スキル【着ぐるみ】で、今日もザコをだまし討ちしたいと思います♡

明知宏治

スキル【着ぐるみ】で、今日もザコをだまし討ちしたいと思います♡ 【序】

「スキル【巨人の怪力】!うぉぉぉぉ!」

 薄暗くジメジメとした巨大洞窟に野太い雄叫びが上がる。

 薄汚れた甲冑とボロのマントを身につけた、顔の右半面に大きな火傷の後がある中年面の二重顎の巨漢が右腕を振り上げる。その腕は銀色に輝く義手であった。

 ギェェェェェェ‼

 と、けたたましいうめき声とともに、緑の肌をしたゴブリンが吹き飛ばされる。

「流石にまだ攻略されていないダンジョンだけあって、低級モンスターの数が多い。冒険者の生還率が低いのもこれが原因か」

 そう呟きながら、巨漢はダンジョンを見渡す。

 ダンジョン内に空いた無数の横穴からゴブリンたちが次から次へと湧いて出てくる。

「こりゃ、ゴブリンの闘技場だな。スキルを鍛錬するには、いい場所だ」と笑みを浮かべ、棍棒を振りかぶり飛び掛かるゴブリンをいともたやすく殴り飛ばす。「とにかく、前進あるのみ。ダンジョンのボスを倒せば、冒険者の生還率も少しは上がるだろう」

 そう気楽に言い、巨漢は目の前に立ちふさがるゴブリンの群れをバッタバッタと拳で吹き飛ばし前進する。

 そのとき、背中にゾクゾクゾクと悪寒が走る。

「そこか!」

 咄嗟に振り返りゴブリンの頭を掴み背後に投げ飛ばす。

 ドゴーン!

