第5話 裂け目の名残

朝日が差し込む静かな住宅街。

 暁 星司はベッドに横たわりながら、天井を見つめていた。


 昨夜の出来事――裂け目への侵入、謎の影との遭遇、そして“影閃”というスキルの獲得。

 すべてが、まるで現実感のない夢のようだった。


 (……でも、夢じゃない)


 右肩には、影に斬られた痕がまだうっすらと残っていた。

 公園から帰宅後、鏡の前で何度も確認した。裂け目にいた時の服は元に戻っていたが、身体の痛みと符の燃えかすは残っている。


 スマホを開く。連絡もニュースも、いつもの日常。

 でも、システムウィンドウは、まだ目の前に呼び出せる状態だった。


 「ステータス確認」


 そう呟くと、空中に青白いウィンドウが浮かび上がる。



---


【暁 星司】

称号:なし

レベル:1

スキル:星影步(基礎)/影閃

クエスト:発生中なし

異界干渉度:1.4%(※注意)



---


 (干渉度……? これ、昨日は“無かっ筈だ…)


 よく見ると、右下に見慣れない警告アイコンが点滅している。


 【※警告:干渉度の上昇により、日常との境界が不安定になっています。】

 【裂け目発生の兆候あり。再侵入の可能性:中】


 星司は、眉をひそめた。


 (つまり、あの世界に触れたことで、“向こう”との距離が縮まってるってことか……?)


 寝ている間に何かが起きていたような感覚。微かに残る霧の匂いと、金属が軋むような音が耳に残っている。


 そんな時――


 ブゥン……


 耳鳴りのような振動音とともに、部屋の空間が一瞬だけ“歪んだ”。


 「……ッ!?」


 机の上のペン立てがわずかに揺れ、電球がちらついた。しかし、次の瞬間にはすべて元通り。


 まるで“裂け目”の一部が、この部屋に侵食してきたかのようだった。


 (これが、干渉度の影響……?)


 星司はシステムウィンドウを閉じ、立ち上がった。

 あの裂け目に再び入ることになるのか、それとも何かもっと大きなものが近づいているのか――。


 分からない。ただひとつ、確かなのは。


 もう、昨日までの「ただの平凡な日常」は戻らない。


 星司はタンスの奥から、あの時着ていたパーカーを取り出した。

 袖の内側、裂けた痕を指先でなぞりながら、決意を胸に深く息を吐いた。


 (今度こそ、ちゃんと“戦える”ようにしておく)


 その時、ウィンドウが再び開く。


 【新規クエスト発生:異常干渉反応の調査】

 【目的地:〇〇中学校跡地 ※警戒レベル:B】

 【報酬:???】


 


 静かに、そして確かに、“次”の戦いが始まろうとしていた。


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