第2話 文化祭の後で(B君の失敗)
私立桜志館中高等学校の文化祭は秋に行われる。
年に2回、体育祭と文化祭のみ、校舎は解放され、外部からの来客で一杯になる。
来年の2月に子供に中学受験をさせようか考えている父母。教育事業関係者。
そして、近郊にある女子校の生徒。
体育祭はさておき、文化祭は結構自由に行動ができるので、文化祭をきっかけにするしか女子校の生徒とお近づきになる接点はほぼない。
全員がそうというわけではないが、一部の桜志館生徒は目を血走らせて文化祭に臨むのだった。
B君。彼もそんな中の一人だった。
彼の熱量はそれはそれはとても高かった。
もはや、半径1キロ圏内の女子校生徒全員に声を掛ける勢いで文化祭に臨んでいた。
もうあと少し熱量が高ければ、ヤベェやつがいる、と警察に通報されるところだっただろう。
今回はそんなB君のお話。
B君は文化祭2日間で、結局、計20名近い女子校の生徒と連絡先を交換したのだという。
文化祭が終わってしばらくした日、いつものメンツ4人で放課後しゃべっていると、
B君 「そんで、〇〇女子のーーーちゃんは…」
とスマホを見せながら一人一人説明をしてくれるのだった。
驚くべきことに、沿線の女子校どころか、ここから2時間近くかかるような先の女子校の生徒まで連絡先を入手していた。
「忙しそうなこって。ていうか、スマホ2台?ホストかオマエ」
「いやいや必要なんだって、マジで。こっちは本命用で、こっちはブルペン用」
「ブルペン言うな」
B君はマメに、姓名の他、女子校の名前、雰囲気や芸能人の誰に似ているか、といった情報も連絡先に登録していたのだった。
と、その時、本命用のスマホが鳴った。
「おっと、すまん」
B君は鳴っているスマホ片手に教室を飛び出していった。
机に残されたのは、まだアンロック状態で煌々と光るブルペン用のスマホ。
「天誅を下さねばなるまい。魔の手から子羊を守らねば」
「そうだ、ブルペン扱いされたコの恨みを今まさに晴らすべし」
「月に代わってお仕置きをせねば」
*****
翌日の朝。
B君「誰だよー、スマホいじったの。昨日から『大乃国』と『豊ノ島』から「バカ」ってメール来てるんだけど。あと、『阿炎』から電話来たけど怖くて取れねーよ、誰だよ『阿炎』って。登録を全員、力士に変えたのお前らだろ。」
「いや、全員じゃない。『母』があるだろ、ただし」と友人。
「『母』っていうのを一つ残してあるが、実はそれは『母』ではないのだ」
B君「え?」
「本当の『母』は力士の中のどれかだ。そして女子の誰かが『母』登録になっている」
B君は青ざめた。
B君「マジか…。」
それからB君が語ったのはこんな内容だった。
全員が力士の名前だったので、相手を判別するために全員に当たり障りのない内容でメールをして、反応を見ようと思った。返事の内容次第で、もしかしたら相手が分かるかもしれない。
人によって返信に違いが出るような、当たり障りのないメールってどんなのがいいかな。
そう考えたB君は、『母』を除く全員の電話番号に、こんなショートメッセージを送ったのだという。
「キミのことを思い出すとなぜか鼓動が早まって鼻血が止まりません。とっても会いたいです。鼻血を止めて!」
B君はバカだった。
後日聞いたところでは、心配した彼の母『阿炎』は、出張先から何度も電話をしたのだという。
親子関係がどう変化したのかは聞いていない。
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