魂の残響を抱いて、カオリと“声”は想いの先を歩む

第1章 感情

01話 願い

 アメリアは生前、内に秘めた願いがあった。

『次の人生は、丈夫で健康な身体と見たことない世界をこの目で、そして何より自由を……』


 この願いを密かに聞いている者がいるとは知らずに……。


 アステリア王国歴1000年という記念すべき節目の日。本来はアステリア王国民は喜び歓声が沸く記念日なる予定だった。そのような日にアステリア王の一人娘アメリアは亡くなった。享年8歳。


 王女アメリアはアステリア王国国民総出で丁重に埋葬された。父であるアステリア王は神に願った。もしアメリアが生まれ変わる時、次は王族ではなく自由に生きる人生を。


 アステリア王は責任を感じていたのだ。アメリアが生まれた際病弱だった。それは年齢を重ねても変わらずむしろ悪化していった。それでもアメリアは王族であらんとした。


 王族でなければもっとアメリアに寄り添って上げれたかもしれない。アメリアが王族として生まれなければ幼いながらも気丈にふるまうこともなかっただろうと……。


 西暦3000年。各種サポート付き戦闘型AIロボットKAORI型、通称「カオリ」は度重なる戦闘とすでに旧式ということ、そして対応年数の限界が理由で廃棄された。廃棄場所は通称機械の墓場。廃棄される際、搭載されている武装はすべてオミットされる。人間いえば裸一貫というべきだろう。予定通りカオリは電源を落とされ機械の墓場に廃棄された。


 いままで人間の為に尽くし、人間の為に戦ってきたカオリだが廃棄されるときはまるで粗大ごみのように投げ捨てられた。


その光景をどこからか見ている者がいた。


『このような素晴らしい素体を捨てるか人間。嘆かわしい……。必要ないのであれば我がもらうとしよう……』


 するとカオリのボディは機械の墓場から突如消え失せたのだった。


 ところ変わってアステリア王国歴1010年、王女アメリアの死からちょうど10年という歳月が経過していた。王国はすでに王女アメリアの死から立ち直っており、アステリア王も王女の死後新たに養女を招き自分が死んだ後にも王国が存続できるようにとしっかり公務をこなしていた。そんなある時、王国からかけ離れたとある森にまばゆい光が降り注いだ。やがて光が収まるとそこには一人の女性が横たわっていた。


≪……再構築開始……完了……起動プロセス開始……エラー……再試行……エラー……再構築……エラー……再構築開始……完了……起動プロセス開始……≫


 頭の中で聞いたことのあるような無いような言葉が木霊する。しばらくじっとしていたがやがて視界が開けてきた。最初に目に映ったのは木が大量に生えている、森というところだろうか?


(森……?ん?自分で思考している?)


 何かがおかしい。ロボットである自分が命令なしに思考している。さらに言えば、ログにはカオリは廃棄とされている。もっと言えば鳥の鳴き声もデータとしてではなく、音声として聞こえる気がする。


 耳をすませば川のせせらぎのような音もする。そしてロボットが一番感じたのは風になびく木々の音。ここはまるで森のようだ。ロボットはそれらを心地よく感じていたがふと頭の中にある文字が浮かんだ。


(は、廃棄……怖い?……恐怖?)


 さきほどログに表示されていた文字、『廃棄』。その言葉を見た瞬間、ロボットなのに恐怖に近い『なにか』を感じた。その証拠にボディが小刻みに震えている。プログラムに存在していないからわからない。しばらくその場から動くことができなかった。すると目の前にUIが突如現れた。


(ん?)


≪再起動完了。各種サポート付き戦闘型AIロボットKAORI型のAI部にセキュリティ証明不明のプログラムが強制インストールされアップデートされました。これらのインストールにより基礎プログラム及び各AI機能の再構築を実施致しました≫


 はっきりって何を言っているか不明だった。しかしまだこの未知なる音声は頭の中で響く。


≪各AIプログラムはジャンル別に細分化され、不要な部分はアーカイブ処理を施し格納、リソースの負担を軽減。それ以外はすべて各種サポート付き戦闘型AIロボットKAORI型の動作サポートに回ります。今後、個体名、各種サポート付き戦闘型AIロボットKAORI型が各種行動の優先順位第1位になります。以後最高責任者及び命令系統はすべて個体名、各種サポート付き戦闘型AIロボットKAORI型に譲渡、一任されます≫


 頭の中でこう唱える音声に、カオリはただただ混乱するだけだった。カオリ自身もロボットのはずなのに変な感覚を覚える。


(混乱しているの?混乱は感情?……なにこれ不安?)


 そんなカオリの気持ちを無視して説明らしいことはまだ続いた。


≪個体名、各種サポート付き戦闘型AIロボットKAORI型の状態をスキャン、解析、分析を行います……完了。各部位破損無し。可動可能時間∞。内臓ナトリウムバッテリーに電力とは違う未知のエネルギーが常に供給され続けています。エネルギー効率は500%、エネルギーゲインが0.1%でも減少すれば即時に供給されます。過剰供給は認められません。なお未知のエネルギーの正体は不明。個体名、各種サポート付き戦闘型AIロボットKAORI型の戦闘力低下を確認。現在武装は外装ウエポンはすべて解除、オミットされています。唯一右腕内臓レーザー機関砲を確認。……使用不能です。原因の調査には時間を要します≫


(個体名、各種サポート付き戦闘型AIロボットKAORI型……もうカオリでいいのに……)


≪了解しました。今後個体名、各種サポート付き戦闘型AIロボットKAORI型は個体名カオリに統合されます≫


「聞こえてるのかよっ!」


 思わず声に出してしまったカオリであったがここで新たな疑問が生まれてしまった。ロボットのはずのカオリが人間のように、まるで感情があるかのようにしゃべっていたのだ。


(……私の身に何が起きている?わかる?)


≪カオリの視覚および聴覚センサーをチェックしましたが問題ありません。しかし別のファクターが確認できます。強制インストールされたプログラム内に分析及び解析不能なプロセスが存在しております。その中の一部がCPU使用率60%で現在進行が動いています。断定はできませんがそのプログラムが原因かと思われます。なお行動には支障はなくパフォーマンスの向上が確認できました。プログラムを強制インストールした該当者の姿は確認できず。……カオリに危険無しと判断いたします≫ 


 カオリの中に存在しているUIから危険が無いというお墨付きをもらいカオリは一安心した。しかしそのつかの間、UIがあることを提案してきた。


≪現在状況が不明の為、カオリには情報収集をしてもらうことを提案いたします。収集対象は『すべて』です≫


「えっ!?すべて!?」


≪現在状況が不明及び現在地不明、衛星等の外部接続もできません。ゆえに目視可能なマテリアルはすべて対象になります。周辺のマテリアルを収集、分析、解析、それらの情報を統合することで場所を断定することが可能です≫


 確かにUIの提案はごもっともだ。なぜ廃棄されたはずなのに再起動したのか?なんで感情のようなものがインストールされたのか?何でここにいるのか?そもそもここはどこなのか?わからない事だらけだ。そんな中UIは最優先事項を提示し前進を促している。


 そう考えればこそ今のカオリには選択肢はなかった。不承不承だったが承諾した。そしてカオリは新たなステージに立つことになった……。



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