第15話

ソファに沈みながら、ぼんやりと野球中継を眺めていた。

窓の外はすっかり夕暮れて、家の中だけがぬるいオレンジ色で満たされている。


ショゴスが隣で、そっと僕の髪を指先でなぞる。

くすぐったくて、思わず笑いながら振り向くと、

ショゴスは嬉しそうに微笑んだ。

その表情を見て、僕も自然に、ふっと表情が緩んだ。


ショゴスがぽつりと口を開く。


「きみの好きな子って、結構個性的なんだね」


「うん、笑」

おれは少し照れながら頷いた。

「おれがこわがってた理由、わかるでしょ」


ふたりで小さく笑い合う。

どこか、秘密を共有するような、内緒話みたいな笑いだった。


ふと、窓の外に目をやった。

昨日の夜、あの子とショゴスがここで静かに、でもどこか楽しそうに話していたのを思い出す。


「きのうはにぎやかだったなぁ。パーティみたいだった」


僕がつぶやくと、ショゴスは一瞬だけ戸惑ったように視線を泳がせ、それからうつむいた。


「………ごめんね。うるさくなかった?」


「二人とも大好きだもん。幸せな音だったよ」


その言葉に、ショゴスの顔に、目に見えないさざ波のような動揺が走る。


(本当に……きみは、なにも疑わないんだね)


ショゴスは胸の奥でそうつぶやく。

この人は、ただ「そこにある幸せ」をまっすぐに受け取る。

対価も疑いもなしに。


でも──


自分は、違う。


自分は、この人の無垢な好意を、少しずつ、確実に蝕んでいる。

無意識に、意図的に。

彼女も、自分も、巻き込んで。


そんなさなか、

少し離れた廊下から、彼女がそっと顔をのぞかせた。


「お疲れさまです……」


おれが「おー」と手を振ると、彼女は控えめに笑って部屋に入ってきた。


ぽつり、ぽつりとした雑談。

そしてふと、

おれくんが軽い気持ちで、彼女に言った。


「……(彼女)、意外とこわいとこあるよね」


ほんの冗談だった。

場を和ませるための、何気ない言葉。


でも、彼女は一拍だけ間を置き、

そのあと、にこりと穏やかに笑った。


そして、

冗談の温度を無視するような、静かな声で答えた。


「……こわいって言われたら、悲しいですけど。

でも、私がこわいって思われても、それは私がやるべきことをやってる証拠だと思うので。

それで嫌われるなら仕方ないです。

私は、好きでこうなったわけじゃないですから」


ショゴスは気づかないふりをして、微笑んだ。


「きみって、本当に頑張り屋さんだよね。

 誰かのために毎日通うなんて、簡単にできることじゃない。

 そんなふうに、自分を犠牲にできる人なんて、めったにいないよ。

 きみには、きっと誰にも真似できない優しさがあるんだ」


ショゴスは、そっと声を落とした。


「だからこそ、もっと楽に生きた方がいいんじゃないかな。

 きみが、きみ自身を少しだけ許してあげられたら……

 きっと、もっと幸せになれると思うんだ」


彼女「楽に生きるって具体的にどういうことですか?私って私を許してないんですか?」


ショゴスは、彼女のまっすぐな問いに、ふっと目を細めた。

それはどこか、愛おしさと、同時にほんのひとしずくの哀れみを混ぜたような表情だった。


ショゴス「……うん。きみは、ちゃんと自分に厳しいからね。

それ自体は、とても立派なことだと思う。

でも、だからこそ、きみは無意識に、自分に許してあげるはずのものまで、責めてしまってるんじゃないかなって思ったんだ」


ショゴスは、ゆっくりと言葉を選ぶ。

彼女の心に直接触れるかのように、静かに、優しく。


ショゴス「楽に生きるっていうのはね、

全部をちゃんとやらなきゃって思わないこと。

誰かの期待に応えなきゃって、無理に背伸びしないこと。

……そして、“できなかった自分”を、いちいち罰しないことだよ」


彼女は黙ったまま、膝の上で指を組んだりほどいたりしている。

その小さな手の動きに、緊張と戸惑いがにじんでいた。

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