煤煙まみれの青春

SASAKI J 優

第1話 VFR400RNC30


ーーーゆたぼん、増加傾向にある不登校の生徒や学生達、居場所がみつけられない若者達、トー横キッズ達にこの原稿を捧げる。



原付はもういいと思った。


遅いし、軽い。何より、乗っていて恥ずかしかった。30km/h制限?二段階右折?逆に危ないだろ。なんなんだ、その意味不明なルールは。


原付で走っているだけで、公道では明らかに他の交通から舐められていた。


夏が始まる前に学校をフケていた。笑い声、お前って童貞?くだらない話題。

それに、万引きやパチンコを武勇伝にするクラスメイトに嫌気がさした。


それを聞いていると、たまに、自分の中の何か大切な部分が止まりかけるときもあったが。



俺は幸運だった。

祖父ちゃんは1人孫シングルマザーネグレクト育ちの俺を可愛がってくれた。

美味いものを食わせてくれたし、本も惜しみなく買ってくれた。それに誰よりも高級なおもちゃも買い与えてくれた。

免許を持っていなかったころ、祖父ちゃんの軽トラの助手席でいろんなところへ連れていって貰った。ひょうきんで上品なじいちゃんだった。母から見ると、また違った複雑な感情があったようだが、当時の俺の知った事ではなかった。

 


金は貯まった。だが節約をしたかった。県立免許センターに行き普通自動二輪免許を取得した。一発試験というやつだ。

原付で培われたものがあったので、楽勝だった。


親は文句を言ったが、反対はしなかった。たぶん、俺が本気だと知っていた。あるいは、何も考えていなかったか。 


捨て台詞のように、事故でカタワになるか死ぬかしなさい、と言われていた。



梅雨のあいだ、カッパを着てバイクに乗った。教官はよく怒鳴ったが、怒鳴ることに怯えていたようでもあった。 


一本橋の上で雨が止んだとき、俺は少しだけ笑っていた。理由はわからなかった。よく覚えていない。


中免を取った日の夜、走り出す夢を見た。暗い道路を、ただ走っていた。風の音と、排気音。

起きたとき、足が震えていた。寒さじゃなかった。


その日の午後、俺はバイク屋にいた。

NC30があった。400cc。黒い。綺麗なトリコロールカラーをしていた。

店に行く前にネットでかなり調べていたが、実物はやはり迫力があった。


「これは、速いですか」

「乗る人次第だな」

そう言って、店の親父は笑った。


エンジンをかけさせてくれた。


煤煙の匂いと、なんとも形容しがたい音がした。噂では聞いていたが、実際の音は録音の平坦な感じより立体的だった。


気がついたら契約のハンコを押していた。



それが俺の初恋だった。

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