第8話


 茶髪で高身長のイケメン――ダリル。彼は帝都に向かっている飛行船に搭乗していた。


「おいおい……。マジかよ……」


 快晴。広大な海が見下ろせる綺麗な景色。冷や汗を掻きながら、ダリルは剣を抜いてドラゴンを睨む。


「慌てるな……! 俺が逃げる時間を稼ぐ……!」


 歯噛みしながら彼は窓を開け、飛行船を追ってくるドラゴンに向かい合う。周囲の乗客達は狼狽し、「少年が戦ってくれるのか?」「騎士が乗り合わせていたのか⁉」「ドラゴンを倒せるの⁉」と歓声が沸く。


「――どきなさい」


 外套を被ったアリスが彼を引き留める。


「誰だ、アンタ……」


 周囲は気づかない微細な圧に、ダリルだけは気づく。


「私はアリス=カーヴェル。帝国の騎士よ」


 そう言い、アリスは彼の肩を掴んで横に突き飛ばす。そして外套を脱ぎ捨て、腰まで伸ばした赤い髪、黒い軍服が露わとなる。


「「…………ッ‼」」


 絶句する周囲。そして先程とは比べ物にならない歓声が、飛行船の全域に響く。


「――――ッ‼」


 一瞬で姿を消したアリスに、ダリルは驚き扉の前に駆け寄った。そして目撃する、圧倒的な魔力を持つドラゴンが既に切り裂かれている光景を。


 宙を舞って剣を振るうアリスの姿を、彼は目に焼き付ける。


 最強のモンスターと名高いドラゴン種を凌駕する魔力。そして一瞬の内に肉塊へと変える技量。その姿は芸術的な美しさを持っていた。


「何だよ、この強さは……」


 そう思うのも無理はない。世情に疎いダリルすら知っている、アリスは自分と殆ど歳が違わない事を。


 彼の常識では有り得ないのだ、そんな年齢でドラゴンを超える魔力を得る事など。


「アリス=カーヴェル……」


 ダリルが呟くと、隣にいたアリスが「何?」首を傾げた。


「え? は? いや……! いつの間に……⁉」


 彼は顔を真っ赤に染めて狼狽して何を言えず、俯いて固まる。目を合わせて会話するどころか、声も上手く出せない。


「えっと? 大丈夫?」


 アリスはダリルの頬にそっと手で触れて顔を覗き込む。背が高くも低くもない彼女は、見上げるだけで自然と彼の顔を覗き込む形となる。


 キレイ系な顔立ち。華奢で細い手足。ほどよい大きさの胸。落ち着いた口調と雰囲気。そんな彼女を前に、周囲は声を出せず固まってしまう。


「…………」


 顔から火が噴きそうなほど、ダリルは顔を赤くして「な、何もねぇ……! た、助けてくれてサンキューな……!」と走って逃げる。


 その一部始終を囲んで観ていた乗客は「青春だね」「儂もあんな初心な頃があったのう……」「目つき悪いのに可愛い男ね」「イケメンなのに凄く照れてたね。もしかして慣れてないのかな?」と生暖かい視線を彼の背中に向けていた。


「…………」


 今の俺は死ぬほどダサいなと、ダリルは走りながら羞恥に震える。そしてハッキリと理解する、自分がアリスに一目惚れしてしまった事を。

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