本能の火花

白根レンジの家、日曜の朝

白根レンジは自室の床に寝転がり、額に汗を浮かべながら腕立て伏せをこなしていた。今日、練習はない。エアコンのブーンという音と筋肉の鈍い痛みだけ。レンジは一時停止し、座り込んで、バレーボールで鍛えた腕が無意識にグッと締まる。(チームにどうやって貢献すりゃいいんだ?)頭がグルグル、苛立ちが募る。(バスケ始めたばっかだ。マジで何もわかんねえ。)

水筒を掴み、グビッと飲んで天井を睨む。(ドリブルはグラグラ、オフェンスなんて皆無。コートで何ができるんだよ?)自信がいつもなら漲るのに、今はズタズタ。スマホがブッと鳴り、思考が途切れる。田中瞬からのメッセージ:よお、レンジ、今日ヒマ?

レンジの目がパッと輝き、ニヤリと笑みがこぼれる。(瞬?ナイスタイミング!)指が飛ぶようにタイプ。「おお、マジヒマ!実はちょっと助けてほしいことあって…」

瞬の返信は速攻:「助ける?いいけど、金なら俺ガチでカツカツなw」

レンジは笑って首を振る。「wいや、金じゃねえ。バスケのこと。」

瞬の返事が謙遜気味:「いや、俺もプロってわけじゃねえけど、できることならやるよ。龍鳳の門で会う?」

レンジは一人で頷き、ジャケットを掴む。(瞬ならアイデア持ってる。俺に何ができるか、きっとわかる。)「おっけ、そこで!」

龍鳳高校の門の外、正午

龍鳳高校の門の外は、日曜の静けさが重く、いつもの練習の喧騒はない。レンジは門柱にもたれ、長身で長い影を落とす。瞬がジョギングで現れ、ちょっとシワッたトラックスーツで軽く手を振る。

「んで、どした?」瞬が息を整えながら聞く。「助けてほしいって?」

レンジは首の後ろをポリポリ、いつもの強気さが萎む。「うーん…なんか、チームの足引っ張ってる気がしてさ。マジで何も貢献できてねえ。」

瞬が目をパチクリ、驚く。「足引っ張る?んなわけねえよ、レンジ。お前がいるだけでチームめっちゃ上がってるって。存在感ヤバいぜ—数ヶ月後、どんだけ化けるか想像してみ!」

レンジは眉をひそめ、納得いかず。「そりゃ嬉しいけど…バスケ、ほんと何もわかんねえ。オフェンスがゴミすぎる。ガチなディフェンススキーム持ってるチームにバレちまうぜ。」

瞬の目がキラッと光る、感心。(ディフェンススキームのことまで考えてんのか?)「うん、まあ、オフェンスは今確かに弱い。そこは間違ってねえ—強いディフェンスのチームならお前を狙うかも。でも、鍵はポジショニングだよ。」

レンジが首をかしげる。「ポジショニング?」

「こう考えろよ、」瞬がまるでホワイトボードに描くように手を動かす。「ディフェンダーがお前を絶対マークしなきゃいけない位置にいれば、足手まといじゃねえ。相手を動かすんだ。」

レンジの眉がグッと寄る。「例えば…ゴール下?」

「その通り!」瞬がニッコリ、指を差す。「お前、ゴール下じゃ脅威だろ。誰もお前をフリーにしねえよ。まあ、チームメイトのドライブレーンが詰まるって欠点もあるけど、そんくらいなら調整できる。」

レンジの目が細まる、頭で整理。(レーン詰まらせんのはマズい…皆に合わせさせるわけにいかねえ。)一瞬止まり、ポロッと。「待て…シュート?まだシュートなんて試してねえぞ。」(それ、いけるか?)

