1-6
「むう……」
ドゥミヌはうなった。スドアとともに現れたのは、確かに体のが鼠色で、目がガラスだったのである。
「ええと、何とか無事に帰ってきました、父上」
スドアの表情は硬かった。彼とドゥミヌは親子だったが、ほとんど同じ屋根の下で過ごしたことがない。スドアは常に「何かあったときの予備」であり、天災や襲撃により皆が死んでしまわぬよう、父や兄弟とは別の暮らしをしてきたのである。
「昨日の嵐は大変であった。お前は助からなかったと覚悟していた。生きていて良かった」
「非常に幸運でした。そちらのペカリクのおかげで、あっという間にこちらに戻ってくることができたのです」
「それなのだが……一体何なのだ、それは」
ドゥミヌは鈍い視線をペカリクに注いだ。
「私はペカリクと申します。見ての通りロボットです。移住先を探査するためこの地を訪れました」
「ロボ……?」
王の視線がさらに重たくなる。
「生命ではない思考体とお考え下さい。私たちは今、存続の危機に直面しています」
「さっぱりわからないが、外海人と考えてよいのか」
「……おおよそ、その通りです」
ジャカラヤの地には、これまでも外の人々が訪れたことがある。その人々は漂流してたどり着いており、目的があって訪れるということはなかった。
「息子を救ってくれたこと、感謝しよう。しばらくはここに滞在することを許可する。その後のことはまた相談することになろう」
「ありがとうございます」
「では下がってよい」
スドアは何か言いたげだったが、頭を下げるとそのままドゥミヌに背を向けた。ペカリクもそれに従った。
二人がいなくなると、王は従者に言った。
「常に監視をつけろ。怪しい動きがあったら、殺せ」
「スドア様もですか?」
「もちろん……そうだ」
スドアは、客人用の家に案内された。島主の館に彼の部屋はなく、その近くには彼専用の家もない。この集落に来る度に、スドアは客人の一人となるのである。
彼の友人や部下と言える人間も、この地にはいない。彼は権力から遠ざけられて生きているのである。長男や次男は、島主を継ぐ者として育てられる。三男より先の者は、島主を継げぬように育てられる。しかし時には、長男も次男も亡くなってしまうことがあった。突然「継ぐ側」になった子供たちは、混乱の中意識を変えていくしかない。
五男だからまずそんなことは起こらないだろう、スドアはそう楽観視していた。彼は権力に興味がない。
「交渉役も嫌なもんだ」
普段まつりごととは関わっていないにもかかわらず、彼は交渉役に選ばれている。交渉の席では、「島主の信頼する息子にございます」という顔で過ごさなければならない。きっと東島の代表もそうだろう、大変だな、とスドアは同情した。
外に出てみる。嵐が雲を吹き飛ばしたのか、綺麗な星空が広がっていた。ペカリクはこの地も星だと言ったが、どうにもスドアは信じられなかった。星はどれも小さく、夜に光っている。この地は大きく、昼に程よい明るさに包まれている。
「結局あいつは、何なんだろうね。魔術師ということ以外は、何もわからない」
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