第27話
ピンポンパンポーン
午後の授業中、食後の眠気を噛み殺しつつ教師の話を聞いていると突然チャイムの音が聞こえてきた。
何だ唐突に、テロリストでも学校に侵入したのか?俺が妄想で鍛えた学校に潜むテロリストをバッタバッタとなぎ倒していくシチュエーションがついに訪れたのだろうか。
「授業中に失礼します。生徒の呼び出しをします」
はっ、誰だか知らんが授業中に呼び出されるとはよっぽどのことをやらかしたのだろう。バカだねー
「1-Cの和泉鉄さん。至急校長室までお越し下さい。尚午後の授業は出席扱いにしておきます」
バカは俺だった。いやまて、最近は善行は積んでいても人様に迷惑をかけるようなことは何一つとしてしていないはずだ。
そうだ、堂々と行けばいいんだ。だって悪いことなんてしてないんだから。
「・・・ちょっくら行ってきます」
意に反して小さい声が出てしまった。でもしょうがないと思うんだ。小市民である俺がいきなりクラス中の注目を集めて胸を張れるだろうか、いやない。
なるべく体を小さくして後ろのドアを開ける。
「一体どうしたというんだ鉄よ。悪いことをしたのならお姉ちゃんも一緒に謝ってやるからさあ行こう」
ピシャリと開けたドアを閉める。注目を集めることを承知でクラスの前方に向かって歩き改めてドアを開ける。
「鼻先でいきなり閉めるなんてひどいな鉄は、でも不思議とそれも可愛く思えてならないよ。さあ手を出して」
「姉さん今は授業中だよ?なんでここにいるのさ」
「なんでって弟の一大事だからに決まっているだろう。それに授業の内容はすでに予習済みだからな。別に1回2回でなくっても何の支障もない」
支障だらけなんだが?呼び出しに保護者同伴なんて冗談じゃない。なんとかこのモンスターを帰さなければなるまい。
「俺も正直なんで呼ばれたのかさっぱりだけどさ、決して人道に反したことはしてないから安心していいよ。姉さんは自分のクラスでちゃんと授業を受けてくれないかな?」
「でもだって鉄が・・・」
「おとなしく帰ってくれたら1つだけなんでも言うこと聞くからさ」
「・・・ん?今なんでもって」
「俺ができる範囲でね。それに嫌なことはしないよ?」
「わかった、鉄の言葉を信用しよう。きっと褒められるに違いないぞ。家に帰ったら存分に甘やかしてやるからな」
頭上に音符マークを撒き散らしながら去っていく姉さん。あの人は暇なんだろうか?俺に構ってばっかりいないで自分の青春を謳歌してほしい。
なんだか行く前にすでに疲れてしまったが、無事に校長室の前にたどり着く。
ノックをしてみると入り給えと声が聞こえたのでノブを回して入室する。
「失礼します。1-Cの和泉です。いったい何のご用件でしょうか?」
見渡してみるとそこには2人の人物がいた。
1人は入学式の時につまらない演説を長々とぶちかましてくれたわが校の校長。名前は忘れた。
もう1人は先日俺に出合い頭にとんでもない暴言を吐いてくれた芙蓉の父親。名前は知らん。
「授業中に悪いことをしたね、でもこのお方が至急ということだったので呼び出させてもらったよ」
寂しい頭をした校長が俺に言う。へこへこしているところを見ると芙蓉の親父さんの方がパワーバランス的には上らしいな。多額の寄付でもしているのだろうか?
「・・・」
無言でこちらを見る芙蓉の親父・・・長いな芙蓉パパでいいか。
芙蓉パパは鋭い眼光でこちらをぎろりとみると突然スライディング土下座をかます。
「この度は誠に申し訳なかった!!」
なんだかこの突然の謝罪にはデジャブを感じるな。やっぱり親子なんだな。
なんとなく目の前の現実感のない光景から逃避したくてそんなことを考える。
「え?宝山様!?どうか顔を上げてください!なぜこんな小僧にいきなり土下座なんて・・・」
「黙れ!私は和泉君に謝罪をしているんだ!顔つなぎしてくれたことは感謝するが余計な茶々を入れるようならこの学校への支援は今後一切なしだ!」
土下座をしながら校長にそう言い放つ芙蓉パパ。言ってることは勇ましいが顔が絨毯にめり込むほど頭を下げているので声が聞き取りずらい。
「・・・わかりました。謝罪は受け入れます。ですから頭を上げてください」
「ありがとう!和泉君」
そしてすっくと立ちあがるとパンパンとスーツに着いた埃を払う。
「で、君はいつまでいるつもりだね?退出してくれて構わないよ」
一瞬俺に言ったのかと思ったが、芙蓉パパの目線は校長に向いている。
「え?いや私はこの部屋の主として・・・」
「私に2度言わせる気かね?」
「・・・失礼します。終わり次第連絡をいただきたい」
憮然と去っていく校長。一瞬かわいそうかもなと思ったが、あいつさっき俺の事小僧とか言ってたしざまあみやがれ。
「あの日は芙蓉の事が心配でたまらずにあの場に乗り込んでしまい、同行していたのが寄りにもよって男だったもので頭が真っ白になってあんなことを言ってしまった」
「はあ」
「そして暴言を吐いてしまった夜に突然激しい後悔が押し寄せてきたんだ。まるで頭の中を書き換えられるようだった」
やっぱりあのカードのせいか・・・まだ少し疑っていたが、やはりあれは願いが叶う魔法のカードなのだ。しかし性格を改変してしまったようで少し心が痛むな。
「今日はそのせいで仕事が全く手に付かなくてな。いてもたってもいられずにここに来たという訳だ」
「なんかすいません」
「何を言う!私が全面的に悪いことだ。それを私の事をなじりもせずにこの対応、素晴らしい」
「いえ、まあ謝罪は受け入れましたんで教室に戻ってもいいですか?」
「それだけでは私の気が済まない。何か望みはないか?欲しいものがあればできる範囲で叶えるぞ?」
やっぱり親子だな。解決策も似ている。
「別にないですね。まあこれからも娘さんとの付き合いを認めてくれればそれで」
「何!君は芙蓉と交際しているのかね?わかった。これからはお義父さんと呼んでくれて構わない」
「いや付き合いというのはそういう意味じゃ・・・」
「みなまで言うな、すべてわかった。ではこれからも清い付き合いをしてくれたまえ」
なーんにもわかっていない芙蓉パパがご機嫌で退出するを見届けるとドッと疲れが押し寄せる。
性格変わりすぎだろ。あのカードは廃棄したほうがいいのかもしれないな。
これからの会社経営や宝山家の生活で支障が出ないといいのだが。
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