瞬はレンジの目のキラメキを捉え、笑う。「まったく、始めたばっかでそこまで考えるかよ!でも、ぶっちゃけ、シュートのことは俺に聞かない方がいいぜ。中村先輩か葉山先輩のがマシだ。」

レンジの顔がパッと明るくなる。「なあ、瞬、千葉の街角にゲーセンあんじゃね?」

瞬は目をゴロッと、うめく。(マジかよ、今かよ?)「はー、わかった、行こうぜ!」

千葉のゲームセンター、午後

千葉の街角のゲームセンターはピカピカの光とアーケードの音でざわつく。レンジと瞬は人混みをかき分け、バスケシューティングゲームに向かう。始めようとした瞬間、ネットをシュッ、シュッ、シュッと切り裂くリズミカルな音が耳を引く。奥の方で、葉山翔吾がガチ集中、顔に汗が光り、髪も汗で濡れて、まるでレーザーみたいな目で次々シュートを決める。

瞬が手を振る。「葉山先輩!」

反応なし。葉山の目はゴールに張り付き、リズムが途切れない。瞬がもっとデカい声で。「葉山先輩!」

葉山の集中がブレ、シュートがリムにカーン。(何だよ!?あと少しで記録だったのに!)と歯を食いしばる。ゲームのブザーがビーッと鳴り、終了。葉山がクルッと振り返り、イラついた顔。「さっきから何だよ?高スコアあと一歩だったんだぞ!」

瞬が縮こまる。「すみませんでした、先輩、聞こえてないかと思って。」

葉山がフンッと、額を拭う。「お前のデカい声が聞こえねえわけねえだろ。んで、お前らここで何してんだ?」

瞬がレンジをチラリ。「レンジがシュート覚えようって、ゲーセンならいいかなって。」

レンジがちょっとバツ悪そうに頷く。「うん、まあ、悪くねえかなって。」

葉山が片眉を上げ、ニヤリ。「ここで100万使っても何も覚えねえぞ。シュート習うなら本物のコート行けよ。」

瞬が腕を組み、ニヤッと返す。「いや、じゃあ先輩、なんでここでシュート撃ってんの?」

葉山がプッと笑う。「練習してねえよ、バカ。高スコア狙ってんだ。もうちょいだったのに、誰かさんのせいでダメだったな。」と瞬に軽く睨み、ゲーム機を指差す。

瞬がペコッと頭を下げる。「ほんとすみませんでした…」

ふと、瞬がリーダーボードを覗き、“KY”ってニックネームのトップスコアに目がいく。「なあ、先輩、この‘KY’って誰?ずっとトップキープしてんすけど。」

葉山が肩をすくめ、首をポリポリ。「さあな。最初、中村先輩かと思ったけど、中村先輩、ゲーセンでバスケするタイプじゃねえし。‘KY’も中村先輩っぽくねえ。ま、俺コイン切れたし、もう終わり。」歩き出すが、ピタッと止まり、ニヤリと振り返る。「おい、レンジ、シュート習いたいって言ったよな?一緒に来いよ、二人とも。」

レンジと瞬がキョトンで顔を見合わせ、頷く。「え、はい、先輩。」とレンジ。

ゲーセンの外、ピカピカの黒いリムジンがスーッと止まり、午後の陽にキラキラ光る。執事が降りてきて、キビキビと頭を下げる。「お疲れ様です、お迎えに参りました、翔吾様。」

瞬がバッグをギュッと握り、顎がガクッと落ち、目が皿に。(マジかよ!?葉山先輩、いつからこんな乗り物!?)レンジもポカンと瞬き、唖然。葉山がリムジンにサラッと乗り込み、気軽に手を振る。「乗れよ、二人とも。レンジ、シューターにしてみせるぜ。」

リムジンのエンジンがゴロゴロ唸り、瞬とレンジが乗り込む。頭は疑問でグルグル、葉山の知らなかった一面を匂わす豪華さに、バスケ以上の何かが待ってる気がした。道の先は、ただのレッスンじゃねえぞって約束してるみたいだった。

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