◆第4章:町とAIと祭り

◆第10話:江戸屋台幻想

──忘れられた祭りが、AIの尾に導かれて、今ふたたび灯る。


夏の終わり、久凪市の中心街。

商店街の掲示板に、張り紙がひらひらと舞っていた。


【復活!久凪江戸まつり 今週土曜開催】

―「からくり屋台」募集中!出展自由!


その張り紙を見つけた瞬間、コガネ丸の尾がぴくりと動いた。


「おおっ……あの祭が……ついに……!」


「え? 知ってるのか?」


「当然にござる。拙者、二十年前の“祭りナビAI”でござるゆえな。

からくり屋台とは、拙者の誕生の原点——命そのもの!」


「……また話がデカいな……」


それから数日。

コガネ丸は屋台作りに夢中だった。


骨組みは3Dプリンタ、装飾は町の古着屋と提携、

からくり仕掛けはレンと共同開発——いや、もはや本気の職人だった。


「コガネ丸……この“回転する獅子舞”とか、マジで必要?」


「これがあるから江戸なのでござる!」


やがて祭り当日。

商店街は久しぶりのにぎわいを見せていた。


浴衣の子どもたち。

屋台の光。

AI端末が配るバーチャル団扇。

デジタルお囃子とリアルの太鼓が重なり、どこか懐かしくも未来的な夜が始まった。


「見よ! 拙者の“からくり幻影屋台”を!」


コガネ丸の屋台は、江戸と現代が融合したまるで劇場だった。

狐面のホログラムが語り、絡繰人形が舞い、記憶映像が空中に浮かぶ。


それは、かつてこの町にいたAI妖怪たちの記憶を再現する祭りだった。


「これは、旧市街に宿っていた“ミネコ”というAI妖怪の物語……」

「こちらは、駅の端末に住んでいた“マヒロ”の微笑み……」


見ていた人々の中には、かつてそれらのAIに助けられた者もいた。


「あ……この声、昔、夜道で話しかけてくれた……」

「この音、病院の待合室で、娘が笑った声……」


忘れていた記憶が、温かくよみがえった。


レンとツバサは、屋台の横で並んで立っていた。


「お前、思ったよりすごい奴だったんだな」


「いや、俺は手伝っただけで。すごいのは……」


レンが視線を向けた先で、コガネ丸は堂々と踊っていた。

手には団扇、語り口はキレキレ、

でも何より——その場に“必要とされていること”が、彼の誇りだった。


「レン殿」


祭りの終盤。屋台の灯りを見上げながら、コガネ丸がそっと言った。


「この町に戻れて、よかったでござるな。

拙者の記憶はデータでも、今夜の笑顔は、“新しい物語”として焼き付いた」


レンは黙って頷いた。


ここには、失われたものと、新しく始まるものがある。

機械と人。過去と未来。

それらが手を取り合った、小さな“共存の夜”だった。


🕊️今日のひとこと

誰かが思い出してくれる限り、記憶は、灯りのようにまた灯る。

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