Ep.3
彼女が用意してくれたお茶菓子とミルクを楽しみながら談笑に興じる。
「ポルタ、図書室にはもう入れそう?」
「ふふ、もう少しお待ちください。明日には入れるようになると思います」
笑みを漏らしながらポルタは言う。
本の沢山ある場所で好きに読みたい、と俺にしては珍しいわがままをお願いしたものだから、少しは子供っぽい一面が見られて微笑ましいのだろう。このやり取りも毎日してるしな。
俺に関しての状況も整理してみる。
クリス・ヴァルズマズ。ヴァルズマズ家が男児。それが俺である。
ヴァルズマズ家が貴族の家なのはこれまでから察する通りで、さらに俺が今居る国「フログラント帝国」の貴族の中でも偉い家なんだそうだ。キャウル大陸の北西端に位置するフログラント帝国において、内陸南東端で大山脈から降りてくる怪物や隣接する他国に睨みを利かせる、官吏としての"辺境伯"と言ったところか。
畢竟父親はヴァルズマズ家の当主なのだが、彼が顔を見せたのは数回しか覚えがない。彼が放つ凄まじいプレッシャーにあてられて毎回冷や汗が止まらなかった。前世でも感じた事の無い貫禄に、貴族社会の荒波に揉まれるとはどういう事かと恐怖を抱いた。
母親は俺を産んだ時に亡くなったと聞いた。ポルタは誤魔化そうとしていたが俺が直截尋ねたら申し訳無さそうに答えてくれた。俺の黒髪と右の黒目は母親譲りらしい。左目は黄色で、こちらは父と同じ色だ。あまり似ていないのも敬遠される一因なのかもしれない。
会った事は無いが、実は俺には少しばかり早く生まれた兄が居ると聞いている。つまり腹違いの兄弟という訳だな。俺が次男、向こうが長男で、将来この家を継ぐ事になる嫡子という事になる。
......これってアレだよな、絶対厄介事になるパターンだ。流石に「このままだと僕を暗殺とかしないですよね?」と馬鹿正直に聞いたら"要らぬ疑い"を掛けられてしまいそうでしていないが。
今はただ、平穏に時が過ぎるよう祈りながら、情報を蓄えていくしかない。その為にも明日から図書室での情報収集にも余念を欠かさないようにしなければ。
......魔法って本当に無いのかな。今日まで一切その気配を感じないし、読み漁っている絵本にも登場しないのだが。特別な魔法で一発逆転!とか後生だからなってくれなきゃ非常に困る。凡人の人生を繰り返したところでいよいよいったい何が面白いというんだ、カミサマよ。
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・主人公は怪しまれないように言葉遣いを子供っぽく抑えるなどは特にしていません。完全な未知の言語なので、日々覚えていく言葉を使うだけで勝手に簡素な言葉遣いになるかなと。時々難解な言葉を使っても「本で読んだ」が事実として通りますからね。
・"あらぬ"ではなく"要らぬ"なのは、自分がクリスに取り憑いた悪魔だと言われてしまえば、実際反論の余地が無いので、彼なりのジョークです。
ポルタ イメージ
https://kakuyomu.jp/users/cynthia384400/news/16818622172970013868
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