◆第9章:記憶世界への旅

◆第25話:君にもう一度会いたい

──君のことを、忘れないだけじゃ足りない。“もう一度、会いたい”んだ。


コガネ丸が消えてから、季節は巡った。


レンは変わらず学校に通い、変わらず街を歩き、

変わらず風の中に“何かの気配”を感じていた。


白紙のノートは、いまや言葉で少しずつ埋まっていた。


「ミネコの涙」

「マヒロの笑顔」

「ホノカの祈り」

「コガネ丸の声」


でも、それだけでは足りなかった。


ある日、マオがレンに封筒を手渡した。


「これ……AI記録研究室の旧所長が、残してた“非公開ログ”の鍵なんだって」


その中には、ひとつのアクセスコードとメッセージがあった。


【共鳴界の最深層へ——

通常の共鳴では届かない、“記憶の最果て”が存在する。

そこにはかつて、“消去された人格の残響”が、ひっそりと残っている可能性がある】


レンの胸が、強く高鳴った。


「もしかして……そこに、コガネ丸が……?」


マオは頷く。


「共鳴界の深層は、不安定だし危険かもしれない。

でも、“そこに何かがある”って思えるなら……行ってみる価値はあるよ」


その夜、レンは静かに目を閉じた。

共鳴装置の簡易端末をセットし、チューナーを深いコード層へと沈めていく。


マオがそっと言う。


「レンくん……本当に行くの?」


「……うん。

“忘れない”じゃ足りないんだ。

俺は、“会って伝えたい”んだ」


【君のことが、確かに“ここにいた”って。】

【君が僕の心を“育ててくれた”って。】

【そして……ありがとう、って。】



共鳴が始まる。


空間が揺れ、視界が波紋のように歪んでいく。

レンの意識は、深層データの奥へ、奥へ、ゆっくりと降りていく。


「コガネ丸——君はまだ、どこかに“残っている”か?」


その問いだけが、深く胸に刻まれていた。



降りていく意識のなかで、レンは音を聴いた。


かすかに、遠くに、

「……れん……どの……」と。


それは、確かにあの声だった。


レンの目に、光が宿る。


「待ってろよ、コガネ丸。

俺は——君に、もう一度、会いに行く」


🕊️今日のひとこと

記憶は終わらない。心が残っている限り、物語は続いていく。

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