前夜

夕方の空気がひんやりしてる。龍鳳高校の熱気がレンジの頭に残ってる。家に踏み込む。味噌汁の香りがふわっと鼻をつく。静けさを切り裂く温もりだ。母ちゃんがコンロ前。小柄で40代前半。短い黒髪に白髪がチラホラ。温かい茶色の目が鍋に集中してる。紺のセーターに白いブラウス、柔らかい灰色のスウェット。春の夜に合う楽な服。色褪せた赤いエプロン。小花の刺繍が優しさをにじませる。「ただいま」とレンジ。擦れたスニーカーを脱ぐ。家のぬくもりに滑り込む。


「おかえり。もうすぐ飯だよ」と母ちゃん。目を上げない。レンジが頷く。日常に感謝だ。階段を上がる。


部屋にバッグをポンと置く。新品の龍鳳高校の制服が机に並んでる。部屋はシンプル。バレーのネット図が壁に。棚に擦れたミカサのボール。ベッド脇にスポーツ雑誌が少し。ベッドにドサッ。筋肉の張りが解ける。視線が棚へ。中学のバレーチームの写真が傾いてる。大勝ち後の笑顔。レンジが中央でMVPトロフィー持つ。誇らしい笑みだ。最後のブロック、深夜の練習、仲間との絆が蘇る。


スマホを手に取る。昔のグループチャットを開く。指が一瞬止まる。「みんな、ありがとう。試合も笑いも、最高のチームだった」と打つ。送信。


すぐ返信。「おいレンジ、湿っぽいな!死ぬのか?」リベロの健太だ。笑い絵文字がドバッ。レンジがニヤッと笑う。「バカども」と呟く。胸が温かくなる。恵まれてるって分かってる。「レンジ!飯!」と母ちゃんの声。「うん、今行く!」と叫ぶ。スマホをロック。目が鋭くなる。跳ね起きて下に降りる。


一方、街の反対側。瞬がアパートのドアをカチッと開ける。「ただいま!」と声が響く。


「おかえり、瞬。お腹すいた?」と母ちゃんの声。キッチンからだ。細身で30代後半。長い茶髪をゆるいポニーテールに。疲れたけど優しいヘーゼル色の目。瞬が受け継いだ目だ。緑のカーディガンに白いTシャツ、黒レギンス。春の夜に合う楽な服。銀のペンダントが揺れる。シングルマザーの静かな強さだ。


「腹ペコ」と瞬。バッグをドア脇にポイ。キッチンへ。


テーブルで飯。ご飯と焼き魚だ。瞬がまくし立てる。「今日、龍鳳高校行った。部活ヤバかった。バスケ部、絶対熱い。入りたい!」


母ちゃんが眉を上げてニヤッ。「一日待てなかったの?」瞬が笑う。「無理。ガチでやってた。エネルギーすごい」母ちゃんが首傾げる。「チーム強い?」


瞬が肩すくめてモグモグ。「試合は見てない。ドリル音だけ。でも190センチのデカい奴いた。バスケ入るだろ」母ちゃんがニコッ。「お前、才能見る目あるね。楽しそう」瞬が頷く。皿を空ける。「ごちそうさま」と立ち上がる。


部屋に戻る。スマホをチェック。部屋はバスケ愛のカオスだ。壁に選手のポスター。机上にミニゴール。角に擦れたスニーカーの山。父ちゃんから新着。「明日頑張れよ、瞬。高校初日って大事だぞ」瞬が笑って返す。「サンキュー、父ちゃん。明日から高校生。うまくいくといいな。次帰る時、カリーのジャージ忘れんなよ!」送信。ロック。しばらく天井見つめる。明日の重みがズシッとくる。新章だ。準備OK。


夜が深まる。レンジと瞬、ベッドでゴロゴロ。頭がぐるぐる止まらない。


レンジが目を開く。部屋は暗い。窓から街の光がチラッ。横に寝返る。天井ガン見。明日か。今日の断片がフラッシュ。新顔、期待のざわめき。静けさが落ち着くけどザワつく。


瞬も眠れない。部屋に街のノイズが響く。スマホ手に持つ。中学バスケチームの写真スクロール。高校でどうなるか考える。スマホをポイ。天井見つめる。ワクワクとドキドキが混じる。外は寝てる。俺は目が冴える。明日が待ち遠しい。


時間が進む。レンジと瞬、やっと頭が落ち着く。明日の重みが静かに眠りに誘う。でもその先に、高校が影で待ってる。押し寄せる準備。二人を予想外の捻りにぶつける準備。

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