【異世界からの〚遠距離恋愛〛⁡だけどチートスキルはお預けのうえ銀狼モンスターと三角関係で詰んでます】

夢狐さつき

第1話 異世界への転生

- - - - 《 臨死りんし体験たいけん》の意味は 瀕死ひんしの状態の心停止後の脳味噌のバグなのではないかと考える。


今まさに、往年16歳の生涯を終わらせようとしていた。


「……あの、瀬戸内さん?」

「あ……」


《一瞬、意識が飛んだ気がした》


宙をボロ切れのように舞う俺は、慌てて視線をさっきまで立っていた横断歩道へと移す。

隣にいたクラスメイトも僕をまっすぐに見つめている。彼女の驚きはその滑稽さが、ほとんどコメディに思えた、瞼は信じられないぐらい開いて、潤って美しい瞳がより一層際立って宝石のようだ。


初恋を感じる瞬間を走馬灯が邪魔をする。唐突に人生のエンディングロールが迫って俺は狼狽えながら、偶然に出会したクラスメイトの渕上 沙也加の整い過ぎた顔立ちに見惚れていた。


――――――

俺、 瀬戸内せとうちまもるは登校途中に 黒塗くろぬりのハイエースに似た何かに跳ね飛ばされた――――――


渕上ふちがみさんは駆け寄って叫んでいるが

その声はなぜか俺には届かない。しかし彼女の声は聞こえなくとも伝わっている。


彼女が俺の肩を さぶり何かを叫んでいる。それだけで渕上さんの言いたいことは理解した。彼女は俺の名前を呼んでいるのだ。


彼女の涙ぐむその表情を最後に俺の意識は暗闇に引きずり込まれていった。


――――――


「目が覚めたか?」


誰だろう。聞き慣れた声だけど、誰の声だか思い出せないまま濃い霧の世界を彷徨った。見渡す限り一面は雲の上を歩く夢みたいにふわふわしていて頼りがない。


ここは何処なのだろう? 僕は何をしているんだろう? まるで思考が纏まらないまま僕は周囲を確認しようと立ち上がると、不意に後ろから声を掛けられた。


振り返ると、そこには背丈が高くて中性的な美人さんが立っていた。


「私は、多忙なので要点も省略して簡単に終わらせるから、よく聞け」


女性らしい豊満なバスト、すらりと伸びた手足、腰まで伸びる綺麗な銀色の髪、その女性はモデルを思わせる均整の取れた体付きに見惚れていると


「貴様は死んだのだ」


その銀髪の女性は無慈悲にも死という死刑宣告をした。


《そうだ!俺はあの時に撥ねられたのだ》


僕は慎重に話しかけた。


「そうなんですね」

「ああ、即死だったぞ」

「じゃあどうして喋れているんですか?」


訝しいのか面談で煩わしのか、強くて言い聞かせるように答える。


「それは我の力だ。正確には神としての権能、神の特権で一時的に貴様の魂に直接会話をしている」


事務的でいて遠慮が無さそうな態度と口調だが悪い感じはしない。


「貴様の死はイレギュラーで天界での思わぬトラブルが原因なのだが、詳細も調査中だ」


銀髪の女性は指を鳴らすと真っ暗な空間が歪みそこから大きなモニターが現れると画面に映った画像を僕に見せた。どうやらそれは監視カメラの映像らしい道路に倒れ伏している男。それは、俺だった。


それが自分の事だと気付くには時間は掛からなかった。漆黒の車と衝突した後 血まみれの俺は動こうとしない。


「貴様は自分の命を犠牲に一人の女性を助けた」

銀髪の女性はクラスメイトの渕上 沙也加を間一髪助けることには成功していたようだ。

まぁ、結局はこうして死んでしまった訳だから意味は無いかもしれないけど……それを聞くとなんだか少し救われたような気がする。


「それで貴様に一つ選択肢がある。もし貴様が再び人生を全うすることを望むのであれば転生させてもいいと思っておる」


そんなことができるのか、俺としてはやり直しできるならしたい気持ちもあるので意識を強く持って彼女を見た。


銀髪の女性は何やら手元の資料を読み上げるとある部分の説明が終わっていなかったようで言葉を続ける。


「貴様の記憶を持った状態で地球とは別の世界で転生して欲しいと考えておる」


それは、つまりあれかな、いわゆるチート主人公みたいな無双系のやつなんじゃないだろうか?


ちょっとした願望を持っていたことが実現して、少し舞い上がったけど冷静になった後これは罠なのではと思った。


「あの、やっぱりチートは頂けるんですよね?しかも異世界っていうことはステータス画面とか魔法あるんですしょうか?」

思わず敬語になりつつ質問すると銀髪の女性はまた呆れた様子を見せて返答をする

「条件が特殊の転生ゆえ、チート付与はお預けだ」

銀髪の女性は伊達メガネをさり気なく取り出すと小声で言った。

「貴様の残留思念が邪魔をしているのでクラスメイトへの想いを断ち切って来ることがチート付与の条件だ」

「それはどうやってですか?」

「我が行うのではないな。貴様が転生の世界で眠りについた時に霊体として残留思念を消滅させる為に別世界からワープして此方こちらに来れば良い」

「それは幽霊で現れて残留思念をどうにかしろと言っているのですか」

「その通り、我も忙しい故、いちいち説明したくないから簡潔に伝える。さっさと行ってこい」


銀髪の女性がもう一度指を鳴らした。足元が揺れ始めて僕の足が地面から離れていく


「えっ? ちょ……ちょっとぉおお!!!!」


真っ逆さまに落ちていきながらも銀髪の女神に向かって叫んだ僕は重力に抗う事もできずに意識が遠退いていった。


――――――


抵抗することもできず、意識は遠のいていった。


惑星の自然は破壊され、ゲノムレベルでの改造が高度な兵器開発や無謀な宗教戦争のために行われていた。この惑星の名前を後に知ることになるが。その名は 《ベネーラ》


俺は薄れ浮く意識の中で、為す術なく咲き乱れる前に散る桜の落ちる。


耳障りな雑音まみれのラジオのように聞こえてくる声。


「すまない。焦って肝心な事を伝えてなかった。しばらくはシステム復旧の作業が終了するまでサポートは難しくなるので.....宜し.....頼む」


「時々、連絡を入れるので.....心配しない.....健闘を.....祈る」


一方的に必要なのか、俺に返答する余裕も権利もなかった。


無情にも迫り来る地表が眼前に広がって息が止まる。


落下時の衝撃は、魔法障壁が食い止めてくれたらしく、いくらか軽減された。残りの勢いは、奇跡的に樹木の枝や茂った葉によって和らげられた。


草木が生い茂る森の中で、落ち葉の上に落ちたようだ。怪我はなく、痛みもない。周囲を見渡したが、モンスターの姿は見当たらない。


近くに川があったので、顔を洗い、水を飲んだ。喉が渇いていたので、何度も水を飲み込んだ。



「……ふう」と息をつく。


周りを見ても、森ばかりで人の気配は全くないようだ。


空を見上げると、太陽が高く昇っていたので、昼間だろうと推測した。


「……とりあえず、歩くしかないか」

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