≠04:外道ぅー(あるいは、世界でいちばん/暑苦しい夏なんで/あきらめて、どうぞ)
僕の逡巡を完全に置き去りにしつつ、掌サイズの画面の中では目まぐるしいカメラワークにて、今まさに「試合」とやらが開始されてしまったようだけれど。テーブルの天面に置かれた
「『魂バティ』元々の醍醐味は、自らの身体情報を有した『
例の如く、つらつら説明の数パーセント程度しか理解は及ばなかったものの、落とし込んだというよりは混沌の峰側に正気の足裏を踏み外したとしか表現できないほどの迷走感だけは伝わった。なかなかに傍からの見た目はけったいだね……なんだけど、
「!!」
画面内では想像していたよりも遥かに
<22><18><11><16>
繰り出される不要に大振りな
「……」
そして指先以外を動かさず黙って何かに集中しているみとっちゃんというのは、一日のうちで体感約二分ほどしか見られない/望まれない
押している……?
「魂バティ」初見勢の僕の目から見ても、形勢はそのように映った。画面奥側の未来的桃黒少女―「イヅモ」と表示されているところの端整で華奢な体のあちこちに、手前側の昭和的大将―「ミトヤー」の脂肪を波立たせながら放たれる打撃のふたつにひとつくらいが確実に着弾している……あれだけ自信たっぷりに言っただけはある……そしてお願いだから何か不必要なことでもいいから喋って欲しいし、手首以外の身体箇所を微動でいいから動かして欲しい。真顔で指だけを高速で動かしている
「っプウッ……!! まあ初っ端奇襲的なやり取りはややこちらの優勢ってところだけど、流石にそれでは押し切れんかぁ……見てみな、頓ジローくん。相手はどうやら『こっち』では珍しい『
無呼吸から急に吹き返したようにそんな人工音声よりも抑揚のまるでない言の葉たちがまた魚群のようにもわり現出してくるけど。言葉の端々から感じられる
<CRITICAL!!>
またも
「……ッ!!」
画面内の脂肪体が背中に回されたワイヤーが視えんばかりのあからさまな引っ張られ挙動によって、推定時速70キロで、彼の、身体は、背後に、ふっ飛んだ!!
「デュフッ!!」
そして本体にも何故かダメージが……ッ!? さらにいきなりコーヒーとティラミスとあと何かが混ざった飛沫が悪質な空気感染ウイルスのようにこの密閉空間に噴霧されたぞ……そして確実に面していた僕の右眼輪筋下部あたりに付着吸着してはその周辺の皮膚と筋肉をおぞましさにて収縮させていくぞ……紙ナプキンでその辺りの表皮を患部ごと必死でこそぎ落とそうとする僕だけど、いや、多分これはゲームやってる時とかに感情移入し過ぎて「いてッ」とか言っちゃう類いの
改めて気を取り直して画面内を注視する。「イヅモ」のしなやかな体躯は高々と右脚を振り抜いた姿勢で、何と言うか「キメ」みたいな残心感を出しつつとどまっている。軸脚と蹴り脚の描く目測120度くらいの聖なるデルタを回り込んで下から舐めるようなカメラアングルは、これは分かっている人間の
「……ふっ、クリティカルダメージを喰らうと『
何だろうこの余裕。自分の窮地ってことだよね? 派手にフッ飛んだと見えた画面内の大将は、数瞬の間があってからすごい内股の生まれたての小鹿のような脚つきにて全身を震わせながらも何とか立ち上がっては来たようだけど。確かにそのサマからは先ほどまで見せていた俊敏な動きは望めそうもない。と言うかこれもう簡単な
「こうなってしまうと例えば単にステップ入れて間合いを取るだけでも、『左薬指第二関節屈伸2回と同時に右中指第一関節屈伸1回の直後に手の甲返し90度』の操作が必要となってしまう……追い込まれたねえ、いやはや」
悠長にそんな解説をしているけれど、そんな奇天烈な操作方法だったのか……そして第一関節って単独で動かせるのだろうかという疑問は沸いたものの、それより何よりとどめを刺そうと前傾姿勢となった「イヅモ」さんがいい笑顔で彼我距離を詰めてきてますけど!!
「そこでキミの出番だ頓ジローくん……画面左下の『赤い丸ボタン』があるだろう? そいつを!! 『秒間12発』でッ!! 『連射』するんだよぉぉぉッ!!」
ええーッ? いきなりそんな唐突指令が出されたのだけれど、「連射」? ああまあ、レトロシューティングゲーを嗜む僕としては、『12』くらいであれば人差し指を中指+親指で挟んだ
「……ッ!!」
シューターとは、いついかなる時も、ボタン状のものを眼前に呈されると、己の技量の限界まで研ぎ澄ませた連射を叩きこんでしまふものだといふ……(諸説アリ
攣っているかのように微振動する僕の右手が、その先端、人差し指の突端へベクトルを伝達し、スマホの画面が共振するほどの連続振動を与えていく……これで、いいのかな? 画面では何かがチャージされていくような、そんな音と光がカクテルされ、そして、
「「『ヴァーティカル=ファイヤー』ッ!!」」
不気味な笑みが
<え? きゃあああああああああッ!!>
完全に無防備に御大に接近した「イヅモ」さんは、いきなりその口から放たれた口から吐くタイプの毒霧のような「炎」をカウンター気味にその華奢な体の前面全面に浴びてしまうのであって。叫び声もかわいいな……い、いや、こ、こういうことか、つまりは、「身体操作」をみとっちゃんが、「技発動」を僕がそれぞれ担うという……えぇとこれ反則では?
「ガバいんだよ、何もかもがねぇ……さあ追い討ちだ。ギアを上げろ頓ジローくん、『16連射』まで至れば、すべてを焼き尽くす『極炎』を放つことが出来、それにて決着だよ、さあ躊躇するな、この夏、このボクと一緒に頂点を目指すんだろ?」
とは全然言っても思ってもいないんだけれど。それにこんな卑怯な技で寄ってたかってまっとうに「試合」をしようとしている女の子をどうにかしようなんて……やっぱり間違っているよ。と今更だけれど諫めようとした、その正にの、
刹那、だった……
<いやぁっ>
非常に可愛らしいそして恥じらいを含んだ軽やかな声が聴こえたので思わずそちらの方を脊髄の指令で見やってしまうのだけれど、画面内のそこには、何故か、全身に纏っていた黒い薄スーツとその上のピンクのアーマーとがボロボロになってそこかしこから艶めく肌が覗いているという、ダメージドなイヅモさんが両腕で身体を隠そうと四苦八苦している姿があったわけで……こ、これはまさか……
「『脱衣KO』、知らないとは言わせないよ。さぁキミの16連射で、すべての邪魔な
瞬間、僕の頭の中で、何かが嵌まって、何かが外れたかのような、そんな感覚が瞬で訪れて、そして、
「フオオオオォォォォ――――オオオオオンッ!!」
自分の意思を超えて、僕の右手先が極大の振動を放ち始める。
敬愛する
僕は、この手で、ナニかを掴むッ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます