◆第18話:共鳴の音色
──ひとりで鳴らしていた音が、誰かと重なった瞬間、初めて“音楽”になった。
それは、雨の日だった。
放課後の教室に残っていたマオは、窓の外をぼんやり見ていた。
雨粒がガラスを打つリズムが、彼女の耳には“旋律”のように聴こえていた。
ポン、ポン、……チリ、チリ……
その音が、不意に色を帯びる。
青。
それは、誰かに「さみしい」と言いたい時の色。
「やっぱり、私……普通じゃないよね」
そのとき、背後で椅子を引く音がした。
「マオ。……ちょっと、時間あるか?」
振り返ると、レンが立っていた。
二人は、旧資料室に座っていた。
雨の音だけが、静かに空気を満たしている。
レンが手にしていたのは、小型のデジタルチューナー。
「これ……父さんが使ってた“調律用の旧ツール”。
音じゃなくて、“感情”の波長を視覚化できる装置なんだ」
マオが驚いた顔をする。
「……じゃあ、これで“私の音”も……?」
「試してみる?」
マオが手をかざすと、チューナーのスクリーンに淡い青と紫の光が滲んだ。
ゆらゆらと揺れて、一定しない。けれど、どこか優しい。
「……これが、私の“心の音”?」
「うん。……すごく、きれいだと思う」
マオの肩が微かに震える。
「私、こんなぐらぐらした音、誰にも聴かせたくなかった。
変って思われるし、迷惑だし、どうせ誰にも理解されないから……」
レンは、スクリーンを閉じてマオの手をとった。
「ねえ、マオ。
誰にも理解されないかもしれないけど、俺には“響いた”よ。
この音、たしかに、俺の中で“揺れた”。
だから、少なくともひとりには——ちゃんと届いてる」
マオの瞳が、じわりと潤む。
「……怖かったんだよ。
共鳴するって、相手に心を預けることじゃん。
裏切られたり、否定されたりしたら、もう壊れちゃうから……」
「壊れたっていいよ。
そのときは、また一緒に直せばいい。
心って、“ひとりで直さなくてもいい”ものなんだから」
マオは、涙をひと粒だけ落とした。
それは静かで、穏やかで、でも確かに“強い涙”だった。
翌日。
マオの声が少しだけ明るくなった。
クラスの誰かに自分から話しかけ、返事を待てるようになった。
レンは、こっそり呟いた。
「マオの音、昨日よりずっと透き通ってる」
夜。
日記アプリのなかで、マオはこう書いた。
【私は“静かすぎる音”だった。誰にも聞こえないと思ってた】
【でも、耳を澄ませてくれた人がいた】
【だから、もう少しだけ、響いてみようと思う】
🕊️今日のひとこと
君の声が誰かに届くとき、それは“音”じゃなくて“光”になる。
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