 とゴブリンを投げ飛ばしたほうから黒煙が上がる。

「殺気が消えた、逃がしたか」と、背後を気にするように睨みながら前へと歩もうとした時、下半身が硬直し動かないことに気づく。

 足が止まった隙を突いて、ゴブリンたちがここぞとばかりに一斉に襲い掛かる。

 ゴブリンたちは、先ほどの仕返しとばかりに、身の丈の倍以上大きな巨漢を四方八方から棍棒でなぐり、甲冑を剥がし、露出した肌を鋭利なダガーナイフで切りつけた。

「ハハ、まずいなこれは。皆がいればこんなことには……」と軽く苦笑いする。「いや、泣き言は後だ。しょうがない、アレを使うしかないか……」

 体中に付けられ続ける傷から赤い血をダラダラと流しながら、銀の右腕を強く握り締める。

「何、カッコつけてんのおじさん。だっさ~」

 耳元に嘲笑する女児のささやき声が響く。

 声の方へと視線を向けると、小綺麗な黒のハンチング帽をかぶり、尖った縦長の耳に青色の羽飾りを付けたゴブリンが、ニヤニヤと笑みを浮かべて肩に乗っている。

「人語を話す、ゴブリンだと!?」

 目を丸くして驚く巨漢をよそに、羽飾りのゴブリンは徐にダガーナイフを二刀構えて飛び上がる。

 そして巨漢に取りついて攻撃していたゴブリンたちを目にもとまらぬ速さで切り裂いた。

 巨漢を取り囲んでいたゴブリンたちが、困惑し動揺するのをあざ笑う羽飾りのゴブリン。

「クク。仲間に攻撃されて理解不能のザコゴブリンは、さっさと消えてね~」

 言い放つと踊る様に飛び跳ねては、クルクルと空中で回転しゴブリンたちを斬殺していく。

 ゴブリンの緑の血が辺りに飛び散るたびゴブリンたちは怯え、2匹5匹と散り散りに横穴へと逃げ去っていった。

 ゴブリンたちの骸の上に立つ凛とし精悍な羽飾りのゴブリンに、思わず見とれてしまう巨漢。

「ありがとう。助けてくれて」と巨漢は言って頭を傾げて問う。「君は、味方なんの―うごぉぉ―!?」

 巨漢の問を遮る様に、羽飾りのゴブリンが小ビンに入った液体を巨漢の顔面にぶっかける。

「うごぉ~だって、ククク、ウケる~」にんまりと眼を歪ませ、からかう羽飾りのゴブリン。「おじさん、ダンジョン舐め過ぎ。ソロで来るとか自殺行為だよ~」

「それはまあ確かに反省するよ。アハハ…」

 まさか、ゴブリンに説教される日が来るとは、と苦笑いしながら思う巨漢。

「じゃあ、動けるようになったらさっさと出ていってよね。ザ~コおじさん」

 そう言い捨て、羽飾りのゴブリンが立ち去ろうとしたとき。

 ジュボボボ————!

 メラメラと眩しく燃える火球が、横穴から飛び出す。

「えっ⁉」

「危ない‼」

 咄嗟に巨漢は足を踏み出し、銀の豪腕を伸ばす。

 ゴゴゴゴゴゴゴ‼

 ゴブリンの骸が焼ける苦々しい臭いが漂うなか、巨漢は降り注ぐ火球を掻い潜り、横穴へと逃げ込んでいた。

「はあはあ…。大丈夫か」と額に汗を滲ませながら抱き締めていた羽飾りのゴブリンを見つめる。苦しそうに目を瞑る様子に巨漢の手が震えた。

 また、俺は死なせてしまうのか……。

 不意に青々とした炎の中、墨のように焼け焦げた右腕に抱いたかつての仲間の顔がよぎる。

「しっかりしろ!死ぬんじゃない!」

 銀の義手を振り上げ思いっきり羽飾りのゴブリンの頬を叩く。

「ふぎゃ‼」

 叩かれた衝撃で白目をむく羽飾りのゴブリン。

「あ、すまない!スキルが発動したままだった!おい!死んでないよな⁉お——い‼」

「痛いし!うるさーい!なにするのよ、ザコおじ!」

 怒りの声にあたふたとしていた巨漢は安堵する。

「おお!生きていたか!」

「当り前じゃない。これくらいで死ぬわけないでしょ。てか、なに泣いているのおじさん。ひくわ~さっさと放してくれない」

「ああ、すまない…」と涙を拭った巨漢は、不可思議な光景を目撃した。

「ちょっと君!顔から泡が!」

「ふぇ~‼」

 八重歯のある口をあんぐりと開けて悲鳴を上げる羽飾りのゴブリン。一瞬で緑の全身は泡に包まれ、瞬時に泡は弾け消える。

 泡の中からは、灰色のノースリーブパーカーとベルトポーチが付いた短パンを身につけた、腰までとどくピンクの長髪にくるりと大きく吸い込まれそうな濃紺の瞳が特徴的な幼女が姿を現した。

