第2話 追体験のはじまり

???「これより、あなたの人生の追体験を始めます」


紬「え……?」


 


突如、体がまばゆい光に包まれた。

困惑する紬。けれど、不思議と不安はなかった。


 


紬(?)「とうとう、この家には私ひとりだけになってしまった……」

紬「……え? 今のは……?」


どこかで見たような光景。けれど、はっきりと思い出せない。

そして、曲がっていた腰が伸びていく。


 


紬「これは……どういうことなの⁉︎」


 


夫(?)「どうして分かってくれな……」

女の子(?)「お母さん、お誕生日おめで……」


 


肌のシワが消え、若さを取り戻していく――


 


見覚えのある男性「結婚、おめでとう……」


艶を取り戻した髪。気づけば、少女の姿に変わっていた。


 


紬(?)「また今度、話そ……」

笑顔で手を振る少女「……」


 


紬「……っ⁉︎ 待って……‼︎」


思わず手を伸ばす。その先に、確かに"彼女"がいた。

けれど――指先は、虚しく空を切った。


 


紬(心の中)

「どうして、止められなかったの……?」


少女はただ、微笑んでいた。

そしてそのまま、ゆっくりと姿を消していく。


その背中に向けて、紬は無力感と後悔だけを抱えていた。


 


紬「待って、……お願い、もう少しだけ……」


だが、その声が彼女に届くことはなかった。

言葉は空しく、時の流れに消えていく。


 


女性「ほら詩音、ご挨拶は?」

幼い少女「はじめまし……」


 


気づけば、紬の体は五歳児ほどの大きさになっていた。


 


紬「どうなってるの⁉︎」


 


身体はさらに小さくなり、とうとう赤ん坊に――

そして、意識はふわりと薄れていった。

あの笑顔を、心に焼きつけたまま――

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