第4話 ごめんなさい!間違えました!


「あの、僕、ココア作ってきますけど、松戸さんも飲みません……?」


 もう一度、小さく声を掛けてみる。


「ココア?」


 松戸さんの目が、一瞬だけこちらを見た。


「普通に粉末のココアだけど……甘いの、好きかなって」


 Aボタンを連打する松戸さんに、とりあえずの意思確認をしてみる。

 また断られるかと思ったけど、反して、松戸さんの動きはピタッと止まった。彼女はやっとゲーム機を膝の上に下ろし、顔を上げる。


「うん、好き!」


 晴れやかな笑顔が戻った。ようやく、いつもの松戸さんになる。


「ほんと? 良かった……」


 僕はひとまず胸を撫で下ろした。

 なにせ、普段は全方位に謎のハイテンションで向かっていく松戸さんが、ニコリともせずにボタンをカチカチしているなんて──かなりのホラー映像である。


 いや、学校での、「すーく〜ん!」と笑顔で手を振りながら猛スピードで追ってくる松戸さんも、それはそれでホラーかもしれないけど。


「じゃ、すぐに作ってくるんで、ちょっと待っててくださいね」


 そう言い置いて、僕は向かいのキッチンに向かった。電気ポットの中に熱湯があるので、それほど時間は要しないはず。


 マグカップを二つ並べ、冷蔵庫から粉末ミルクココアを取り出した。ええと、あとはスプーンか。

 食器棚の抽斗ひきだしを開け、カトラリー入れをガチャガチャ漁っていた時だった。


「すーくん! ちょっと!」


 リビングの方から大声で呼ばれた。


「え、ちょ、なんですか?! 今──」


 今からココア作るとこなんで──と続けようとしたが、そこに松戸さんの興奮気味の高い声が被ってくる。


「色違い、出た!」


「は!? えっ?!」


 そんなこと有り得る?!


 あまりのパニックに、バーン!と無駄に勢いよく抽斗を閉めてしまった。

 そこへ駆け付けてくる松戸さん。


「キラーンってしたの! 確認して!」


 2Siを眼前に突きつけられた。

 近すぎて、画面のクレセルナに焦点が合うのに時間がかかったが、これは──


「……ほんまに……色違い……」


「ね、気のせいじゃないよね?」


 目を擦って、再度確認する。が、結果は同じ。


「気のせいじゃない!!」


「わああ!! やったー!!」


 ばっ、と松戸さんが両腕を広げた。

 衝動的にその胸に飛び付き、叫ぶ。


「神! まじ神!! ほんまに神!!!」


「でしょ! もっと褒めていいよ!」


 松戸さんがぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ衝撃で、全身が揺さぶられる。


──えっ? あれ、今……。


「か、神!」


「わー、嬉しい!! もっと言って〜!」


 背中に回った松戸さんの腕が、ぎゅうぎゅう身体を締めてくる。

 これ、もしかして……やっちゃった……?


「あのっ、待って、すいません間違えました! ごめんなさい、離して! てか、許して!!!」

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