第21話 レヴィアは主人公として魅力的か

「言ってる意味が全然わかんないんだけど。神って何なの?」

「この世界でも物語には作者がいるだろう。俺たちの世界も同じように作者の意思で形成されているのさ。それがこのノートを書いた存在。


 君たちの能力も、魔王様が君たちを見限ったのも、君がかつて幼馴染の彼女を燃やし尽くしたのもすべてこの作者が仕組んだことだ」


 ザラシエルは忌々しい、と言わんばかりに額を掴んで首を振る。怜には彼の言っていることがまったく理解できない。いぶかしげに睨むと、彼は溜息をついた後、誰もいない空を睨み、見えない一番星を狙うように指を突きつけた。


「読者の諸君は本当に彼女、いや彼が主人公でいいと思うのか? 敵を目の前にして自分は戦いもせず仲間に任せきり、重要な自分の秘密を長く語らず、強大な破壊の力を使って敵を返り討ちにするどころか封印し中途半端な能力を使う。

 そんな存在が君たちの読む物語の主人公でいいと本当に思うのか? 常に戦場で先頭に立ち、あらゆる困難に立ち向かう者こそ綴られるべき主人公にふさわしいとは思わないか!」


 空に向かって狂ったように演説を続けるザラシエルだが、読者と呼ばれた空の向こうにいる存在からの答えはない。


「結局アンタ何しに来たのよ?」


 怜が問いかけると、空を見ていたザラシエルはようやく怜たちの方へと向き直り、興奮のにじむ額の汗を手で拭う。


「この世界の物語は君という主人公で進んでいる。俺たち四天王は敵役。それがどういう意味かわかるかい?」


 もう答える気も失せて、呆れた怜はげっそりとした顔で首を振る。ザラシエルも答えを期待していたわけではない。


「俺たちは負けることだけを期待されているってことさ! 生まれた瞬間から君に倒されるために創造され、生かされる。そんな理不尽を知って、そのまま黙って待っていると思うかい?

 俺はこの世界で一番不幸で一番幸福だ。世界の真実を知って、ただ一人それに抗えるんだから。たとえどんなに優秀な作者でも、死んだ魔族を主人公にしたまま物語を続けるのは無理だろう? だから俺は君を殺して、この世界に用意された物語をぶち壊すんだ」


 ハハッ、とザラシエルの口から笑い声が漏れた。演技ではなく心の底から出てきた狂った笑い声だった。


「アンタの目的はわかったことにしてあげる。でもウチを殺すのが目的だったらなんでカミラがウチと同じように魔族だってバラす必要があったの? アイツの能力って動画配信できなくなったら使い物にならないんでしょ。顔と仮の名前がバレて、ウチだってバイトと大学追い出されたんだから」


「敵の心配とは本当に恐れ入るよ。俺がここまで言っても、君は自分じゃなく敵であるカミラのために怒るんだね。本当に反吐が出るよ」


「御託はいいから。教えてよ」


「いいだろう。自称知略担当の君には理解できないだろうしね。カミラはSNSや動画サイトに登録できないと能力を失う。だから彼女からそれを奪って、代わりに俺が与えてやることにした。そうすれば彼女は俺の言いなりだ。ついでに同じようにこの世界中に裏切り者だと喧伝けんでんする方法をやってみせることで、ジュダも俺の言うことを聞くようになる」


 ザラシエルは、指で自分の頭をトントンとつつく。


「これが知略だよ。破壊の力を捨てた君が言い訳に使っているのとはまるで違う。世界の真実を知った弱い俺が、世界に抵抗するために身につけた力だ」


 ザラシエルは初めて寂しげな笑顔を作り、すぐにその笑顔を消して怜をじっと見た。反応を期待されていると怜は直感的に思う。怜の知略が嘘であることは仲間にも話している。しかし、この一瞬だけは頭をフル回転させて、ザラシエルの知略が思い通りにいかないような答えを出したかった。


「アンタって最低だ。アンタは絶対にウチが倒す」


 たどたどしくも静かに、選びだした言葉を告げる。それが正解だったのかはザラシエルのこめかみがピクピクと痙攣し、無表情を装う姿が物語っていた。


「急にそんなことを言い出すのか。自分が主人公だと聞いたからか? 勝てるとわかっているなら戦えると思っているのか。やっぱり君は主人公に向いていない。必ず君を殺して、この駄作を打ち切ってやる」


 ザラシエルは我慢できなくなったのか、怜たちに背を向けると、怒りで低くなった声で何度も大きく息を吐きながら言い続ける。


「これだけ暴れれば、レヴィアが反乱を起こしたことは瞬く間に広がるだろう。魔法少女たちの戦力も分析できた。今日の目的は果たした。次に俺が何をしかけるか。恐怖しながら待つといいさ」


 ザラシエルはまた空間に黒い裂け目を生み出すと、その中に今度は体ごと入っていく。すっぽりと中に入ると、裂け目は消えてなくなってしまった。


「お姉さんたち、大丈夫ですか⁉」


 天麻が水面を走ってこちらに向かってくる。


「大丈夫。ジュダとカミラは?」

「途中で空へ飛んだと思ったら戻ってこなかった。逃げたという風ではなかったからザラシエルから命令があったのだろう」

「あいつら私らをおちょくっとったんか?」

「ウチに言いたいことだけ言って帰っていったし、ホントに何しに来たんだろ」


 怜はまだ納得いかない様子でザラシエルが消えた空間を見つめていたが、答えが返ってくるはずもない。


「まだ襲ってくることは間違いない。四天王ももう一人いる。グラヴェルズはまだ戻ってこないのか?」

「大丈夫だって。すぐ戻ってくるって」


 怜はそう答えたが、今までのように真正面から攻撃をしかけてこないザラシエルにやりにくさを感じていた。


 レヴィアが海浜公園を襲ったというニュースはメディアで大々的に報道され、怜の立場は一層悪くなる。世界は怜に味方しているとザラシエルは言っていたが、すべて彼の思惑通りに進んでいるようで、怜は喉の奥に何かが引っかかっているような違和感を覚えていた。

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