第07話 心配なので付いて行くことに4

 小鳥のさえずりとレースカーテンを潜り抜けて来た陽光に起こされた。後頭部がぼうっとして重い。これは、村の祭りの次の日の朝の気分に似ていた。二日酔い。それに近い。うちの村は子供でも祭りのときだけはお酒が許されていた。だが、酒を飲んだ覚えはない。確か昨日は眠れなくて風呂に入って、そこにユフィアさんが居て、仲間に入れてもらうことにしたんだった。不意に、桜の花びらが頭の中でふわりと舞った。

 そうだ。見た。見てしまった。ゆえに気絶したのだ。


 そこまで思い出すと、余計に頭が重くなった。体まで鉛になってしまった。起きたくない。彼女にどんな顔をして会えばいいと言うのだろう。それに、起きるにはこの布団はふかふか過ぎる。体に触れるすべてがやわらかく、現実と夢の境界を曖昧にしてしまっている。ふかふかふにふにと感触を確かめる。


 ん? なんだふにふにって。


 手の感触に違和感を覚え、パッと目を開ける。


「なにをおおおおおおおおおおおお!?」


 すぐ隣には赤毛の女性の顔があった。そう、ユフィアさんの。え、なんで。

 僕の声に起こされた彼女の瞼もパッと開く。目が合う。

 二人して固まる。


「おはよう」


 それは僕の声だったか、彼女の声だったか。


「ございます」


 わからなかったので続けてみた。


「あの、なんでここに?」

「ああ、それは昨日」


 と言いかけた彼女の視線が下にずれた。僕もその視線を辿る。するとそこには目を疑うような景色が広がっていた。なんと、彼女の寝巻越しにも大きいとわかる胸の上に、僕の掌がお邪魔していたのだ。いや、そんなわけはない。これは僕の手ではない。そう思って手を動かす。

 ふにふに。

 僕のでした。慌てて手を引っ込める。

 彼女の顔に視線を戻すと、頬を染めながらも苛立ちを顕わにしていた。もう一度念仏の用意をしなければいけないと思ったが、彼女の鉄拳制裁は訪れなかった。


「こ、これで貸し借りはなしだ」

「貸し借り?」


 昨日僕を張り倒したことに対してだろうか。


「昨日、君が倒れてから君を運ぶために脱衣所で服を着せなければならなかったのだが、その際にその、君の、その……アレに手が当たってしまった。わざとじゃない。わざとじゃないんだ! でも、その、いくらわざとじゃないとはいえ……意識がない人間にしてはいけないことをしてしまったと、申し訳ないと思っていたのだ。だからこれで貸し借りなしとしよう」


 いや、それは逆に申し訳ない。彼女の美しい手を自分のアレで汚してしまったわけなのだし。


「貸し借りなしにしていただけるのなら僕もありがたいのですが。……それで、なんで僕と一緒に寝ていたのですか」

「君の部屋まで運んできたのだが、容体が急変してはまずいとすぐそばで待機していた。していたんだが……その、体が冷えてしまって少しだけ温まろうと思って布団の中に入ったら、そのまま寝てしまったのだ。面目ない」

「いや、そこまでしていただけたのなら、寧ろありがとうございました」


 知らないうちに彼女を襲ってしまった、という最悪の事態になっていなくて良かった。

 それからユフィアさんは自室に戻って行った。さて、僕も準備をしなくては。


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