄い……)


普通に関心してしまう裕也だった。

さすがに悪いからと会計は裕也が済ませ、そのまま選んでもらった服を着て店を出る。

買った服をそのまま着ていくという文化が裕也には新鮮だったので、少しへんな気分だ。


「よし、これで第一目標は完了だな」

「結構時間かかっちゃったね、もう十二時前だよ」

「混む前にどっか入ってお昼にするか、他のところ行くかって感じの時間だな」

「午後楽しむために、お昼食べちゃってもいいんじゃない?」

「さんせ~い、朝ご飯食べてこなかったからお腹ぺこぺこだよぅ……」


何を食べるかと話し合った結果、無難で学生のお財布にも優しいイタリアンが食べられるチェーン店へ。

注文してドリンクを取りに行き落ち着いてきたところで、午後の予定についての話になった。


「さてと、午後はどうしようか……と言ってもこのままウィンドウショッピングするか、ここの一番の目玉、ゲーセンに行くかくらいしか無いんだけどな」

「ゲームセンターで良いんじゃないかなー?あそこ、遊べるものいっぱい置いてあるし」


ショッピングモールの中にあるゲームセンターというと、あまり大きくなくてクレーンゲームと太鼓くらいしか置いていないイメージだったが、二人の話によるとどうやらここのゲームセンターはかなり色々あるらしい。

そんなこと話をしていたら、あっという間に頼んでいたご飯が到着した。


「ま、遊ぶにもまずは食べないとだな!乾杯っ!」

「か、かんぱい?」

「智樹、そのすぐ乾杯するノリはなんなの?」


裕也が頼んだのはハンバーグステーキだった。

ナイフで切って、フォークでひとくち。


「なんというか……久しぶりに食べる味」

「ここも久しぶりなのか……?」


そう言う智樹と、口にパスタを入れながらこくこくと首を縦に振りこちらを見てくる芽衣。


「うーん、かなり久しぶりかも、メニュー結構変わってたし……」

「おい、もっと外に出ろ」

「外出ると言ったら……スーパー行って荷物持ちするくらいしか無いかな」

「んぐ……もう、裕也くん!もう少しお外に出ないとダメだよ!」


パスタを飲み込んでからの第一声がお叱りである。


「……努力します」

「まぁ、もし運動サボってたらオレ達が連れ出すだけなんだけどな」

「……逃げ場無し?」

「無し!」

「な~し!」

「まぁ……もう少し頑張る事にするよ」

「その調子だよ!」


幼馴染二人に完全に包囲されていて逃げ場が無いことを理解した裕也は、健康のためもう少し外出を心がけようと誓ったのだった。

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