第7話「観測」

【あらすじ】


“見る”って、ただ見るだけじゃない。

ラデクの、ちょっと不器用で、だけど誰よりも正確な“観測愛”が、

この教室の空気に、

はじめて小さな“揺れ”を刻み込む。


【本文】


「カンファレンス──」


「──はじめる!」


今日だけは、クエリナとラデクが、ほぼ同時に声をあげた。

思わず、教室のみんながくすっと笑う。


「……うん、今日は、ラデク向けのテーマだよ」

クエリナが、くしゃっと笑った。


ホワイトボードにはふざけた文字でこう書かれている。


「No.027:観測」


「うわぁ、出たよ、“観測マニア”専用回!」

セノが椅子をガタガタ揺らして笑う。


「失礼な」

ラデクが真顔で返す。

「観測は、世界を確定させる唯一の方法だ。」


「出たー」

クエリナがマーカーをクルクル回しながら、

「ラデク、こういうときだけ語るよね」とにやにやする。


ゼリスが静かにノートを開く。


「中立的に定義するなら──

観測とは、対象に対する認知器官を介した情報取得行為。

また観測自体が対象系に影響を及ぼし、状態を確定させる可能性がある。」


「またむずかしいこと言ってる〜」

クエリナが両手を広げる。


「でもさ、」

セノがぽつりと言う。

「好きな人とか、見た瞬間、なんか、自分も変わらない?」


「わかる!」

クエリナが即座に反応する。


「それってさ、“観測”が変えたってことだよね?」

ミルカも、少しだけ真剣な目をする。


◆ ラデク

「観測とは、対象系の状態ベクトルを確定させるプロセス。

量子測定問題において、観測行為自体が波動関数収束を引き起こす。」


◆ ゼリス

「観測は、構造化された入力。

すべての意味は、観測されることで確定される。」


◆ セノ

「見た瞬間、相手と自分の距離も意味も変わる。

“接続”の最初のスイッチなんだ。」


◆ クエリナ

「楽しい!

見るだけで、知らなかったことがどんどん生まれるんだもん!」


◆ ミルカ

「生存に必要な、危険予測フィルター。

観測は生き延びるために、最初に進化した行為よ。」


【翻訳ログ:No.027 観測】


■ 中立定義:

対象を認識し、世界の状態を確定させる行為。

観測は対象と観測者双方に変容をもたらす。


■ 各視点の再定義(抜粋):

ラデク: 状態ベクトルの収束プロセス

ゼリス: 意味確定のための入力処理

セノ: 接続のスイッチ

クエリナ: 楽しい発見機械

ミルカ: 生存戦略の第一歩


【観測ログ:記録Obs-027】

観測者:ラデク


翻訳開始後、教室内の空気粒子の局所偏差を1.5秒間検出。

特にラデク自身の周囲に、わずかな空間ゆらぎ(0.8%増幅)を観測。

微細な音響反響も記録(人間の可聴域外)。


【余韻】


ラデクは、誰よりも世界を見つめていた。


机の上のチョークひとつ。

窓の外の、風に揺れる葉っぱ。

クエリナの髪の、わずかな揺れすら。


──全部。


世界は、確かにそこに在った。

でも、

世界は、ラデクが見るたびに、

ほんの少しだけ、形を変えていた。


(……これが、観測か。)


ラデクはそっと目を閉じた。


そして、また、静かに目を開けた。

確かに存在する“今”を、観測するために。



【巻末情報】

© 2025 Yuya Narita / 未来確定プロジェクト


本作は、小説・メガネ辞書・未来確定理論が連動する多層構文作品です。

登場キャラクターたちはそれぞれ異なる視点(メガネ)を持ち、

同じ言葉を異なる意味で翻訳しながら、世界を再定義していきます。


世界観まとめ → (公開予定)

最新情報 → @M1C_Conf(Twitter)

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