 驚き腰上辺りを抱き寄せていた手に力が入ると、指先からマシュマロのような柔らかな弾力と吸い付く感触が伝わる。

 むにッ……

「ひィ!?」

 甲高い悲鳴とともに、幼女の頬が真っ赤なリンゴのようになる。同時に、小柄な体に不釣り不釣り合いなほど豊満で長い胸がゆさりと左右に揺れた。

 慌てて抱きしめていた手を放す巨漢。

「すまなっ!?」

 一瞬の出来事。眉をひそめ赤くなった中年面の頬を鞭のように俊敏な幼女の回し蹴りが炸裂した。

「ふごぉぉぉ!」

「どさくさに紛れてどこ触ってんのよ、変態—‼」

「本当にすまない!ゴブリンが、君のような女児になって驚いてつい、やましい気持ちはない、本当に申し訳なかった!」

 必死に謝罪するが、幼女の表情は更に険しくなり、光のない濃紺の瞳から殺気のこもった鋭い視線を向けられる。

「ちょっとザコおじさん、今なんて言った?」

「本当に申し訳ない、やましい気持ちはないんだ」

「その前‼」

「ああえっと、ゴブリンが女児に―」

 と言いかけた時、蹴られた反対の頬が幼女の小さな拳に抉られる。それは、素早く重たい殺意が込められた渾身の一撃であった。

「ぐふぅぅぅ‼」

 悲痛の叫びと数滴の涙を流し、幼女からの理不尽な暴力に追わず倒れ込む巨漢。

「誰が女児ですって‼私は18歳、大人の女なのよ‼100歩譲って少女、1000歩譲って女の子なら許したけど、女児はマジでないわ。後、幼女もない、ロリもない、メスガキなんてありえないから!とにかく、人を見た目で判断しないでくれる、ザコザコザコザコザコザコ——おじさん―‼‼‼‼」と怒鳴り散らかし、捲し立てる様に嫌みったらしく続ける。「さっきザコおじさんに、ぶったれたせいでゴブリンの着ぐるみが壊れて泡になって消えちゃったんだけど!これどうしてくれるのよ、ね―ね―!ザコザコおじさん!」

「ほ、本当に申し訳ないことをしたこの通りだ」顔を地面に付けて土下座する巨漢。「考え足らずだった、子供がゴブリンの群れに大太刀回りできるわけがないし、さっきのゴブリンに変身していた、アレはスキルなのか?あんなスキル見た事も聞いた事もない。さぞ名の通った凄腕の冒険者なんだろう。是非、助けてもらったお礼がしたい。良ければ名を教えてくれないか?」

 巨漢は誠意をこめて頭を下げた。その真摯な態度に、幼女のような大人の女の怒りの表情が若干和らいだ。

「うわ~私が凄腕冒険者とか褒めておいて、どさくさに紛れて名前を聞き出そうとしてる~キモ~」

「決して疚しい気持ちはない。命の恩人の名をしらないのは信条に反する。この通りだ」

「ちょっと、圧が、圧が強いザコおじさん」と、幼女のような大人はひいた目で巨漢に訴え、ため息交じりに言う。「私はセルキー。この際だから言うけど、私のスキルは【着ぐるみ】、どんなモノだって私専用の着ぐるみにすることが出来るの。これで、どんな相手だろうとも仲間や天敵になって、だまし討ちしたり、弱点を突くのが簡単、つまり無敵で最強なの!」

「セルキー、改めてゴブリンのときは助けてくれてありがとう。俺の名は、ヌアザ。一応、スキルは【巨人の怪力】だ。ちなみになんだが、先ほどから、おじさん呼びしているが、こんな見た目だが俺は25歳なんだ。これが証拠だ」

 巨漢は、丸太のような首に付けていた金色のタグが付いたネックレスをセルキーに見せる。

「え、金の冒険者タグ?最上位の冒険者の証じゃない」

 年齢に驚く前に、地位に驚かれることはよくあることだと苦笑いするヌアザ。

「ほらここに、25歳って書かれているだろ」

 そう言って、タグに小さく刻まれた、25の数字を指差す。

「確かに25歳って書いてある」

「納得してくれたか」

 少し安堵するヌアザにたいし、セルキーは目を細めていぶかし気に続けて言う。

「でもさ~、これが本当にザコおじさんの冒険者タグだって証拠はないよね~」

 サーと冷たい汗が全身から噴き出るヌアザ。

「……疑うのか?」

「冒険者なんてろくなヤツいないからね~」

 と、言い捨てるなりセルキーは、ベルトポーチから青色の琥珀のようなものを取り出しその場に投げ言う。

「宝石化解除」その言葉とともに、琥珀が瞬く間に手のひらサイズのコウモリに形を変えた。

「スキル【着ぐるみ】」

 コウモリの背にファスナーが出現し、セルキーがファスナーを開ける。

 途端にセルキーの体はコウモリの背に吸い込まれ、コウモリが喋り出す。

「冒険者ギルドにいったら、自称25歳の変態おじさんに襲われたって言いふらしておくから~。ばいばい、ザコおじさん~」

「え、ちょっと、待ってくれセルキー!」

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