第27話 窯

 修行の時間までもう少し余裕がある。


 せっかくオリーブオイルが手に入ったのだ。

 あれを作ろうと思う。


 その前に、調理用の窯を作る。

 水や空気を魔力で操作する要領で土に魔力を流していく。

 そして、ドーム上に固める。


 薪を入れて火を着け窯を熱する。


 次は、具材の準備。

 ホーンラビットの肉を薄く切って塩を振ってしばし待つ。

 オリーブオイルで軽く炒めて置いておく。


 そして今回の主役トマトだ。ギアナが持ってきてくれたものだ。

 トマトの種は今回は取っておく。あとで畑に植えてもらいトマトを育てようと思う。

 塩を加えて潰しながら煮詰めていく。ローズマリーを少し加えて香りを足す。

 トマトソースの完成だ。


 最後に生地を作る。

 小麦粉に塩を混ぜ、オリーブオイルとぬるま湯でこねていく。

 こぶし大に丸めて少し生地を休ませる。

 本当は2時間ほど休ませたいところだが、今回はお試しで


 休ませた生地を丸く薄く延ばしていく。

 延ばした生地にトマトソースをたっぷりと塗る。

 チーズとホーンラビットの肉と舞茸を乗せていく。


 窯の中の火が収まったところに

 生地を投入する。10分ほど待つ。

 窯からトマトソースとチーズの焼けるいい匂いがしてくる。


 匂いにつられて村のエルフ達が集まってきた。


「よし、できた。ホーンラビットのトマトピザ完成だ。」

「アキラよ。このうまそうな食べ物はどうやって食べるのじゃ?」

「8当分に切り分けて食べるんだけど、ピザカッターがないな。」

「ん?切ればいいのか?ほれウインドカッター」

「本当に魔法って便利だな。早く使いたいよ。」

「何を言っているのじゃ。窯を作るときに使っておったでないか?」

「え、あれ魔法!?」

「うむ、あれも土魔法と言ってもよい。そもそも魔法とは、魔力を使って起こす事象のことじゃ。ファイヤーボールやストーンバレットなど人間どもの定型立てた魔法もあるがの。どちらもその本質は同じなのじゃ。」


 師匠が雑談しながら、他のピザも切り裂いていく。


「よし、切れた。それでは食べましょうか。」


 最初に師匠が食べる。

 師匠はこの村の守護獣的な人物(?)だからね。

 師匠が食べないと他のエルフさん達も食べられない。


「・・・う、美味のじゃ。チーズがとろっとして、トマトの酸味とよく合っておる。ホーンラビットと舞茸もトマトソースとの相性は抜群じゃ。」


 次にピザを手に取ったのはフクさんだ。


「楓様のいうとおり、これは美味しいね。生地がパリッとしていて何枚でも食べられそうだよ。このキノコの食感も最高だよ。こんなのが森にあったとはね」


 ドルフさんや他のエルフたちもピザを食べていく。


「うまい!」

「こんな美味しいもの食べたことないよ。」

「これでいつお迎えが来てもいいわい。」


 なんか1人やばいことを口走ってるけど・・・ご高齢のエルフがいうと洒落にならない。


「やっぱりピザは最高だ。トマトとチーズが村でも手に入れば、食事処のメニューに加えられるんだけどな。」

「アキラ様、トマトは任せてください。」


 名乗り出てくれたのは、アドムさん。奥さんのアーミさんと一緒に村で野菜を育てている人物だ。

 見た目は30代後半くらいのイケおじとイケおば夫婦なのだが、聞くと700歳半ばらしい。

 本当にエルフの年齢はわからんね。


 早速トマトから避けておいた種を渡す。


「トマトは確か水捌けの良い土壌で育つ野菜だったよ」

「アキラ様、ありがとうございます。こんない美味しいものが食べられるのなら、私が美味しいトマトを作ってみせますよ。」


 後はチーズだ。


「チーズの入手先に心当たりがあります。天の湖の対岸の先にもう一つ村があります。そこでチーズを作っていたと記憶しています。」


 ドルフさんが教えてくれた。

 なんでも牛鬼という種族が暮らしている村だということ。


 牛の鬼と書いて牛鬼。絶対やばい奴らだよね。


『牛鬼は非常に強力な魔物ですが、温和で野菜を主食とした生活をしています。』


 おお、メーティスさん。解説感謝です。

 温和な種族なら会話ができるだろう。

 ここでチーズが手に入れば、料理の幅が広がる。


「このピザとやら非常に美味い、アキラよ。明日、牛鬼の集落へ行ってくるのじゃ。」


 師匠が追加のピザをご所望だ。

 ああ、グリーンウッドの森で見た蜂の巣から蜂蜜が採れていたならクワトロフォルマッジもどきも作れたのに。






 食事を終えて、本殿に戻ることになった。

 修行の時間だ。


 赤い鳥居の階段ダッシュ。

 38分で完走。

 魔剣の素振り1100回突破。


 両方の課題をクリアできてしまった。

 どうやら、グレーグリズリーとの戦いで死ぬ気で魔力をコントロールしたことで、そのコントロール力が大幅に向上していたようだ。それを使えば、30kgの亀の甲羅を背負っていても1000段の階段を余裕で走れた。

 魔剣の魔力を吸い上げる力にもかなり抵抗できている。


「アキラよ。これほど早く課題をクリアするとはな。思っておらなんじゃぞ。よくやったのじゃ。」

「し、師匠。では、」

「うむ、約束の褒美の時間じゃ。まずは温泉で汗を流してくるがよい。妾は寝所で用意をしておこう。」



 お父さん、お母さん。そしてエロ仙人様。俺は今日漢になります。

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