#02 Side 楓
妾が生まれたのは、この世界ガウスができてから1000年ほど経ってからじゃろうか。もう遠い昔の話じゃ。
魔物は魔素溜まりから自然い発生する。その頃、神の頂の中は非常に濃い魔素が溜まっていたのじゃ。当然のように、さまざまな魔物が生まれ、殺し合っていたのじゃ。
神の頂は高き山々に囲まれているため、魔素は拡散せずに溜まっていく。そこは、まさに巨大な蠱毒の壺そのものであった。殺された魔物は魔素に返り、地中より噴き出す魔素と合わさり魔素が濃くなっていく。魔素の濃さに応じて強い魔物が生まれる。生まれた魔物は、他の魔物を殺しさらに魔素が濃くなるという悪循環。中には、空を飛ぶ能力を得て神の頂から飛び去ったものもいたようじゃが、戦闘を好むものたちは争いを繰りかし、強者のみが生き残る。魔物の殺し合いが繰り返されること1000年。そして、妾が生まれたのじゃ。
当時の妾は、それはもう強かったのじゃ。なんせ、妾は魔素を喰らうことができたのじゃ。強き魔物を一掃し、その魔素を喰らってさらに強くなっていく。妾が魔素を喰らうことで魔素も薄くなり強い魔物が生まれなくなってきた頃、妾は神の頂に飽きておった。
そして、その外に興味を抱いたのじゃ。より面白いものがあれば良し、なければ外の世界を破壊し尽くすために。
さすがに世界の危機となれば、神が動く。
須佐之男命様が顕現なされたのじゃ。妾は愚かにも神に挑んだ。その戦いは100年も続いた。最後に妾の最大出力の攻撃と須佐之男命様の一撃が衝突し、神の頂に大きなクレーターができたのじゃ。それが今の天の湖になっておる。最後の一撃で妾の力は尽きていた。妾は満足したのじゃ。今消滅しても悔いはないと。
そこで、須佐之男命様は、妾に眷属となり神の頂を平定するように命じられたのじゃ。ミコト様は妾を殺そうと思えばできたであろうに、妾が満足するまで戦いに付き合ってくださったのだと、その時気づいたのじゃ。それであれば、妾に否はない。妾に世界樹の種を授け、この場所で育て守ようにと。
それから、妾の無聊を慰めるかのように、知恵のあるものたちが生まれるようになった。最初はエルフであった。彼らは妾の庇護を望み、世界樹の元に里を作った。生き残るために魔法を教え、身を守るための護身術を身につけさせた。あまりにも脆弱であったために、妾の魔素を与えたことで、ハイエルフに進化したのはご愛嬌というものじゃ。
あの頃は、里を作ることが楽しかったのじゃ。
里が30人を超えた頃、里にミノタウロスの集団が攻めてきた。
妾の育てた里の者は、温厚なれど強者の集団。あれを秒殺というのじゃろうか。
殺すことなくボコボコにされておった。そのミノタウロス達は妾に従う者となり、妾の魔素を分け与え、無用の争いを避けるため湖の向かいで暮らすように命じた。こやつらが牛鬼の村チカトの最初の住民達となったのじゃ。それから、ドライアドが生まれ森を管理したいと申し出てきたので許可を出した。他にも何種類かおったような気がするが、忘れたのじゃ。
世界樹による魔素の吸収と妾による魔素の吸収により、神の頂ないの魔素は極端に少なくなったのじゃ。それゆえ、神の頂には弱い魔獣しか生まれぬようになった。
強い魔物が生まれても、里の者やチカトの者によって屠られる。残っておるのは、神の頂へと通じる道を守るグレーグリズリーぐらいのものじゃ。
それからの神の頂は非常に牧歌的な場所となった。なってしまったのじゃ。
それからの妾は、退屈で退屈で退屈で、それはもう退屈な日々じゃった。
里の者は、妾を敬い、世話をしてくれるのじゃが、変わらぬ日々の繰り返し。
いつしか、妾は深く眠ることにしたのじゃ。起きるのはエルフの成人の儀式の時だけじゃったな。それからさらに1000年とちょっと経った頃じゃったか、急に世界樹から溢れ出る魔素の量が増えたのじゃ。そして、里の過疎化も進行し、成人の儀式も減った。その結果、妾の体に魔素が溜まっていく。過剰な魔素は妾から理性を奪い暴走させてしまう。退屈とはいえ、妾の育てた里があるのじゃ、里を壊したくはない。
魔素による暴走が迫ってきているある日、ミコト様から使徒を送ったという連絡がきたのじゃ。そう、アキラがやってきたのじゃ。
アキラは、異世界の人族、魔素の多い少ないで上下関係を決めぬ。師匠と呼んで尊敬はしてくれておるが、いうことは言ってくる。それがとても新鮮で愉快であった。ミコト様からのアドバイスとはいえ、魔素から生まれた唯一無二の存在である妾が女の色香とやらを使うことになろうとは。子孫を残す必要がないゆえにそのようなことは考えたこともなかったのじゃが・・・。
アキラとの毎日は、とても楽しくて、生まれてからこんなに楽しい時期はなかったのじゃ。修行と称してそばにおるのも心地よい。
里の食事が劇的に改善したのも楽しみの一つじゃ。
昨日のフルーツ牛乳なるものも美味であった。明日はコーヒー牛乳なるものを飲ませてくれるのじゃ。こんなにも明日が楽しみとは、妾はどうしてしまったのじゃろうか?
そういえば、最近、アキラが人族であることを考えると胸が苦しくなるのじゃ。
人族の寿命は短い。それゆえできるだけ、側で見ていたい。
死なぬように、できるだけ鍛えておこうと思うのじゃ。これが親心というやつなのじゃろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます