第33話 先輩!理世さん!反撃だ!
花畑の世界観は、理世。深い海の底の世界観は、建早。崩れかけた廃神殿の世界観は、葦原。
中空に出現した三つの世界観が、まるで銀河同士の衝突のように音を立ててぶつかり合い、混ざり合っていく。
激しい閃光が走り、三人が目をつぶる。光の奔流に、目を開けていられない。
轟々と世界観の中で風が渦巻き、花弁が散る。中空を魚が泳ぐ。神殿に巻き付いた蔦が、風に煽られて音を立てた。
光が、すっと弱くなる。三人は、薄目を開けた。
気が付ついた時、葦原たちは深い海の底にある花畑の中にいた。周りには、崩れかけた柱が点在しており、水面から、所々日光が差し込んでいる。
不可思議で、優しい空間。
「これは……!」
世界観が融合したのだ。三人の頭上にあった世界観は、今や地に足の着いた世界として虚無界に展開されていた。
「凄い……!凄いよ葦原くん!」
理世が感嘆の声をあげて、きょろきょろと世界を見渡した。
「ここ、安心できる場所だね……監視者の、視線がない」
「そうです。俺たちの世界観を混ぜ合わせれば、より強力な世界観として構築しなおせると思ったんです。ここは認知の底。世界観を展開できます。混ざり合ったフィールドを展開できれば、監視者の干渉を防げると思いました」
「一時的な安全地帯か……悪くない。よく思いついたな」
葦原の肩を片手で叩き、建早が労う。葦原は、くすぐったそうに笑った。
ふいに、空が暗くなる。
水面の上から、誰かが覗いていた。
監視者だ。
「逃がさないよ!」
遥か天井にある水面が、監視者の大きな拳に撃たれてガラスのように音を立てて割れる。監視者とイツキが、安全地帯に侵入しようとしていた。
「どうやらあまり時間はないらしいな」
建早がふーっと長く息を吐いた。葦原が返事をする。
「そのようです」
「……監視者ってね……」
理世がぽつりと語り始める。
「彼らは世界を安定させたいの……人と人が深くつながりすぎて、現実の形が変わることを恐れている……だから、心のつながりを制限したいのよ。彼らって多分心と心が繋がりすぎて世界か変わり始めた時、バランスを保つために生まれたの」
建早が上空を見つめながら相槌を打った。
「つまり、心と心を深くつなげれば、あいつは撃退できるってことだな?」
「多分そう……」
「やってみる価値はあります!」
水面のガラスの欠片が、花畑に落ちかかって来る。時間がない。
建早が、理世と葦原に向かって叫ぶ。
「思い出せ!お前たちの出会いを!」
「理世さん!」
「うん!」
理世の口から、かろやかで高い歌声がまろびだす。
幼い日の手のぬくもりを忘れない
この手を 離さずにいよう
歌う理世に合わせて、葦原も歌い出す。
これはあの時の歌。理世と初めて出会った時、葦原が唄っていた歌。
監視者が、びくりと身を震わせる。
歌に合わせて、葦原の姿が幼く変わっていく。
葦原は5歳の姿になっていた。
理世が葦原の手を取る。
風がよみがえる 時が帰って来る
それでも きみと歩いていたい
二人の記憶の奔流が浮かび上がり、流れ始める。世界観可視化現象。葦原と理世との出会い。その世界観を美しいと思った、輝く思い出。葦原の歌を、理世が素敵だと思った瞬間。その流れは感情そのものになって監視者のもとへ流れ走って行った。
感情の波が監視者にぶつかる。イツキは寸での所でそれを除けた。監視者が、悲鳴を上げて仰け反る。
体中にノイズが走り、監視者の存在自体がブレ始める。
世界が一つになるその日まで
ぼくらはずっと 手をつないでいよう
葦原と理世の声が、高らかに響く。監視者が苦し気に身を捩る。イツキが、苦々し気に顔をゆがめた。
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