スペースオブウラシマ
パクデボン
第1話 星の海、目覚めの浜辺
あの星が、青かったのはいつの記憶だったろうか。
すべてを失った地球から、どれほどの時間が経ったのか。
人の声が消えた世界。目に映るのはただ、暗く沈んだ宇宙の海だけだった。
男の名はシン。
彼は、壊れかけの航宙船にただひとり乗り、眠るように漂っていた。
目的も、帰る場所もない。希望もなく、それでも生きている。それが罪であるかのように。
「……っ、また警告か……」
船内に響く警報音。空気循環装置の故障、推進力の減衰、通信機能の喪失。
無数の赤いエラーが、彼にただ“終わり”を突きつけてくる。
しかし、皮肉にもその瞬間――船体が揺れた。
外部からの強烈な引力反応。未知の重力波が、彼の小さな船を捕らえた。
*
次に目を開けたとき、そこは宇宙ではなかった。
潮風が頬をなで、波音がやさしく耳を包む。
眩しい光。あたたかな空気。そして――白い砂浜。
「……生きて……るのか……?」
ゆっくりと身を起こしたシンの目の前に、ひとりの少女がいた。
銀の髪を風に揺らし、澄んだ瞳でじっと彼を見つめている。
その姿はどこか現実離れしていて、まるで海の夢から生まれた幻のようだった。
「ようこそ、旅人さん。ここは“竜宮星”。
……」
少女は、そう言って静かに微笑んだ。
*
案内されるままに辿り着いた都は、夢のような場所だった。
空に泳ぐ魚のような生物。珊瑚のような塔。水と光が織りなす色彩の波。
だが――その美しさの裏側に、シンは奇妙な“静けさ”を感じていた。
すれ違う人々は皆、感情を殺したような表情で、ただ無言で少女に頭を下げる。
誰も笑わず、誰も怒らず、誰も何も言わない。
思わず漏らした問いに、少女はふと足を止めて言った。
「あなた、名前は?」
「……シン。お前は?」
「私はティアラ。この都の“姫”よ」
そう告げた彼女の瞳に、ひとしずくの哀しみがよぎった。
この星の秘密を知る者の、それは深い影だった。
*
この海の底で、人は何を忘れたのか。
何を壊し、何を残し、そして何を捨ててきたのか。
ティアラは思う。
この“星の海”に現れたシンという名の旅人は、やがてそれを思い出す者なのか――それとも
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